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2017-11-10 (Fri) 〈方舟〉アルタンサー

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 アルタンサーは、エルダーの小規模な〈方舟〉である。〈エルダーの失墜〉を生き残ったが〈恐怖の眼〉に囚われ、〈不死鳥の将〉モウガン・ラーだけが逃げのびた。モウガン・ラーの故郷が〈恐怖の眼〉に呑まれてから地球時間で一万年の後、999.M41に〈強奪者〉アバドンが〈眼〉の奥底から第十三次〈黒き征戦〉を押し出した。悪夢の領域が渾沌の兵団を物質宇宙に吐き出したあとには、大きく開いた〈歪み〉の亀裂が残された。こうして〈眼〉がまだ開いている間に、モウガン・ラーは同胞の生き残りを見つけるべく、悪意に満ちた辺獄への危険な探索を敢行した。やがてモウガン・ラーは故郷たる〈方舟〉を発見し、生きのびていた者たちを〈恐怖の眼〉から脱出させると、共に渾沌の軍勢に戦いを挑んだ。しかしながら、この失われていた同族の帰還に対して、他の〈方舟〉から歓待の声はあがらなかった。謎に包まれたアルタンサーのエルダーはおおっぴらな疑惑と敵意を向けられた。なぜなら、一万年にもわたって渾沌の猛威から無傷なエルダーなどありえないと思われたからである。

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 アルタンサーは、〈恐怖の眼〉に関係が深いことから、〈方舟〉ウルスェの姉妹船として知られている。〈方舟〉アルタンサーが用いる世界聖印は「断たれた鎖」と呼ばれている。カーノスとイシャーがカインの牢獄から逃げ出したというエルダーの神話に依っているのみならず、ヴァールを金床に縛り付けていた鎖がちぎられた話も示している。このシンボルはアルタンサーが〈恐怖の眼〉から謎めいた脱出を果たしたことを思うとき意味深長である。世界聖印の上に置かれた「毀れた永劫の輪」は、永遠の地獄からかろうじて脱出を果たして以来、新たな紋章としてこの〈方舟〉に採用されている。

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2017-11-04 (Sat) バダブ戦争(10)

[]バダブ戦争(承前) バダブ戦争(承前)を含むブックマーク バダブ戦争(承前)のブックマークコメント

ゲイレン制圧

 910.M41の初頭は、バダブ戦争を恐怖の結末に導く来たるべき嵐の前の最後の静けさであった。〈忠誠派〉陣営の戦団の多くは相当な損害を被っており、今やより暗い噂の多いスペースマリーン戦団に交替しようとしていた。〈渦圏〉はまもなくその長い激動の歴史の中でも類を見ないほどの虐殺に見舞われることになる。六年の長きにわたって孤立してきたゲイレン星系は幾度も争奪が繰り返された至宝であった。ゲイレン星系はファイア・ホーク戦団と〈分離派〉連合軍との間で戦われた大戦闘の場所であり、双方に多大な犠牲が出た上、ゲイレン第二惑星の生命維持ドームが荒廃した結果、隣の辺境惑星ゲイレン第六惑星に大量難民が押し寄せた経緯があった。

 〈軍令官〉カルブ・クランの直接指揮のもと、〈忠誠派〉の軍勢はゲイレン第六惑星の秩序を回復し、将来の禍根を摘むために針路を変えた。〈異端審問庁特使〉フレインの助手である異端審問官クラムナー率いる〈粛正の団〉部隊に随伴されたこの作戦の唯一の条件は、惑星が充分な中核人口を保持して居住可能な状態にとどめ、今後も〈帝国〉の戦争遂行に協力できるようにすること、だけであった。惑星奪還計画はこの条件に沿って、方面軍司令官であるサンズ・オブ・メデューサの“鉄の戦士長”ヴェイランド・カルの指示のもと、策定された。サンズ・オブ・メデューサはゲイレン第六惑星オールド・シティ郊外の上陸予定地点周辺に軌道爆撃を実行。続いて三個中隊がオールド・シティ外縁に着陸して包囲し、あらゆる抵抗を撃砕した。

 三昼夜の間に、サンズ・オブ・メデューサは補給物資と〈戦闘者〉の増援を降下させて、新たな要塞の建築に着手した。四日目の朝、生き残った数百万人の住人の間に恐怖が広がった。この恐怖はサンズ・オブ・メデューサが計算の上でよく用いる戦術である。警告もなく、戦団は大規模な機甲部隊の強襲を開始した。これはライノ、レイザーバック、ランドレイダー、ドレッドノートで構成され、空にはランドスピーダーが飛び交った。エメラルド色の鎧をまとった死神の紋章の横には、異端審問庁の真紅に彩られたキメラとリプレッサーが付き従った。車両の拡声器から異端審問官がゲイレン第六惑星全住民の即時降伏と即決裁判を要求した。住民の一部は無謀にも〈皇帝陛下の憤怒〉の体現に襲いかかろうとしたが、サンズ・オブ・メデューサに惨殺され、またある者たちは陣地に籠もったり都市から逃げだそうとしたりした。そういった人々は巡回するランドスピーダーとヴァルチャー・ガンシップによって容赦なく殺害された。市内で抵抗を試みた者は包囲殲滅された。号泣する生存者たちは異端審問庁の部隊に連行されて、〈帝国〉の上陸地点に築かれた異端審問庁の要塞で尋問と裁判の運命を待つことになった。

