麻耶雄嵩『さよなら神様』(文藝春秋)レビュー

本日のエピグラフ

 「それで僕が君の望む未来に作り替えたとして、果たして君は作り替えたという僕の言葉を信じるのかい? 最初からこれが真実で、僕を嘘つき呼ばわりして、自分を誑かそうとしたと疑うだけだろうね」(「ダムからの遠い道」p.102) 

さよなら神様

さよなら神様



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル10
インプレッション
トータル45


 “愛”をめぐる探偵小説である。“神”にとって人間は被造物だが、それゆえに、“神”の人間への“愛”は、何らかの見返りを求めるものではない。無償の“愛”である。本作の中では、多様な脱構築的ギミックが凝らされているが、それらに堆積されて見えなくなっているものを探れば、そういうことになる。この“愛”の主が、“神”から人間に転換するとき、それは有償性を帯びるものになるだろう。困ったことに、人間は、無償のものより、有償性を帯びた“愛”のほうに、官能性を感得するのである。それを成長ととるか、頽落ととるか。