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近代精神医療のなりたち

2012-12-18

2012年ベストアルバム

22:11

上半期に挙げたやつは除外で10枚(+次点5枚と再発・編集盤5枚)。

今年もどうしようもない一年だったけれど音楽はなかなか良いものを多く聞けた気がする。そう、本当にどうしようもない一年だった。環境が変わったせいで作業には追われ、人間関係も新たになるわけでそれに対してタフに向き合っていかなければならないし、何より金が無い……。

慢性的な金欠の直接の元凶は握手会に本格的にハマってしまった事なのだけれど、当然それによって自分の人生の何かが救われるわけもなくむしろ握手すればするほど辛くなっていく。アイドルであっても人である以上それを意識してしまうと何も伝えられてないじゃないか、みたいな。もっと遊びとして割り切ればいいんだけれど意味もなく年齢だけ重ねてきたせいかそうスパっといくはずもなく本当に辛い。

この趣味は来年中に絶対にやめなければならないだろう。来年中というかもう今すぐにでもやめるべきだ。浮いた金でもっと有意義な事をしなければならない。英会話教室やジムに通うという選択肢はもっとも有力である……。

まあそれにしても来年も再来年も恐らくこのどうしようもない人生の続きだろうし、というか一生どうしようもない人生なのだという事はこの年齢にもなれば覚悟をしなければなるまいと薄々感じつつ、それでもこうやって音楽を聞いたり遊んだりする事でギリギリ辻褄を合わせていくというか……。


!!!そんな感じで選びました!!!


  • Kendrick Lamar / good kid, m.A.A.d city

Good Kid M.a.a.D City

自らのフェイバリット・アルバムとして躊躇いなく『The Chronic』や『Death Certificate』を挙げるKendrick Lamarは言ってみればヒップホップにおける再解釈の人である。過去のラップ・ミュージックの引用に満ちたスタイルもそうだが、ドレーやMCエイトの客演起用はコンプトンで育った一青年としていささかの浮かれ具合さえ感じさせる。だが、『good kid, m.A.A.d city』においてそうした引用は単なる趣味嗜好を博覧会的に展示するに終わらず、むしろ彼自身の生まれ育った時代・パーソナリティを彩る不可欠なアイテムとしてみずみずしくも息づいている。

ヒップホップとそれに纏わる自らという関係性において主客の転倒と言い切ってしまう事も許されかねない倒錯へ足を踏み入れようとしながら、しかし仲間や地元への思いと家族愛、若き日々の恋愛といったコンプトン・ライフの誠実な描写に支えられ、また交錯することで巧みな構成力と共に彼のリリシズムは一つの「物語」へと昇華せしめられている。

そう、あえて例えるならこのアルバムは『Straight Outta Compton』への二十数年越しの回答である。間違いなくマスターピース



  • The XX / Coexit

Coexist [輸入盤CD](YT080CD)

彼らが『Coexit』のインスピレーション元について同時代のインディー・ロックバンドやUKガラージ、ダブステップ、エレクトロニカのアーティストと並べてStevie WonderやAl GreenOtis Reddingといった大御所ソウル、そしてAlicia KeysGroove Theoryなど90年代〜00年代にかけてのR&Bを挙げていたのにはさもありなん、と思わされた。確かにこのアルバムは明らかにソウル・ミュージックやその伝統を継ぐブラック・ポップからの影響を感じさせるものである。ハウシーとはいえ、ミニマルでスカスカなビートと過剰なまでに感情を削ぎ落した音作りで何故ここまでソウルを感じさせるのか。

それは恐らく『Coexit』において提示されるのが「わたし」たちと「あなた」の関係性を強く想起させる密室的な音であり、歌である事が一つの要因であろう。そしてこのソウルJames BlakeやBurialを引き合いに出すまでもなくアンダーグラウンドメランコリックな、暗闇のものである。だがここにはアーティスティックな自意識も、都市における悲痛な詩情も存在しない。代わりに彼らは身一つで語ろうとする態度と、言葉をどれだけ費やしても何も語ることの出来ない空虚さを痛々しいまでに露わにする。



  • Mala / Mala in Cuba

Mala in Cuba [解説付 / ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC348)

素晴らしい音楽は得てして、挑戦と成熟のせめぎ合いから出来ているものである。そしてそれにロマンスが加われば最高。

『Mala in Cuba』はまさにそうしたある種の衝突・軋轢の中にのみ生まれる音楽であり、ここでダブステップのオリジネーターキューバ音楽と積極的に交わることで、ロンドンアンダーグラウンドには無い類の深い美しさを手に入れている。