 オールド・シティは、サンズ・オブ・メデューサの攻撃開始から56時間で〈帝国〉に奪回された。まもなく虐殺の報せがゲイレン第六惑星全体に広がり、惑星全体に恐怖のとばりが降りた。そして、何百万人という現地人と難民が、恐怖の中で生きるよりも死刑判決を選んで、同様に降伏した。オールド・シティの廃墟はゲイレン第六惑星の住民を幽閉・矯正するための檻として再建された。全体として、ゲイレン戦役は成功をおさめた。オールド・シティ住民の大半は殺戮されたが、最終的な死者数は長期にわたる惑星規模の消耗戦に比べれば微々たるものだった。驚くべきことに、〈粛正の団〉は慈悲深かった。惑星住民の大多数にその罪と違反への罰として、終身懲役を課したのである。その結果、帝国兵務局は〈渦圏〉の屈強な住人から多数の懲罰兵団を新設することができたのである。それ以外の住民はゲイレン第六惑星での労働にたずさわるか、〈渦圏〉の他地域に送り込まれて復興事業に従事した。サンズ・オブ・メデューサは直後にゲイレン第六惑星を離れ、以後この星は数世代にわたって〈帝国〉のために懲役を行う刑務所惑星となったのである。

深海の鮮血(910.M41)

 910.M41に予告もなく到着した、砲撃痕だらけの正体不明のスペースマリーン打撃巡洋艦は、太古の、しかしまだ有効な〈帝国〉識別プロトコルで自身を認証した。その艦名は〈脅かす巨獣〉(レヴィタス・ヴェクス)、そしてその到来は後にバダブ戦争における流血と蛮行の同義語となる名前を持つ軍勢の前触れであった。正体不明のスペースマリーン軍は〈忠誠派〉陣営への参戦を表明して、地球からの直接の要請に応えたのだと主張した。彼らが自ら名乗った戦団名は古代上位ゴシック語で「カーチャドロンス・アストラ」、または単にカーチャドロン。下位ゴシック語では〈宇宙の大鮫〉を意味する言葉であった。そして、正式な〈忠誠派〉への受け入れと戦闘区域に入って血を流す資格を要求した。カーチャドロンの指揮官タイベロスは到着後ただちに、バダブ戦争を遂行する〈異端審問庁特使〉のもとに参じて、この戦団が大昔の〈地球至高卿〉と異端審問官によって与えられた権利と称号を認められていることを証明する勅許状を提示した。タイベロスはサイキック探査と遺伝子サンプリング調査にも応じた。〈異端審問庁特使〉はカーチャロドンを承認した。総司令官であるレッド・スコーピオン戦団のカルブ・クラン〈軍令長〉も、カーチャドロンが戦列に加わることを認めたが、それでも彼らが〈帝国〉外を長らく航海してきたことによる忠誠心の揺らぎと〈戦いの聖典〉からの逸脱への憂慮を消せなかった。サメが血に引き寄せられるように、バダブ戦争が最も血塗られた段階に入ったまさにその時にやってきたカーチャドロンの出現は、多くの者に疑念を抱かせずにはいなかった。

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トランキリティー戦役(910.M41)

 910.M41、マンティス・ウォリアー戦団の兵力は大きく減少していたが、カルブ・クランは、〈忠誠派〉がバダブ星区に全力侵攻するときに、側面に彼らを残したまま進む愚を充分に承知していた。〈軍令長〉はすでに、エンディミオン星団への新たな攻勢を実施するべく部隊の配置変更を行っていたが、カーチャドロンの到着に伴って、総司令官は想定外の戦力を手にすることになった。そこで、彼らの野蛮な獰猛さをマンティス・ウォリアーとその領地に向けて解放することにした。カーチャドロン艦隊は銀河平面上でシガード星系の直上で〈歪み〉を脱けた。それはシガードの荒れ狂う膨張太陽に危険なほど近い距離であり、太陽フレアによって自分たちの存在を隠蔽したのである。数十の打撃部隊に分かれた灰色のスペースマリーンたちは、シガード星系をその激怒のはけ口の最初の生け贄として、無数の小惑星帯コロニーや要塞、船舶部族を荒廃させていった。カーチャドロンは星系全体で荒れ狂い、何千年もかけて築き上げられ、異種族や海賊の脅威に耐え抜いてきたあらゆるものをわずか数日で滅ぼし去った。この荒っぽい作戦の後、〈帝国〉海軍の偵察艦は、星系全体が廃墟と化しており、ヴォクス通信には死者と沈没船からの不気味な不協和音が響くばかりであると報告した。また、カーチャドロンは装備、資源、そして人間そのものまでも略奪と回収の対象にした。後にいくつかの権威筋が結論づけたことに、カーチャドロンの最初の標的に豊かな宇宙コロニーとインフラを備えていたシガードが選ばれたのは、そこがマンティス・ウォリアーと長いつながりがあったというだけでなく、外なる暗闇での知られざる長き航海を経てきたカーチャドロンが、戦争に参加するにあたって回復するために必要な報酬を求めていたからであった。

