工藤隆雄「山のミステリー」
2005.5東京新聞出版局\1,575
山と人、幽霊譚から自然との関わりまで、山にまつわるいい話、
怖い話を一挙収録。舞台となった山小屋の紹介一覧付き。
実話怪談好きな私は、登山怪談集だと思って本書を購入した。
ところが予想は良い方に裏切られ、怖い話は抜群に恐ろしく、
いい話は感涙さそい、不思議な話は心しみわたり、この守備範囲の
広さは単なる怪談本にジャンルを限定してはもったいない。
まさに山の「ミステリー」というタイトルにふさわしい1冊なのだ。
ああ、こんなに面白い本を久しぶりに読んだ。
全てが伝聞もあれど実話というスタンスなので、人や自然の不思議に
思いをはせてしまう。
p.s.著者名の「隆」の字は「生」の上に「一」が入るが、
PCで出し方がわからなかったため「隆」で代用させていただいた。
ネタバレになってしまうので詳しくは記せないが、第53話の医者は
医師法違反だね。糾弾されて当然だと思う。
藤岡真「ギブソン」
2005.4東京創元社\1,785
早朝ゴルフのために、高城部長を迎えに行った日下部。
しかし部長は忽然と消え失せていた。
部下とともに高城部長を捜索し始める日下部だが。
ギブソンとはなにか。私はてっきりギターのことかと勘違い
していたのだが、カクテルの名前なのである。
失踪した高城部長が好んで飲んでいたというカクテル、それがギブソン。
出だし状況がややわかりにくかった(それは私の脳みそのせいかも)
ことを除けば、テンポよくすいすいと読むことが出来た。
しかし、これは苦いミステリーだ。騙し裏返される苦痛と快楽を
ミステリーと呼ぶのであれば、まさしくミステリー。
歴史にうといので全然気付かなかったが、タイトルの意味がわかるとき、
とてつもない崩壊感に襲われる。
考えられる可能性を順につぶしていくとそれしか残らないのだが、
考えたくはないという心理的マスキングがジャマして真相に
たどりつけなかった私であった。