明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ニコラス・レイ『生まれながらの悪女』

ワーナー・アーカイヴ・コレクションから出ている DVD でニコラス・レイ『生まれながらの悪女』を見たのだが、嬉しいのは、この DVD には使われなかった別エンディングが特典映像に収録されていることだ。

『生まれながらの悪女』は、プロデューサーのハワード・ヒューズが例によって編集に手を出してダメにしてしまった映画のひとつといわれている。現行版では、不倫がばれて、ジョーン・フォンテインがザカリー・スコットから三行半を突きつけられたあと、空港でのザカリーとジョーン・レスリーとの嘘のような和解の場面があって、ラストの屋敷前でのメル・ファラーとフォンテインとの短い別れのシーンが続く。ショーウィンドウに飾られたフォンテインの絵の値札が替えられるショットが、ラストショットである。

別エンディングはこれよりもずっと長い。ハワード・ヒューズが書いたという空港の場面はこの別エンディングにも入ってるのだが、全体的には非常にシニカルな終わり方になっている。ザカリー・スコットに出て行けといわれたあと、フォンテインが乗っていた車が転落事故を起こし、フォンテインは大けがをして病院に担ぎ込まれるのだが、そこの若いハンサムな医者にさっそく目をつけ、医者の妻に訴えられる。そこに、ウィンドウの絵の値段が2倍につり上がるショットが挿入される。次に、フォンテインが離婚のことで訪問したらしい弁護士事務所の場面がつづくのだが、ここでもフォンテインはハンサムな弁護士をなにげに誘惑して籠絡する。そしてまたしてもウィンドウの絵が2倍につり上がるところで、この別エンディングは終わる(絵の値段がつり上がってゆくショットは、この別エンディングの編集で見ないとイマイチおもしろさがわからない)。フォンテインは反省もしていなければ、罰も受けない。これ以上ないシニカルな終わり方だ。

これ以外にも複数のヴァージョンがあるみたいで、この DVD に入ってる別エンディングは、ヒューズが海外での上映向けに残していたエンディングのようだ(このあたり、したたか)。様々なヴァージョンには、ジョージ・スティーヴンスやリチャード・フライシャーまでもが、別撮りテイクに関わっていたという。

日本で発売されている DVD 『ニコラス・レイ傑作選 生まれながらの悪女』は持っていないのだが、これにも別エンディングは収録されているのだろうか。いずれにせよ、ワーナー・アーカイヴ版のほうがずっと安くてお得(ただし、字幕はついていないが)。