 カーチャドロンはマンティス・ウォリアーを擁すると言われている星団内の惑星を計画的に滅亡させ、この〈分離派〉戦団はこうした星々を守るために兵力を集中させなければならず、〈忠誠派〉に対する一撃離脱戦法を使えなくなった。この戦略によって、カーチャドロンは敵を探して星団じゅうを探し回ったり、地の利を得て待ち受ける敵に立ち向かったりする必要から解放された。まず、カーチャドロンは封建惑星アイブリスを荒廃させ、そのインフラと支配層を滅ぼすと、続いて惑星上に散在する集落と遊牧民を夜襲によって虐殺した。こうしてアイブリスはこの惨劇におびえきったわずかな生き残りしかいない荒野と化した。この野蛮な戦団は次に汚染された工業惑星エンディミオン・プライムを襲撃した。ここではファイア・エンジェル戦団の小部隊が、荒れ果てた工業施設群の間にマンティス・ウォリアーに率いられた反乱軍を追い詰めていた。カーチャドロンはファイア・エンジェルの存在を意に介せず軌道爆撃を行い、何百もの灰色の降下ポッドが塵芥に覆われた惑星に降りたち、大虐殺が行われた。

 この惑星を守る誓いを立てていたマンティス・ウォリアーは反応せざるをえず、カーチャドロンの蛮行を止めるためにエンディミオンの救援に向かった。マンティス・ウォリアーの戦闘技術はカーチャドロンに劣るものではなかったが、あまりにも数が少なく、戦いの趨勢を変えることはできなかった。首席ライブラリアンのアハズラ・レドスに率いられたマンティス・ウォリアーは退却を拒んでこの惑星を守るために死んでいった。それはカーチャドロンの指導者タイベロスの予見したとおりであった。カーチャドロンは惑星クスサルとラーギトールでもこのやり方を繰り返し、続いてトランキリティー星系の双子惑星そのものにも襲いかかった。どの戦いでもマンティス・ウォリアーは包囲された惑星への救援に駆けつけなければならず、有効な戦力をどんどん削られていった。今や疲弊しきったこの戦団は有力な戦闘単位としては存在を停止した。しかしそれには大きな代償が支払われていた。このトランキリティー戦役の結果、甚大な損害を被ったファイア・エンジェル戦団はこの戦争からの撤収を許可された。この件が、ファイア・エンジェルがカーチャドロンに対して憤激した大きな理由である。トランキリティー戦役の間を通して、両戦団はとるべき手段について何度も衝突して、大きな禍根を残したのだった。味方の行為に驚愕したファイア・エンジェルは名誉をもって残存勢力とともに撤収し、本拠地惑星で大損害を受けた戦団の回復に努めたのである。

 エンディミオン星団の脅威を制圧したカーチャドロンは再配置され、その艦隊は〈忠誠派〉の後方の警邏にまわされた。バダブ星団への侵攻に先立つ平定はミノタウロスとレッド・スコーピオン戦団に任された。エンディミオン星団の住民にとって不幸なことに、彼らの惑星に災厄が襲うのはこれで終わりではなかった。というのも、カーチャドロンは後年、戻ってきて彼らに蛮行のとどめをさすからである。

(続く)

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2017-10-26 (Thu) バダブ戦争(9)

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ラメンター戦団の破滅(908.M41)

 〈異端審問庁特使〉フレインは、ラメンター戦団の移動と配置についての大量のデータを〈忠誠派〉に提供して、そのパターンを分析した。908.M41までに、ラメンター戦団はすでに多大な損耗を被っていたが、未だ侮りがたい戦力を備えていた。そこで、彼らを〈総統〉陣営から孤立させて戦争から脱落させる計画が練られたのである。フレインの優秀なスパイ網によって獲得された情報を用いて〈忠誠派〉は、ラメンターが〈総統〉によって南部側面を守る盾として使われており、〈蒼白の星々〉を支配する〈忠誠派〉に立ち向かっているということと、アストラル・クロウ戦団の大部分はバダブ近傍に予備戦力として維持されていることを、すばやく看破した。艦隊を根拠地とするラメンターが被った損害は、バダブ星区南部を守るために絶え間なく派遣されたことと、〈分離派〉の補給戦団の護衛を務めたことによるものだった。ミノタウロス戦団は最も効果的な機会を待って戦力を集中させた。そしてラメンター戦団の戦団要塞旗艦(チャプター・バーク)〈涙の母〉(マーテル・ラクリマールム)の位置が、補給のために野蛮惑星オプテラ軌道上であることが判明したとき、その機会がやってきた。