個人的なイメージとしてダブステップは夜を、キューバ音楽は昼間から黄昏時にかけてを想起させるのだが、このアルバムは夜の緊張感に満ちた妖しさと太陽の柔軟な温かみそのどちらをも感じさせる非常にスリリングなものだ。先鋭的・実験的な何が起こるかわからない魅力と言うよりは響き渡るベースとリズム、美しいラテンの楽器といった音の美しさに重点が置かれており、非常に品良くまとめられているため繰り返し聞けた。「ワールドミュージック」なる言葉に未だに囚われている人達にも開いた耳で聞いて欲しい。



100年後

Ogre You Assholeは今作で『homely』というサイケデリック・ロックの一つの到達点からあっさり距離を置く。

ゆら帝フォロワーと括られるのを恐れないかのような中村宗一郎の存在感は今作でも健在だが、サイケデリックに大きく傾いていた前作へチルアウト感覚やAOR、あるいは「すべて大丈夫」〜「黒い窓」に特に顕著であるシニカルにしてポップな虚無感を持ち込んでおり、様々な要素に引き裂かれながらも奇妙な安心感が通底して横たわる彼らの『100年後』を提示することに成功している。「ロープ」のような決定的なトリップ・チューンの不在はアルバムの統一感という観点からはむしろ功を奏しているかも。



  • Shed / The Killer

Killer

Berghainの第一人者は本作において、自らが才気あるDJであるのみならず素晴らしいトラックメイカーでもあるという事を証明しようとしている。

『The Killer』で展開されるトラックは彼の作風からすれば特に斬新というわけでもない。とはいえハード・テクノなるどうしても一辺倒になりがちなジャンルにおいて、アンビエントブレイクビーツなどを投入しながらきちんとアルバム通して聞かせるという構成力の妙、またダンス・ミュージックにおける機能性と実験性の兼ね合いについての問題意識を忘れずに、しかしそこでバランス感覚を失する事のない、繰り返しの視聴に耐えるクオリティを維持している事は評価されて然るべきである。

デトロイト・テクノやダブステップからの影響を見事にベルリン・サウンドへ落としこむと同時にダンス・ミュージックかくあるべしという強い心意気も感じさせる頼もしいアルバムだ。



  • cero / My Lost City

My Lost City

ceroというバンドは小沢健二中村一義ムーンライダーズカーネーション、あるいは(((さらうんど)))……すなわちポップスに対する批評精神を顕わにしてのみ得られる、ねじれた強度を越境的な無国籍=多国籍ポップとして鳴らすバンドの系譜にあると言える。

そうした系譜の中で彼らの大きな特徴を一つ挙げるとするならば、それはアルバム単位で徹底的に作りこまれたフィクショナルな世界観であるだろう。『My Lost City』においてこの情感豊かなアイディアの数々は歌のみならずミュージカル調であったりポエトリーであったりと様々な方法での表現をもって支えられていくが、最後の「わたしのすがた」に達する時、その世界は現実とフィクションの境界を融解しながら着地する。

『My Lost City』という世界へ想像を巡らす事も、ポリリズムの微妙な差異に着目する事も、音の厚みに感嘆する事も、美しいメロディーに耳を澄ます事も、とにかくどんな楽しみ方(言うまでもなく批評誘発性も抜群に高い)に対してもオープンな素晴らしいポップス。



  • Karriem Riggins / Alone Together

Alone Together

まさにデトロイティッシュなビートテープ・アルバム。「J Dilla以降」というバズワードを牽引するのはFlying LotusやThe Gaslamp KillerといったLAビート・ミュージック・シーンの面々だが、Karriem Rigginsは彼らとは異なる解釈によりつつもむしろ直接的にJ Dillaの影響を受けている一人でもある。

クオンタイズされないビートの揺らぎと、90年代からの連続性を感じさせるアンダーグラウンドな質感、それに自身のジャズドラマーとしての絶妙なリズム感覚を組み込ませる事によって本作『Alone Together』は高い完成度と同時に、とても愛らしい小品集といった印象をも残す。予想を裏切らない作風は「よく出来たアルバム」を超えるものではないとも言えるのだが……しかし、僕はこういうアルバムを好きにならずにいられない。

あるいはヒップホップにおけるAndres『II』と言ってもいいだろう、彼の地の音楽性の豊かさが垣間見えるなんとも素敵なアルバムだと思う。



  • ERA / Jewels Deluxe

JEWELS DELUXE

ERAはストーナー・ラップに通底するゆるい感性をもって東京のありふれた夜を描写する。そしてその洗練された筆致には都市生活者の日々を彩る多くの要素が盛り込まれている。友情や甘酸っぱい恋愛から内省や自意識が展開されたかと思えば、ハードコアを出自とする彼らしい反抗心や都市への愛着が展開され……そうした様々な切り口からなるラップを通して、都市の夜は再び浮かび上がる。

