辻村深月「スロウハイツの神様」上・下
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若くして人気脚本家にのし上がった環は、トキワ荘のごとくクリエイター希望者が集い切磋琢磨する場所・スロウハイツのオーナーだった。人気小説家とその編集、漫画家志望、画家の卵と映画監督志望が仲良く暮らすスロウハイツに、家出女が転がりこみ…。
新進気鋭の作家新作は、狭義のミステリーではない。モラトリアムで永続しないことがわかっているからこそかけがえのない大切な共同生活を描く青春群像小説である。
そしてこの小説は、創造に携わる人にとって耳の痛い物語でもある。ヒロイン・環は目的のためなら自分の過去を切り売りすることもいとわない、ほんとは強くないのに肩肘張って強くあろうとやせ我慢してしまうタイプ。自分にも他人にも厳しい彼女の生き方は付き合う人を選ぶけれど、まぶしいほどにまっすぐだ。
正直、上巻にはやや退屈した。スーのエピソードはいらないと思う。環の潔癖さと激情を示す逸話ではあるが、この話のせいで中盤がダレてしまったように感じた。
ただ、あいかわらず伏線のさりげないはり方とセンスある回収の仕方は見事だし、恋愛小説としてはそれこそチヨダ・コーキじゃないが《読後感がめちゃくちゃいい》。
次回作も楽しみに読みたく思う。