 ミノタウロス戦団はただちに強襲部隊を派遣して敵艦を攻撃し、メインドライブを破壊して星系から脱出させないようにした。ラメンター戦団はあらゆる代償を払って戦団要塞旗艦を防衛せざるをえなくなった。というのも、それには戦傷者と貴重な遺伝種子が積載されていたからである。要塞旗艦への攻撃が続く中、ラメンター艦隊の大半がオプテラ星系に急行した。かくして、ミノタウロス戦団との十七時間におよぶ激烈な艦隊戦が起こった。ミノタウロスは甚大な損害を受けたが、やがてその荒っぽさと数の優位によってラメンターを圧倒した。ラメンター戦団は散り散りになり、わずかに生き残った者たちも貴重な要塞旗艦の撃沈よりはと降伏を選んだ。ラメンター艦隊のほとんどは撃破されて宇宙を漂流していた。ミノタウロス戦団はその損害の埋め合わせとして、行動不能に陥ったラメンター艦隊と死者の武装の略奪権を主張した。生き残ったラメンターたちはセーガン第二惑星の夜の側の軌道上をまわる監獄船に収監された。彼らは幽閉の間に発狂したと噂されている。終戦までセーガンの軌道上に閉じ込められたラメンター〈戦の兄弟〉の生き残りはわずかに311名。戦闘中に他の場所に派遣されたラメンターは百人未満と推定されている。壊滅的な損害を受けたラメンター戦団は〈分離派〉の戦列から事実上脱落した。ラメンターの喪失は〈分離派〉にとって多大な兵力減少をもたらした。

オングストローム事変(908.M41)

 908.M41、〈忠誠派〉は惑星オングストロームで進行する事態に対応すべく介入を行った。そしてこれはバダブ戦争の中でも重要な作戦のひとつとなった。〈帝国技術局〉の独立主権惑星であるオングストロームは〈渦圏〉東部に位置しており、戦争の間一貫して中立を保って、両陣営の参加要請にも一切応えようとしなかった。いがみあう〈帝国〉諸派閥間の“内紛”に関与する理由は何もないと〈賢人〉は考えていたからである。オングストロームは平時と同様に業務を遂行した。それには、三年ごとに惑星系辺縁部で〈帝国〉代表団に、高度な兵器と精錬された鉱物の“成果”を引き渡すという大昔からの契約が含まれていた。〈賢人〉は、〈帝国〉のどの派閥の代理人が受け取りに来ようと一切干渉しないと公言していた。彼らの関心は契約の義務を果たすことだけというのである。かつて、この契約に基づいて〈渦の番人〉に重要資源が提供されていたので、〈総統〉のしもべたちが引き続きそれを受け取るのに何の不都合もなかった。そこに、レッド・スコーピオンサラマンダーが秘密攻撃計画を立てた。小規模な精鋭部隊を派遣して破壊工作を行い、〈分離派〉が独立工業惑星オングストロームから“成果”を受け取ることを妨害しようというのである。その結果起こった混乱と破壊の中、オングストローム技術局は自領内での紛争勃発に憤激して、両陣営に攻撃をかけて星系から追い払った。これは〈忠誠派〉の戦略的大勝利となった一方、好戦的なことで悪名高いオングストローム技術局が戦争に関与する理由を与えてしまったのである。彼らは報復としてゲイレンとアイブリスに軍艦と陸軍を派遣したが、〈地球特使〉の調停によってオングストローム技術局への損害賠償が保証されたことで、事態は終息した。慎重を期する総司令官カルブ・クランは予防策としてファイア・ホーク戦団と〈猛禽の王〉機動要塞を追撃艦隊に随伴させて、他の〈忠誠派〉戦団とともに、終戦までの間、星系外縁の通商封鎖を行わせた。

〈忠誠派〉の優位確立(909.M41)

 909.M41までに〈忠誠派〉は〈渦圏〉の〈歪み〉大航路を制圧して、急速な兵力展開を可能とし、反乱を起こした惑星や基地の多くを屈服させた。オングストローム事変の影響は〈総統〉の勢力圏を半減させて〈分離派〉を封じ込め、エンディミオン星団とバダブ星区に分断した。予測不能なエグゼキューショナー戦団の兵力だけが〈分離派〉封じ込め区域の外で〈忠誠派〉支配にとって重大な脅威となっていた。これ以降、大きく戦力と艦艇を減らした〈分離派〉は事実上、いくつかの堅く守られた星団の周辺に閉じ込められ、散発的な襲撃作戦の他は、一連の防衛戦を戦うしかなくなった。909.M41の終わりまでに、〈帝国〉の諜報員の間では、〈総統〉の暴力とパラノイアが悪化しており、まだ自分の支配下にある諸惑星への暴虐もひどくなっているという噂が流れている。

