歌野晶午『ハッピーエンドにさよならを』(角川書店)レビュー

本日のエピグラフ

 しかし、一度出てしまった目は変えようがない。(中略)/問題は、過去ではなく未来だ。(「おねえちゃん」P40より)

ハッピーエンドにさよならを

ハッピーエンドにさよならを


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス9 
アレゴリカル
インプレッション9 
トータル43  


 十一編の「アンチ・ハッピーエンド・ストーリー」。奇しくも、大半の作品に共通するのが、“家族”という存在である。トルストイが「アンナ・カレーニナ」でしたためたが如くに、「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」のならば、つまりは、物語の“結末”が安易に予想がつかない、ということではないか。だから、「望みどおりの結末になることなんて、現実ではめったにないと思いませんか?」という帯コピーは、大胆な読者への挑発でもあるのだ。…………戯画化された“物語”の設定を、さらにアイロニカルな語り口がブラックなニュアンスを醸し出し、それゆえに“現在”の決して拭えぬ手触りを感得させてしまう。チープな偏執者の栄光と挫折、といったところか。