北村雅史「競業取引・利益相反取引と取締役の任務懈怠責任」

  • 今日の1本

北村雅史「競業取引・利益相反取引と取締役の任務懈怠責任」森本滋先生還暦記念『企業法の課題と展望』193頁(商事法務、2009)

  • きっかけ

利益相反取引の復習がてら、ゼミの先生に指定していただいたっきり積読になっていた論文を引っ張り出す。

  • ポイント

論文前半は、会社法423条の取締役の責任についての総論。
いわゆる一元説・二元説の整理は、吉原論文*1で読んだものと同じ。ただ、同論文より若干詳しく整理されている印象。



今回、何よりも気になったのは次の2点。

(1)356条1項3号の間接取引の場合に、総会において重要な事実を開示して承認を受けなければならない取締役は誰か、という点

北村論文では

間接取引の利益相反取締役は、利益相反取引について重要な事実を開示して株主総会・取締役会の承認を求める立場にはない(231頁)

とするが、千問*2を見たら、間接取引の利益相反取締役が承認を求めなければならない、との記述がある。
果たして…。


(2)423条3項1号で任務懈怠の推定がある取締役の範囲

江頭先生*3は、間接取引の利益相反取締役には同条の推定がないと考えているようである。
しかし、これまた千問では当然のように同取締役に任務懈怠の推定があるとする。
北村論文の分析では、江頭先生は「債務者の保証人に対する責任でカバーされるから良し」としているのでは?ということのようである。

江頭先生と立案担当者が所々で見解を異にするのは公知の事実ではあるものの、ここは大事な論点の割にはあまり注目されていないのでは?

  • 最後に

友人が所属するゼミの先生は「損害があること=任務懈怠」という趣旨の発言をしていたらしい。
正直、最初聞いたときは「ん??」という印象だった。

ただ、直接取引で自己のために取引をした取締役が428条1項により無過失責任を負う場面において、「じゃあ任務懈怠がないことを証明して推定を覆せば責任を免れるのか?」という論点が生ずるが*4

承認を得て行う場合でも、それによって会社に損害を生じさせないことが義務づけられていると解釈すべきである。(240ページ)

という結果債務的な構成を取ることで、「損害発生=義務違反=任務懈怠」という構図を導き出す。
これは、二元説を採って具体的法令違反を一発で任務懈怠とするのと似た構成である。

上記の先生の発言がこの文脈の中でのものであれば、なるほどという話になる。

*1:吉原和志「」江頭憲治郎先生還暦記念『企業法の理論(上巻)』521頁(商事法務、2007)

*2:相澤哲ほか『論点解説 新・会社法 千問の道標』(商事法務、2006)

*3:江頭憲治郎『株式会社法〔第3版〕』(有斐閣、2009)

*4:利益相反取引について総会or役会の承認があったけど損害が生じた場面だとして。