 マンティス・ウォリアー戦団は、ファイア・エンジェルとサンズ・オブ・メデューサの連合軍による〈忠誠派〉の制圧作戦に抵抗するゲリラ戦を戦うしかなくなっていた。トランキリティー、アイブリス、シガードといった星系で散発的な激戦が戦われた。この中で〈忠誠派〉の敗北といえば、ファイア・エンジェルの打撃巡洋艦〈昇る極星〉(ポラリス・ライジング)が、預言者めいた首席ライブラリアンのアハズラ・レドスに率いられたマンティス・ウォリアーに襲撃された事件がある。彼らはプラズマ主反応炉に損傷を与えて撤退し、二隻のオルクの殺戮巡洋艦(キル・クルーザ)の手に任せたのである。ファイア・エンジェルは忌まわしいグリーンスキンどもに最後まで戦い、殺戮巡洋艦の一隻を沈黙させ、残った敵艦から乗り込んできたオルクに立ち向かった。オルクがファイア・エンジェル艦のデッキになだれ込んだとき、マンティス・ウォリアーは大損害を受けていたオルク軍を脇から奇襲して全滅させた。生き残った37名のファイア・エンジェルはシガード第六惑星に座礁して、生き残りの施療師とメド・サーヴァイターの治療を受けた。一方で打ちのめされた〈昇る極星〉はマンティス・ウォリアーに戦果として持ち去られたのである。

 野蛮なエグゼキューショナー戦団は〈忠誠派〉の警邏部隊と輸送船団にとって悪夢であり続けた。また、無数の拠点と監視基地も破壊していった。43隻の商船と11隻の軍艦が拿捕されるか撃沈されたのである。また、ベレロフォンズ・フォールとカイロへの長距離襲撃行も敢行した。〈渦圏〉南部では荒ぶるミノタウロス戦団に挑戦し、クロウズ・ワールド星系の無大気の衛星ユージールで激しい戦車戦が戦われた。エグゼキューショナー戦団の策源地の位置は〈忠誠派〉には不明のまま推移したため、エグゼキューショナーは意のままに襲撃を行い、レッド・スコーピオンとミノタウロスに戦いをしかけることで、〈忠誠派〉の輸送をおびやかし、〈忠誠派〉の戦果を損耗させた。909.M41の末頃、〈渦〉の〈分離派〉は大半が封じ込められていたが、戦争自体は終結にはほど遠かったのである。

 〈忠誠派〉は、戦争の次の段階は特に血塗られたものになるだろうことを悟っていた。容赦の無い惑星浄化、焦土戦術、惑星を壊滅させる攻略戦の時期になるだろうと。すみやかな勝利を確実なものにするのであれば、そうした作戦の準備と増援には長い時間が必要であった。しかし、総司令官カルブ・クランとその幕僚たちは、攻勢までにあまり長く待つことはできないことを知っていた。というのも、一日延びればそれだけ〈分離派〉が堅く守りを固めて消耗を強いる余裕が増えるからである。クランは、ルフグト・ヒューロンに軍を再建し、作戦を立て、準備をさせてはならないと考えていた。

(続く)

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2017-10-24 (Tue) インペリアルナイト小景

ソース:Codex Imperal Knight 6th edition(2013)pp.6

[]インペリアルナイト小景 インペリアルナイト小景を含むブックマーク インペリアルナイト小景のブックマークコメント

 ブロム・グリフィスは〈機械の御座〉*1に深く座った。籠手を肘掛けにどっしりとかける。青銅色の強化単眼鏡が短焦点を結び、周りを取り囲む灯火をくっきりと映し出した。ローブが落ち着くと、宗家の黒龍紋が蒼白い上衣の色を隠し去った。

 ゆらめく暗闇の間から、数多くのグリフィスの家紋と印章が見つめ返す。無人の〈御座〉が円形の広間の縁にぐるりと並び、座主もなく冷たく沈黙している。全てが重々しかった。〈交神堂〉*2の冷気、暗闇、そして威圧的なバロック様式の石造建築の全てが。窒息しそうな息苦しささえ感じる。この、自分が治めながらも、儀式によって生きながら埋葬され、アダマンチウムで造られたこの陰鬱な城塞の奥底では。ブロムは鉄の酒杯から〈血酒〉を一口飲んだが、心にかかった棺覆いを払うことはできなかった。宮廷の社交、豪奢な鎧、紋章、金縁の贅沢品。城塞のあらゆる場所を飾り立てるそれらと同様に。

 〈儀式〉を受けてより四百年経ったが、今でもわずかな細部まで思い出せる。夜半、汗にまみれ、手は震え、両目を見開いて飛び起きるとき、アヌリーズの指が触れ、何を思いだしたかをたずね、そしてブロムが聞きたい言葉をささやいてくれる。そして、おののきが去るまで待って、生体移植機器がもたらす代償を忘れる助けになってくれる。身に刻まれた戦いの傷跡を指でなぞりながら、戦士の誇りを思い出させてくれるのだ。

 ブロムは冷たく笑った。アヌリーズでさえ、宗家の心奥に激しく燃えさかる魂を持つことにかけては、自分と変わりはない。この何百年もの歳月の中で、より危うさを研ぎ澄ましたのは、あるいは彼女かもしれない。それは解きがたい問いだった。戦いのただ中で問われるのは機械操縦の腕だけではないのだ。

