村崎友『夕暮れ密室』(KADOKAWA)レビュー

夕暮れ密室

夕暮れ密室



 学園ミステリの“古典”といえば、現在の時点でいえば、やっぱり東野圭吾のデビュー作『放課後』になるのではないか、と思う。学園というクローズドサークルで循環する悪意を、密室事件に仮託して、見事に浮き彫りにしていた。たとえば赤川次郎の一連の作品だと、パロディや成長小説というニュアンスが強くなる。現在のラノベ系のミステリは、ネタ消費で自己完結しているだけだが、さて本作である。実に12年前の横溝賞候補作の改稿だが、本作を閲するかぎりでは、竹本健治山口雅也のようなアンチミステリ的アプローチをも欲張った、青春群像劇だったが、推理の試行錯誤が、青春の低回と欺瞞の諸々を描き出すのと、そのアンサンブルが上手くいっているかどうかは留保がつくけれども、作者のリリシズムが、自家中毒的なキャラ意識を突き破っているのは、いい感じ。