仮面ライダーW(ダブル)第九話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第九話「Sな戦慄/メイド探偵は見た!」。
脚本:三条陸。監督:柴崎貴行。
探偵青年の左翔太郎(桐山漣)の恩師であり、鳴海探偵事務所の創設者である名探偵、鳴海壮吉の娘、云わば「名探偵の娘」である鳴海探偵事務所長の鳴海亜樹子(山本ひかる)が、依頼された事件の秘密に迫るべく、身の危険をも顧みず、風都一の大富豪、園咲家の邸宅へ潜入捜査を敢行した。今回は云わば少女探偵の大冒険の話。だが、このことはむしろ翔太郎の心の傷の深さと覚悟の強さを浮かび上がらせた。
翔太郎は唯一無二の恩師である「おやっさん」こと鳴海壮吉の教えを探偵としての己の行動と思考の基準にしているだけではなく、「おやっさん」の行方不明(死?)について己を責め苛み、「おやっさん」の無念を晴らすべく全力で責任を果たさなければならないと感じている。彼が「おやっさんから託された大事な相棒」である超天才少年フィリップ(菅田将暉)を何としても守らなければならないと考え、「おやっさん」の娘である亜樹子を危険な目に遭わせるわけにはゆかないと考えているのはそのような思いに発していたのだ。
しかし今回の探索の舞台は園咲家の邸宅。余りにも危険な場所だ。その恐ろしさは建物からも伝わってくる。帝冠様式で造られたその外観は帝室博物館のように壮麗で(上野恩賜公園にある東京国立博物館と瓜二つ)、園咲家の当主、園咲琉兵衛(寺田農)が正面玄関の広間にある帝王階段に立ったときの威厳には、風都警察署の刃野幹夫(なだぎ武)と真倉俊(中川真吾)も恐れおののき震え上がらずにはいられなかった。
真倉刑事に対する翔太郎の呼び方が「ナマクラさん」から「マッキー」に変化。かなりの改善ではないか?とも思われたが、真倉刑事にとってはやはり納得ゆかない呼び方のようだ。
ともかくも、警察でさえ迂闊には手出しできない(アンタッチャブル!)風都の闇が園咲邸であることは明らかだが、三流週刊誌「アンタッチャブル」記者の鳴海遼子(仲間由紀恵)ならぬ「名探偵の娘」鳴海亜樹子はそこで大暴れをしていた。妙な味の紅茶を淹れて当主に飲ませたり、園咲家の一員として扱われる飼い猫ミックに不味いエサを与えて元気をなくさせたり、ガミガミ口うるさいメイド長の杉下(川俣しのぶ)にブリキのバケツを被せたり。
同じ頃、翔太郎は「おやっさん」の愛娘の心配をしながら園咲邸の正門の前で様子を窺っていたところを園咲霧彦(君沢ユウキ)に捕まってしまった。
ここで霧彦が翔太郎に浴びせた攻撃は凄まじかった。なにしろ翔太郎の不審な様子に今時の風都の若者の堕落を見出した上で、彼との対比において己の現在の栄華を誇り、風都の街を愛する己が、いかにして立身出世を果たし、運命の出会いをして恋愛の末に風都一の名家に婿として入って、風都屈指の「名士」になり得たのかを延々語り聞かせたのだ。しかも翔太郎の口を塞いで黙らせ、「沈黙して聴き給え」と云って。思うに、霧彦は己の自慢話を黙って聴いてくれる相手を欲していたのではないだろうか。邸内にそんな話相手はいないに相違ない。
園咲邸内の異常事態の発生を察知して翔太郎が門柱と門扉を一気に攀じ登り、邸内へ駆け込んだとき、その邸宅の住人であるはずの霧彦は門扉の外側から「待ち給え!」と叫んでいた。まるで霧彦の方が、邸内に入りたくとも入れない不審者のようだった。
今回から翔太郎も秋冬の装いに衣替え。真似して着てみたくなる格好よさ。それにしても冒頭の、翔太郎とフィリップと亜樹子の三人の日常が一段と楽しくなってきている。仮面ライダーWの物真似をする亜樹子と、ハードボイルド小説の必要性を力説する翔太郎と、二人の様子を冷静にも複雑な思いで観察するフィリップ。フィリップのあの表情は、翔太郎と亜樹子それぞれの内面に、遣り取りの楽しさとは裏腹の、痛みや悲しみがあることをさり気なく表示していると見ることができる。