 そっと酒杯を置いた。本能から、ブロムは変化の到来を感じたのだ。〈御座〉が語りかけ始める・・・・・・最初はささやき、やがて奔流のごとき声。最初の頃に感じた、興奮と緊張の混じる感情は、今はもうない。魂は亡霊のごとき先祖のそれと混淆し、硬く、鋭くなったからだ。少なくとも今、目覚めているときに感じるものは、ただ、鉄の甲殻を求める飽くなき欲求のみ。眠れる神、戦いを駆けぬけるさなかにあっても決して分かたれることのない魂の半身への望みだけだ。周りにゆらめく灯火が消え、プロメジウムの注入管がバチバチと音を立てる。あたかも見えざる手に押さえつけられているかのように。早鐘を打つ心臓を感じる。硬く引き結ばれた唇がわななき、指は〈御座〉の肘掛けを握りしめた。

“声を聞いた”

 開放ピストンが引かれ、足もとの床が震動する。ブロムは頭を〈御座〉の背もたれに押しつけて目を閉じた。襲いかかる蛇のように神経同期ケーブルが飛び出して折れ曲がり、ものものしいダイヤモンド製の接続端子をむき出しにする。そしてつながりあい、鉄製の編み束になってブロムの頭蓋に堅く巻き付いた。するとすぐさま、果てしない雑話が始まる。ほとんど判別できない声と、いにしえの戦争の響きが。それは、心を注入された鉄と鋼の重なりに埋め込まれた、機械意識の深い鼓動なのだ。

 〈御座〉の周りの敷石が持ち上がり、その下の金属の蝶番をあらわにする。広間に荘厳なクラクションの鈍い音が響く中、光線が渦を巻いて放たれる。グリフィス宗家の派手派手しい紋章にかたどられた背後の壁が、塗油されたレールに沿って覆い被さった。硬いガチャリという音とともに、牽引索が固定される。

“ようやく生き返るのだ”

 震動とともに、〈機械の御座〉全体が揺すぶられ、回転し、そして滑り始めた。移送トンネルを落ちていく間、ブロムは腹の底に疼きを感じた。見かけの豪奢さをあとにして、城塞深奥の暗き背骨に向かっていくのだ。太古より存在する数知れぬ鉄の通路。それは聖なる地球で鍛えられた金属でできていると伝わっている。〈機械の御座〉は毎秒数百メートルの高速で落下し、ブロムの血液は頭にのぼり、ローブはめくれて鎧の上ではためいた。

 ブロムは、接続された心の中で大きさを増す声を聞きながら、手を硬く握りしめた。ターミナル・ハッチを瞬時に通り過ぎると、格納された背甲*3が眼下に見えた。隆起と兵器に彩られたそれは、まるで鋼鉄の月世界だ。その上部にあるコックピットはすでに開放されており、やわらかな赤色で輝いて・・・・・・誘っていた。

 ガシャンという音がこだまをひき、〈御座〉は定位置に収まった。背甲の天井が覆うように閉じ、クラクションの音を遮断した。

 いつものように、一瞬、自分がどこにいるのか混乱する。その刹那に〈御座〉は接続を済ませる。シャフトがソケットに挿入され、腕金が固定され、電力が火花をあげて注がれるのだ。巨機は身震いし、瞬く間に生命を宿らせた。このうたかたの惑いの瞬間にいつも、ブロムは自らを疑う。名を忘れ、己が誰なのかも、なぜこうしているのかもわからなくなる。そして次の瞬間、エンジン噴射に裂き散らされる雲海のごとく、全てが腑に落ちるのだ。

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“己を取り戻した”

 ブロムの両目は、開いたときにはもう巨機の光反応式視認機器と連動している。その身体は、鋼鉄の途方もない筋肉とアダマンチウム製の皮膚と同調している。腕をあげれば、はるかな眼下で巨大なチェーンブレードが構えをとる。ひとつひとつが人間ほどの大きさもある機械部品が、命を吹き込まれてうなりをあげるのだ。正面を見ると、今や巨機と一体化した両目を通して、巨怪のごとき両開きの扉が開け放たれている光景が広がる。〈超克堂〉*4の隆起の多い床が蒸気を吹き上げた。ブロムは、召使いたちがあわてて進路から走り去るのを目の端にとらえたが、ほとんど気にすることはなかった。人間としての次元に縛られているときなら、あるいは下僕たちの見分けがついたかもしれないが、戦争の巨獣の脈打つ心臓に組み込まれた今となっては、彼らはまるで別の種族のようだった。

 大扉を通ると、惑星ドラゴンズ・エンド*5の群青色の空が広がっていた。地平線には集まる雲は、神聖な使命のためブロムを宇宙空間に運ぶ〈工業船〉*6の降下を示していた。

