夢
父が亡くなって以来、はじめて父の夢を見た。
森の中を、寝まき姿の父が歩いている。
家につれて帰り、話を聞くと、父は、
「全然(病気が)良くならないんだよぉ」
と言って泣いた。父の目は真っ赤に腫れ上がり、
人相が別人のようになっていた。
目覚めると、父のいない現実があり、息苦しくなる。
でも、父はもっともっと、苦しかったんだよね。治りたかったんだよね。
何にもしてあげられなくて、ごめんね。
遺影に手をあわせる時、そんなことばかり思ってしまう。
父の最期の日
真夜中
父の大腿部から、高カロリー輸液とモルヒネが、静注されている。
父の体とつながったモニターには、心拍数・血中酸素濃度・
呼吸数・血圧が、折れ線グラフのように、うつしだされている。
(モニター、初めて見たよ。テレビドラマみたい。
お父さん、ほんとにこのまま死んじゃうの?もう話、できないの?)
途中、モルヒネが切れ、しばらくして父は苦しそうな顔をした。
師長さんは、「本人は全く苦しくないです。」と言うが、
目を見開き、うんうんと苦しそうな呼吸をし、
苦しさからのがれようと、手足を動かす父。
見ているのがつらい。
師長さんも見ていられず、再びモルヒネをセットしてくれた。
多少落ち着くが、それでも、定期的に痰がからみ苦しそうだ。
(朝になって、先生がきたら、ホスピスで行う処置と、
全く同じようにしてくれるよう、頼むからね、お父さん。)
母は、父の意識がなくなって、ほとんど泣かなくなった。
母の言葉「お父さん、やっと楽になれたね、ずっと辛かったものね。」
治らない病気になってしまった父、癌発覚から5ヶ月間、
どんなに怖かったろう、悔しかったろう、そして悲しかったろう。
父の気持ちを思うと、たまらなくなる。
そんな父の苦しみが、まもなく終わろうとしている。
下顎呼吸
9:00 掃除のおばちゃん「来年、一緒に銀杏とりにいく約束したのに。」
9:10 主治医くる。
先生を見た瞬間、なぜか、ものすごい感謝の気持ちがわき、
心から、礼をする。
(父がお世話になりました。そして、父を楽にしてくれて、
ありがとうございました。)
最後に、父の呼吸は下顎呼吸なのか、さらに、
父は本当に苦しくないのか?と質問すると、そうだと言う。
下顎呼吸では、体内に炭酸ガスがたまり、
脳に麻酔がかかったような状態になるので、
本人は何も感じないと、説明してくれる。
9:20 親しかったナース(父の手を握りながら)
「○○さん、いっぱいお話してくれて、楽しかった‥」
別離
16:20 モニターの動きに変化あり。
16:30 静かに息をひきとる。
電話
夜8時前、母から電話。
15分ほど前から、父の意識がないという。
まず、弟の携帯の電源を切らないように言い、
すぐに支度をし、娘たちをつれて家をでる。
もう一度、話がしたい!
その思いだけが、私を動かす。
落ち着け、大丈夫だから!と自分に言い聞かせるが、
東北本線の中では、涙があふれてとまらなかった。
子供たちはそんな私を、心配そうに無言で見ている。
新幹線の中では3人で
‘おじいちゃんの思い出を順番に語るごっこ‘
という遊びをした。
子供達に父のことを、少しでも覚えていてほしくて。
夜11:30、最寄り駅まで弟が迎えにきて、ようやく病院へ。
薄暗く、酸素吸入器の音だけする個室に父はいた。
すぐに父の耳元で、一生懸命呼びかけるが、反応なし。
でも、耳は最後まで聞こえているんだもん、わたしの声届いてるよね。
個室へ
朝7:30、母より電話あり。
昨日、とうとう個室へ移り、母も泊まりこんだそうだ。
昨日の父は、とても苦しみ、酸素吸入量をいくら上げても、
60%代で、危険だったのだ。
今日は、弟や父の兄弟たちが集まり、
わたしも一人で駆けつける準備をしていたが、
母から、今日は大丈夫なので来なくていいと言われる。
母は、父の苦しみを最大限にとってもらうよう、
主治医にお願いし、モルヒネの点滴を開始する。
その際、師長さんに「娘さんは知っているんですか?」
と、聞かれたそうだ。
わたしが、訴えるとでも思っているのかしら?
もう、家族の願いはひとつ。
安らかに父を逝かせてください、ということだ。
しかしどんな処置をとっても、呼吸の苦しさは変わらず。
話すことさえ、できないほどだ。
ただ、意識ははっきりしているので、
よけいに可哀想だと言って、母は泣いた。
どんどん泣いていいよ、ここまで頑張ったのだから。
わたしも、自分の子供達に、おじいちゃん(父)の死が迫っていることを
話し、泣いてしまった。子供たちは、一瞬びっくりしたようにみえたが、
すぐに何事もなかったのように、元気に遊びだす。
なんだか、ショック!
癌性リンパ管炎
相変わらず呼吸困難。
診断は、癌性リンパ管炎か、間質性肺炎が考えられるが、
癌性リンパ管炎の可能性が高いとのこと。
早速、癌性リンパ管炎について調べる。
癌性リンパ管炎⇒リンパ管内に癌細胞が塊を作らずに瀰漫性に増殖している状態。
予後⇒最悪
主治医の話では、治すことはできない、
緩和のための処置のみ行うとのこと。
具体的には、ステロイド剤とオキシコンチンの倍量。
ただステロイドは、3日使うと副作用を考えてしばらくは、使えないらしい。
確かに、苦痛の軽減にはなっているようだ。
(血中酸素が80%代でも、前ほど苦しがらないという)
高カロリー輸液もしているが、これはどうなのだろう?
浮腫みや、腹水・胸水の原因になると聞いたことがある。
今日は一日苦しかったようだ。
夜母が帰るとき、やっといつもの冗談がでて、
安心して帰れたという。
父があんなにいやがっていた導尿、母がいない間にされてしまっていた。