貫井徳郎『私に似た人』(朝日新聞出版)レビュー

私に似た人

私に似た人



 いわゆるアルカイーダと呼ばれるイスラム過激派テロ組織は、実はCIAが、相互に独立して動いているテロ集団のネットワークを、そう名づけたものだった。しかし、不明瞭な悪意の広範な蠢動は、そうすることによって、政治的に可視化されたのだった。本作で描かれる「小口テロ」は、あきらかにアルカイーダに類推できるだろう。本作は、いわばアルカイーダ社会とでもいうべき設定を、連作短編形式で展開した。一応、最終話でまとめられているものの、本の厚みに比して、カタルシスが薄い印象がある。要するに、「小口」の“物語”が網の目状に繋がっている、という小説総体の手触りが、後に残るのだ。作者の演出の意図は明瞭で、この世界で、果たして罪と罰、断罪と救済は、いかに基底的に振る舞えるか、ということに他ならない。