 巨機のイオン・シールドがバチバチと音を立てて起動した。背甲の最終封印が音を立てて固定された。単眼鏡の画面には神聖文字が流れ、二進法とゴシック語で神秘的なデータの束をブロムに伝達した。内奥で機械意識が目を覚ました。広大で無慈悲、檻を打ち破って再び自由の身になろうとする存在が。

 ブロムは何も言わなかった。もはや言う必要すらなかったからだ。機械と自分は一心同体。記憶に匹敵する強さの技術魔法の絆が互いを結びつけているのだ。古き渇いた精神がブロムの心に襲いかかり、砕け散ってうなり声をあげた。それは過去よりの魂の叫び声、絶え間なく身の自由と虐殺への欲求にかられ続けるものたちだ。しかしそのたたきつけるような渇望は、ブロムの心には映らない。感じるのはただ、生命のみ。

『歩け』

 ブロムは最初の命令の思念を、精神伝送機を通して送った。すると耳を聾する戦の角笛が鳴り響き、〈騎士〉は再びの第一歩を踏み出した。

*1:Thone Mechanicum。インペリアルナイトの操縦席

*2:Communion Dome

*3:Carapace。インペリアルナイトの胴体部分。

*4:Vault Transcendent

*5:グリフィス宗家の本星たる火山惑星。

*6:forge-ship。帝国技術局の宇宙船

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2017-10-23 (Mon) バダブ戦争(8)

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ミノタウロスの憤怒(907.M41)

 悪名高く、艦隊を根拠地とする強力なミノタウロス戦団が、907.M41中頃に完全戦力で〈渦圏〉に到着した。彼らは〈分離派〉が支配する惑星カイロの採鉱施設に全戦団で強襲をかけると、駐留していた46000名の〈総統兵団〉と採鉱設備を殲滅して、その名を轟かせた。その後おもむろに、ミノタウロス戦団は代表を乗せた船を〈忠誠派〉の軍議に送って、正式な参戦を表明したのである。暗い名声のつきまとう戦団長アステリオン・モロクは自戦団に残って〈蒼白の星々〉に襲撃をかけ、この星域内の資源産出拠点を占領ではなく壊滅させることで、〈分離派〉の補給源を絶とうとした。ミノタウロス戦団は全体的な戦略決定権は、この戦争で先任にあたる〈忠誠派〉の軍議に委譲したものの、指揮系統に対しては意図的に超然とした態度をとり続け、他の戦団からも距離を置いた。また、総司令官カルブ・クランとその幕僚よりも、〈異端審問庁特使〉の権威に従うことがしばしばであった。この隔意は、軍議に参加するミノタウロス戦団代表の態度によく現れていた。不気味で寡黙なアイヴァナス・エンコミは、その赤く縁取られた眼で全てを観察しながらも、会議でほとんど発言することはなかった。ミノタウロス戦団長アステリオン・モロクがこうした軍議に直接参加することは一度もなく、彼がバダブ戦争で活躍したことを示す唯一の証拠は、戦闘記録映像から回収されたフッテージと、ミノタウロスの荒々しい攻撃から生き残った数少ない〈分離派〉諸兄の広めた恐怖譚だけである。

 ミノタウロス戦団がやってきたのは、〈分離派〉に立ち向かう〈忠誠派〉戦団を増強しようとする〈異端審問庁特使〉の要請によるものだった。この野蛮な戦団の到着は〈忠誠派〉からは控えめな歓迎を受けたが、その精強さが〈帝国〉の陣営に加わることを拒否できる者はいなかった。四年目に入った戦争に全兵力をもって参加したミノタウロス戦団は、十個中隊と十一隻の主力艦から成っていた。この戦争を通してほとんど独立行動をとった彼らは、〈渦圏〉南部で、〈蒼白の星々〉や〈ディーン辺境星域〉といった地域で、自分たちが是とする目標を叩いた。三十以上の〈分離派〉支配下の惑星と基地を攻撃するだけでなく、それまで看過されていた独立拠点にも襲いかかった。抵抗した者を皆殺しにするこの戦団の冷酷さの評判はすばやく広がり、野蛮さでその上をいくカーチャロドン戦団の到着まで、その悪名において誰一人としてかなう者はいなかった。

 この地域でミノタウロスの進撃を止められそうな者は、エグゼキューショナー戦団の軍艦と打撃部隊だけだった。両戦団はその対決を血塗られたスポーツかなにかのように楽しんだ。この年の残りの期間、ミノタウロス戦団は〈忠誠派〉にとって大勝利を幾度もおさめ、クロウズ・ワールドとラーサの〈総統兵団〉を滅ぼし、アストラル・クロウを撤退に追い込んだり、彼らが支配する惑星を孤立させてひとつひとつ荒廃させたりしていった。ミノタウロスが到着してわずか四ヶ月で、その軍勢によってもたらされた二次的な被害によって、〈蒼白の星々〉の人類人口は20パーセント以上も減少したのである。907.M41が終わるまでに、〈分離派〉の軍勢はいくつかの重要星系から追い出され、甚大な損害をこうむった。〈渦圏〉北中部では、アストラル・クロウ戦団に対してサラマンダーとファイア・エンジェルの両戦団が挑んだ戦いがゲイレン星系で起こり、まもなくこの星系は〈忠誠派〉の手に落ちた。さらに〈分離派〉にとって大敗が続いた。ミノタウロスとレッド・スコーピオン戦団の猛攻によってヴァイアナイアがついに陥落したのである。ルフグト・ヒューロンはこの惑星の放棄を余儀なくされ、わずかな〈総統兵団〉が取り残された。包囲された防衛軍のただ中に〈死の天使〉たちが舞い降りると、終末はすばやく荒々しいものだった。夜明けまでに〈忠誠派〉の手によって〈総統兵団〉は最後の一人に至るまで殺戮されたのである。

