009.Parenthetical Girls / Privilege (2013)


Privilege (+DVD) (NTSC Region All)


萩尾望都の超名作「ポーの一族」に登場する主人公・エドガーは、見た目は14歳の美少年ながら実は永久の時に囚われたバンパネラ=吸血鬼で、長い長い時をさまよいながら渡り歩いている。一万年を閉じ込めた氷山のように厳格で、老成しきった印象を受ける一方で、その氷の仮面の下にはかつて亡くした妹・メリーベルへの悔恨まみれの愛慕や、限りある生と死へのあこがれのようなものが青く燃えている、そんなアンビバレンスが魅力的な人物です。


Parenthetical Girlsの楽曲を聴いていると、なぜかそんな「ポーの一族」とエドガーを思い出してしまいます。フロントマンのザック・ペニントンの年代や性別を感じさせないボーカルのせいかもしれませんし、室内楽風の耽美なアレンジと、炸裂するエレクトロビートが官能的に絡み合って共存しているさまもエドガーの二面性を象徴する気がするのです。情念にのたうつところへ時折天上から降ってきたり背後にそっと寄り添ってくれるはかなげな女性コーラスは、メリーベルの救いの声かも。M-6「Young Throat」などアンセム系の踊れる曲も飛び出しますが、ステップはどこか苦悩にもつれています。


Animal CollectiveDirty Projectorsが日本でも一定の知名度を得ている一方で、彼らはまだまだ不遇な気がします。まったく遜色ないどころか、USインディポップシーンには稀有な「華と毒」を持っているバンドだと思うのですが、現状では国内盤も出ていないし情報もとても少ないようです*1。個人的にはバンド名が絶望的に読みにくいせいだと勝手におもっています(ペアレンセティカル・ガールズ?)


ライブ映像なんかを見る限り、このザック・ペニントンという人は中性的なルックスに変なダンスと、史上に残る「怪人」になれそうな要素を備えており、末はボウイか、モリッシー*2かととても期待しております。


○The Common Touch
アルバムの中でももっとも複雑で、かつ美しい曲。こんな危ういバランスが成り立つのですね。葬列なのか祝祭なのか、ミニマルなかわいいピアノの反復を雷鳴が蹴破ります。

*1:国内の情報発信源は音楽ブログMonchiconさんくらいでは。http://monchicon.jugem.jp/

*2:じっさい、スミスへの愛は強そう。M-3「Pornographer」は「What Difference Does It Make」のリフをほぼ拝借しているし、Xiu XiuとスプリットでカバーEP(未聴)も出しているみたいです。