やぶにらみの鳩時計@はてな

2018-06-21

[]連城三紀彦『悲体 』(幻戯書房)レビュー

悲体

悲体


 懇切丁寧な巻末解説とセットで、作品の輪郭が浮かび上がってくる。作者におけるミステリアスなものの淵源が、父と母の間の一筋縄ではいかぬ心理的な低回だった。本作が、作者の自己のルーツを剔抉しようとする意思の産物かと思ったら、しかしなお、還元されぬ余剰が出てくるように感じる。要するに、父と母の生のかたちが必然の相を帯びていたのかどうか、作者の逆説的な反転劇の手付きは、作者自身が自分の見出したものを、虚構として昇華させようとしているようにも思えるが。

2018-06-14

[]林 泰広『分かったで済むなら、名探偵はいらない 』(光文社)レビュー

分かったで済むなら、名探偵はいらない

分かったで済むなら、名探偵はいらない


 東川篤哉石持浅海と同期の作者の、まあとにかく再デビューとでもいうべき作品。

凝らした趣向が、どうしても鯨統一郎のあのシリーズと重なって感ぜられるのは仕方ないとして、シニカルロジックの冴えは堪能できる。けれども、デビュー作のインパクトと比べると、期待値がらみで、やや肩透かしを食ったか。

2018-06-07

[]『宇宙よりも遠い場所』(KADOKAWA メディアファクトリー)レビュー


 このアニメは今年を代表する傑作だ、という評価が固まってきているらしいが、たまたま全話見ていたが、はっきりいって前半は退屈、後半からやっと盛り上がる。泣かせどころはあるけれども、感動する所まであともう一歩、というところ。まあディテールの収集にコストをかけてるのはわかるだけに、話の焦点がやや散漫になっているのは惜しいね。

2018-05-31

[]樋口有介『平凡な革命家の食卓』(祥伝社)レビュー

平凡な革命家の食卓

平凡な革命家の食卓


 ケーサツ小説を作者らしくシニカルに料理すれば、こんな感じになる、という期待値は裏切らない。作者らしい軽妙さと裏腹の不気味なものが滞る手触りは、本作ではワルの通俗的な偏在のユーウツさ加減というかたちで埋め込まれるが、それにしても女刑事をオトコ社会から遊離させて描くには、道化師的に描かなきゃならんかったのかな。

 

2018-05-24

[]深水黎一郎 『虚像のアラベスク』(KADOKAWA)レビュー

虚像のアラベスク

虚像のアラベスク


 作者のスノビズム的アプローチが、絢爛さと叙情を湛えたものになるか、それとも虚像のハレーションが炸裂する道程を露わにするか。作者の底力が、底意地の悪さと相俟って、読者の思惑を散々たぶらかしてくれる。って、作者の地の部分なんだろうが、このシニカルさは。

2018-05-17

[]倉知淳『豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件 』(実業之日本社)レビュー

豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件

豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件


 前作『皇帝と拳銃と』より、作者の持ち味が凝縮されたような短編集だが、それだけ本格テイストから遠ざかっている。全体的に奇妙な味系と括れそうな体裁だが、作者の作風に馴染んでいる読者だったら、話運びの手つきと意表のつき方に、感じ入るところ多々なのではないか。おかげで掉尾を飾る猫丸先輩ものが霞んだわけで。

2018-05-10

[]麻耶雄嵩友達以上探偵未満』(KADOKAWA)レビュー

友達以上探偵未満

友達以上探偵未満


 若い本格の書き手たちが、ラノベ方面に媚を売りつつアイロニカルなギミック構築に力を入れてるの見て、マジメ感漂うほど少なからず痛々しさを覚えてしまうのは、こっちが意地悪なせいかも、だが、でもさあ、この作者の新作読んで、このアイロニー芸は異次元レベルだよなあ、とつくづく。このひとは、デビュー作からこうだったんだよ、ホントに。あまりのアイロニーさに、緻密なロジックの構築が冗談みたいな質感を湛えだすのは、困ったもんだよ。

2018-05-03

[]知念実希人『祈りのカルテ』(KADOKAWA)レビュー

祈りのカルテ

祈りのカルテ


 快走状態が続く作者は今度は研修医を主人公に据えた連作を物したが、作者の期待値からすれば、何か突拍子もないギミックを仕掛けてくれるんじゃないかと身構えてしまうが、本作はごくオーソドックスにすすむ。ヒューマンドラマと逆説的ロジックの調合が上手くいっており、リーダビティも十分だ。気になるのは、作者がこういった体裁のもので満足しているのかどうか、ということの方なのだが、どうなんだろう。

2018-04-26

[]はやみねかおる『奇譚ルーム』(光文社)レビュー

奇譚ルーム

奇譚ルーム


 一応PRにはヤングアダルト向けとあるのだが、一般向けの体裁でも良かったのではないかな。直観的に物語の方向性を把握するひともいると思うが、それでも話運びの手際の良さを堪能するべき。作者の晦渋ではない文体が、どこか不安を掻き立てる雰囲気作りに貢献しているのは、やっぱり職人芸なんだろうな。

2018-04-19

[]蒼井碧『オーパーツ  死を招く至宝 』(宝島社)レビュー


 いやあ、今年のこのミス大賞は場外ホームランじゃないですか。昨年のゾンビ本格なんかを遥か下に見下ろすB級奇想系アクロバティック本格の快作にして怪作。どうも、他の候補作が評価が割れて、相対的に減点が少なかった本作が大賞に選ばれたらしいが、いやまあ、それでこの騒がしい作品が、という意外性も、物語の内容と同じくアイロニーに満ち満ちたものだと思えば、また楽し頼もし。連作中削除されたらしい一編が、次作になるかもしれないが、トンでもなさやバカバカしさは期待したいよね。