やぶにらみの鳩時計@はてな

2018-08-16

[]折原一『ポストカプセル』(光文社)レビュー

ポストカプセル

ポストカプセル


 ポストカプセルというイイ話系のものを、毒壺に放り込んでいたずらに撹拌させれば、こんなハナシが出来上がる。物語は、ほとんどブラックジョークみたいな設定から、ストレートに輻輳させた感じで、読者を有無も言わせず翻弄させてくれる手際は、近年随一かな。作者の最初期のあの作品も出てきて、B級スリラーの巧緻なプロットに、安心して身を委ねられることうけあい。

2018-08-09

[]鳥飼 否宇『隠蔽人類』(光文社)レビュー

隠蔽人類

隠蔽人類


 まあ人類学バカミスなんですが。登場人物がバンバン容赦なく殺されるので、気前いいなあ、と思ったら、オチがドバーンといってしまって、脳ミソ爆裂状態。いやまあ、こういう風呂敷のたたみ方(というか破り方といったほうがいいか)が物語的必然だったとは思わないけれど。それにしても、作者の穏当なミステリーを読めるのは、別名義のときだけになってしまったのか。

 

2018-08-02

[]道尾秀介『風神の手』(朝日新聞出版)レビュー

風神の手

風神の手


 ミステリー的興味よりも、作者の物語作家としての構築性を堪能するつもりで読んだ方が、期待を裏切られないと思う。語り口は悠揚迫らぬものがあり、小説の安定感は抜群だが、果たして十二分にサスペンスが醸成されているかは何とも言えない。いっそのこと、佐伯一麦のような私小説のタッチで物語を描ければ、何か強いミステリーを喚起できるような気がするが。

2018-07-26

[]芦沢央『火のないところに煙は』(新潮社)レビュー

火のないところに煙は

火のないところに煙は


 怪談噺をミステリ的額縁で飾る構成は、三津田信三の作風を想起させるが、心理サスペンスの味わいを全話抜かりなく施しているので、二番煎じ感はない。因果にからめとられた妄想が、底なしに延伸していく感触は読み手にも十分伝わるが、反面、構築性のアプローチがやや前面に出すぎかな、とも。

2018-07-19

[]原 りょう『それまでの明日』(早川書房)レビュー

それまでの明日

それまでの明日


 なんだか今になってもなお、作者にはチャンドラーの亡霊がつきまとっているのだなあ、とPR文をみて切なくなった。寡作なだけに、作風のバリエーションを拡げられなかった憾みがあるのだが、でもとっくに、エピゴーネンの閾からは遠く脱してるのに。本作も、ある意味、長いお別れ、よりも韜晦齟齬に満ちた苦い後味を残す物語で、それは幕切れの時間軸設定がいちばん象徴的だが、チャンドラーとはまた違ったメランコリックなニュアンスは、われわれだけが感受しうるバナキュラーなものなのだろう。作者には、「それからの昨日」というタイトルをかぶせたくなる続編を期待したいが。

2018-07-12

[]近藤史恵『わたしの本の空白は 』(角川春樹事務所)レビュー

わたしの本の空白は

わたしの本の空白は


 記憶喪失モノの定番のストーリー展開を、ラブストーリーに重ね合わせるところまでは多くの書き手がやってるが、結末への拡げた風呂敷のたたみ方は、この作者らしいアイロニカルでソリッドな、読み手のカタルシスをお預けにするような印象を抱かせる。自己の回復アイデンティティー奪回の行程が、すれ違っているところがポイントで、ますます狷介な書き手になったなあ。

2018-07-05

[]小林泰三『ドロシイ殺し』(東京創元社)レビュー


もうここまでくると、作者の目論見が奈辺にあるのか、凡人にはわかりにくくなるわけで。SFミステリ的興味からみれば、まだ大団円となっていないみたいで。ただまあ、世界の構造自体をいろいろと推測してみたりするという愉しみはある。が、もうちと短くていいかな。

2018-06-28

[]下村敦史『黙過』(徳間書店)レビュー

黙過 (文芸書)

黙過 (文芸書)


 貪欲なまでに作風の幅を拡げて、快進撃を続ける作者だが、本作もメディカル・サスペンスの意欲的な力作で、本業の医師たちが数々の佳作を残すなか、門外漢の立場で医療問題の重大テーマに挑んだのは、頼もしい限り。しかし、作者に好意的な立場でも、本作は意欲が空回りして、カタルシスを損なった、と言わざるを得ない。連作短編形式のギミックが、物語のクライマックスに向けて、不信感しか生み出していないのだ。逆転劇を重畳化すれば、最後に示された“真実”も嘘くさいニュアンスが拭えず、大団円へなだれ込むダイナミズムが白けたものになってしまう。モジュラー的構成でじゅうぶん大風呂敷は拡げられたはずなのに……。どうしたもんか。

2018-06-21

[]連城三紀彦『悲体 』(幻戯書房)レビュー

悲体

悲体


 懇切丁寧な巻末解説とセットで、作品の輪郭が浮かび上がってくる。作者におけるミステリアスなものの淵源が、父と母の間の一筋縄ではいかぬ心理的な低回だった。本作が、作者の自己のルーツを剔抉しようとする意思の産物かと思ったら、しかしなお、還元されぬ余剰が出てくるように感じる。要するに、父と母の生のかたちが必然の相を帯びていたのかどうか、作者の逆説的な反転劇の手付きは、作者自身が自分の見出したものを、虚構として昇華させようとしているようにも思えるが。

2018-06-14

[]林 泰広『分かったで済むなら、名探偵はいらない 』(光文社)レビュー

分かったで済むなら、名探偵はいらない

分かったで済むなら、名探偵はいらない


 東川篤哉石持浅海と同期の作者の、まあとにかく再デビューとでもいうべき作品。

凝らした趣向が、どうしても鯨統一郎のあのシリーズと重なって感ぜられるのは仕方ないとして、シニカルロジックの冴えは堪能できる。けれども、デビュー作のインパクトと比べると、期待値がらみで、やや肩透かしを食ったか。