漫遊記

某日 兵庫県立美術館の鉄斎展二回目。かなり入れ替わっていた。週末とあって小学生の団体などで大賑わい。耳栓をつめてゆっくり見て回る。感想はまた別の時にまとめて書く。阪神岩屋駅から新在家駅までぶらぶら歩いたが、サングラスを持ってくれば良かったと後悔するほどの日射しだった。新在家で昼飯に蕎麦を食い、サザンモール内の熱帯魚店でLEDランプを買って帰る。この時ふと思いついて鮨や『あま野』に電話を入れてみると席が空いていた(熱帯魚を見ていてサカナが食べたくなった訳ではない)。一度家に戻ってシャワーを浴びる。夕刻、改めて西元町駅から福島駅へ。野球の試合があったらしく甲子園からどっと客が乗ってきた。『あま野』でゆっくり酒を呑んでいると、偶然にもこの店を紹介してくれた友人夫婦が入ってきた。この日はアテではメバル(薄味で炊いている)、太刀魚(味噌漬け)、鮨では小鰭と海胆、針烏賊が殊によろしかった。いささか飲み過ぎてしまったようで、ここの次に入った大阪駅前の立ち飲み屋ではハイボール二杯であっぷあっぷになってしまった。


 しかし、頼りになるのは我が肝臓。電車に乗って神戸に戻る間に見事復活、久々に遭った呑み友達と結局朝まで。だったのだが、起きたのは朝の十時。寝過ごしてしまう訳にはゆかぬ事情があって、というのは「播州地酒ひの」親分と昼酒呑みましょうと約束していたのである。これに遅れてしまったら、首が胴に付いて戻って来られないやもしれぬ。キンチョウして熟睡出来なかった。

 三宮サンプラザ地下にある「COM VIETNAM」前で待ち合わせ。十二時の開店時間までシャッターは下ろしてあり、そこに数組の客が並んでいる。ここの御主人と「ひの」でたまたま顔を合わせ、その場の流れでこの話が出てきたという訳。

 さてお店の造作は、控え目に言って愛想のない感じ。ヴェトナム人の御主人と日本人の奥様二人でやっている。我々は入り口横のテーブルに陣取った(ひの親分の場合は、こういう言葉遣いが相応しい)。あっという間に店は満杯。全員ランチを注文しているが、むろんこちらはビールから始めて、次々出される料理を平らげていく。八角の香りが底にしいてあるものが多いのだが、それ以外は何が何だか分からぬくらい複雑微妙な香料の上にさらにパクチーなどのハーブを重ねて、口の中はただもう香りの大交響曲という状態にうっとりするのがヴェトナム料理の正しい味わい方である(と勝手に思っている)。ヴェトナム風蒸し鶏も烏賊と空心菜の炒め物も、もやしをたっぷりはさんだお好み焼き風(衣はしゃりしゃり)など、旨かったな。ビールは途中からヴェトナムの焼酎(むやみに強い)に切り替わっていた。

 「ひの」は繁盛店だから親分とこれくらいゆっくり話をすることは、実は今まで無かった。脱サラして料理の道に入る時のことなど、「ひの」一代記を聴いたような按配であった。自慢話や愚痴の聞き苦しさの微塵もないのは口跡の良さとユーモアに富んだ話しぶりに拠る所が大きい。

 十二時に入って店を出たのは四時前くらいだったかな?「では次」という流れに当然なって、ところがやっぱり焼酎の酔いがじわじわとその存在感を出してきて、「コーヒーでも飲んで散会としますか」というところに落ち着いた(これをこれ、鬼の霍乱と言う)。

 実際に喫茶店に行ったのだったら、そこで今回は終わってしまうのであるが、三宮から元町に向けて歩いていると向こうから知った顔が。

 「いたぎ家」アニーとアニーヨメーであった。

 「では酒。」と方針は再び翻って、近くの某店へ。勘定が法外だったように思ったけど、まあそれはそれ(これだけ楽しいコトが続いているのだから、逆さ柱のようなものと考えることにする)夕暮れ時分、乾いた風は鯉川筋をそうそうとして吹き渡るなり。

 「幸福」という観念が躰中に染みわたって行く。

 しかもこの日はこの後、妙法寺のパン屋「味取」ご夫妻が加わってさらに中華料理、バールと呑み続けたのであった。最後はなぜか親分とアニーとの腕相撲対決が始まったりして(妖怪大戦争である)。

 こうなるともう、「幸福」の観念は躰から滲みだしてすでに人気もなくなった元町商店街の通り一杯に充ち満ちてゆく気配。これだけ愉しい面子で呑めることはそうそうあるものではない。親分はじめみなさん、本当にありがとう。
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