この『Jewels』はストーナーの煙たさよりも、甘いシロップのようなスクリュー感覚やサイケデリアといった側面が強調されているアルバムでもある。イリシット・ツボイプロデュースの「Get A」を頂点とするこのアルバムにおけるサイケデリアはあたかも白昼夢を徘徊しているような甘酸っぱくも眩いきらめきを放っている。ERA本人の咳止めシロップを飲んだかのようなかすれた声と独特のタイム感、キャッチーなフレージング・センスはどこか人懐っこい魅力を持ちつつもそうしたメロウネスを昇華していく。

明らかにタフなこの国で生きるエヴリデイ・ストラグルの若者たちが甘酸っぱくもメロウに生きるためのサウンド・トラック。



  • Andy Stott / Luxury Problems

Luxury Problems

評して「Theo ParrishSadeの間」との事だがこれは……。Basic Channel以降脈々とアップデートされたりされなかったりのいわゆるダブテクノといったジャンルにAkufenに代表されるエレクトロニカカットアップを取り入れたのが前作であったとすると、今作においてはビートダウンやディープハウスを結び付けたという事だろうか。

とはいえ一般的に予想されるハウス「らしさ」はここにはない。路上の愛や汚れ、肉感性はあくまで排除されており、前作から引き続く永遠に終わらないのではないかとも思える蠢くベースラインによるマッシブな音圧とダビーに加工された寒々しく抑圧的な音像は、むしろ異様なほど闇雲な圧迫感と焦燥感をかき立てる。そんな中でTheo ParrishSadeを思い起こさせるのがアルバム全編に渡ってフューチャーされる女声ボーカルである。執拗にループされては立ち消えていくこの幽玄な声は幻想的でメロディック、まさに「Luxury」といった形容がよく似合う。

このビートと声の緊張関係が今作を単なるダブテクノで終わらせず、ダークアンビエントやハウスなどの要素を接合させ、あるいはそうしたジャンルを物ともしない力強さを与える事に成功している。



  • Killer Bong / Sax Blue 2

今年一番聞いたMIXはこれかなあ、多分。ミニマルエレクトロニカヒップホップと横断していくものの難解さは皆無で、ドロっとしたダブの質感と黒光りするジャジーなメロウネス(なんと販促らしい文章だろうか)が全編にわたって繰り広げられている。

繋ぎによってジワジワとグルーヴを作っていくタイプというよりは選曲の妙で聞かせるタイプだけれど、それにしても情感豊かな音楽というか。アガりきらない美学は一貫している。『Sax Blue』も良かったけどこちらを選んだのは後半のヒップホップメインの選曲があまりにツボだったので。




New CountryChannel OrangeSwing Lo MagellanReloadedR.I.P.

次点はまず、揺らぎのファンクネスをシニカルにすり抜けていくQN『New Country』、Kendrick Lamarと双璧を成すであろう今年の黒人コンシャス二大絵巻の一つFrank Ocean『Channel Orange』、アート・ロックの佳作でありながら歌ものポップのような小気味良さが清々しいDirty ProjectorsSwing Lo Megallan』、ニューヨークアンダーグラウンドヒップホップのスリリングな洗練を渋く聞かせるRoc Marciano『Reloaded』に諧謔ユーモア・センスと電子音楽の可能性を拡張しようとする開けた好奇心が結びついてしまった現実逃避あるいはバッド・トリップのR&BコンクレートActress『R.I.P.』辺り。



Lost TapesBiokineticsD'Ya Hear Me! : Naffi years, 1979-83 ドゥヤ・ヒア・ミー! : ナッフィー・イヤーズ, 1979-83Lee 'scratch' Perry Presents Candy MckenzieJourney Of The Deep Sea Dweller III

再発(もしくは編集)モノだとこの時期のCanが3CD分だけ聞けるだけで十二分にありがたいCan『The Lost Tapes』、ミニマルダブ・アンビエント・ドローン、といった要素が盛り込まれている今まさに聞かれるべきPorter Ricks『Biokinetics』、この時代におけるロンドンの若者たちによる、ポスト・パンクの信念に裏打ちされた美しさを強く感じさせる『D'Ya Hear Me!:Naffi Years,1979-83』、Black Ark最盛期の途轍もなく甘い陶酔『Lee "Scratch" Perry Presents Candy McKenzie』そしてDrexciyaJourney Of The Deep Sea DwellerI〜III』などをよく聞いた。



どうでもいいけどいざ選んでみると最大公約数的すぎて自分がビックリした。シングル編も多分やります。ペイッッッ

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