サイグナクスの掃討(908.M41〜910.M41)

 908.M41の初頭、異端審問庁のエージェントは、〈ゴルゴサの荒野〉からやってきて〈異端技術〉を発掘する反逆者たちが、アストラル・クロウ戦団に協力している証拠をつかんだ。彼らは死滅惑星サイグナクスに埋もれた兵器を復活させようとしていたのである。サンズ・オブ・メデューサ戦団の任務部隊が、新たに参戦したエクソシスト戦団の支援を受けて、使命を遂行した。主力を担ったサンズ・オブ・メデューサは〈総統〉の軍勢を一掃するべく徹底的な作戦行動を行ったが、その進め方について、両戦団の間に不和が生まれた。というのも、サンズ・オブ・メデューサは敵を打倒するよりも、独自の謎めいた目標の遂行のように関心があるようだという告発がなされたからである。まもなくエクソシストはセーガン星系攻略のために再配置され、サイグナクスの脅威を除去する役目はサンズ・オブ・メデューサだけに任されることになった。

第二次セーガン会戦(908.M41)

 第二次セーガン会戦は、908.M41に行われた大規模な惑星攻略作戦であり、〈分離派〉をセーガン星区の要塞から追い出した。強襲は〈忠誠派〉にとってバダブ戦争における過去最大級の連携作戦であった。攻勢に参加したのは、ファイア・エンジェル、レッド・スコーピオン、エクソシストの各戦団から成る大兵力に、サラマンダー、ラプター、ノヴァマリーンから引き抜かれた強襲専門の特殊部隊であった。〈分離派〉は戦略上最重要なセーガン星系を放棄するより、あらゆる代償を支払って守り抜くことを選択した。戦闘は極めつけの死闘となった。セーガン第三惑星の地表から〈忠誠派〉を追いはらうか、あるいは敵に利用されないよう地表そのものを滅ぼすかを迫られたアストラル・クロウは、ウィルス兵器を使用して数万の惑星人口を殺戮した。しかし大量破壊兵器の使用によって、〈分離派〉自身の戦列に大きな穴があくことになる。ファイア・エンジェルは戦団の全兵力を派遣して〈忠誠派〉の最前線に立ち、自殺攻撃を敢行してまで惑星から敵を追い払おうとするアストラル・クロウの絶望的な抵抗の前に、勇敢に犠牲を払っていった。この戦役は、一回の戦いとしてはバダブ戦争で過去最悪の損耗率となり、星系内での無益な反撃によって何隻もの〈分離派〉主力艦が沈んだことでも知られる。

 セーガン星系の攻略は、戦争の大転換点となった。この星系は〈忠誠派〉の手に落ちた後、〈渦圏〉における〈帝国〉の根拠地となり、この地域に入る安定した〈歪み〉大航路を確保して、そうした航路を敵が使えないようにした。この戦役の直後に、セーガン第三惑星はサーングラード救援の補給基地となって、エンディミオン星団制圧作戦の開始を支援した。この〈忠誠派〉の進撃は事実上、残存するマンティス・ウォリアー戦団を防戦一方に追い込み、バダブ星区と〈分離派〉の友軍から孤立させることになった。第二次セーガン会戦の後、〈渦圏〉は二つの地域に分断された。すなわち、エンディミオン星団と未だ堅く防衛されているバダブ星区である。これ以降、〈分離派〉はエグゼキューショナーとラメンター戦団の艦隊が実行する通商破壊と襲撃作戦しかできなくなっていく。

 バダブ戦争の継続が〈帝国〉におよぼす脅威以上に、このころ〈極限の宙域〉の安全保障がオルクの大軍勢によっておびやかされていた。銀河の東部辺境宙域で複数の〈大進撃!〉が勃発したのである。セーガンの勝利の後、〈分離派〉の封じ込めに成功したと判断した〈忠誠派〉は、戦場で消耗した戦団をグリーンスキンどもの脅威に対処させるべく再配置した。この再配置には、ノヴァマリーン、ラプター、ハウリンググリフォンの各戦団が含まれていた。彼らは〈帝国〉全体を見すえた戦略的再配置の一環として、ひとつずつバダブ戦争から引き上げていった。そして、〈太陽の宙域〉の予備艦隊が〈忠誠派〉の援軍として派遣された。

(続く)

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