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potasiumchの日記

2009-11-17

(外から見た)事業仕分け雑感

| 21:31 | (外から見た)事業仕分け雑感を含むブックマーク


 日本では「事業仕分け」という名のもとで研究予算等の縮小・再編が行われているらしい。公開された議論を聞いていると、質問者・回答者の双方に準備不足の面があるようには感じるけれど、枠組みとしてはこういう議論の場が出来たことは良いことだと思う。


 ただ、ちょっと外から眺める気分で議事録や関連ブログを見ていて、2つほど怖いと思ったことがあった。あまりまとまらないけどメモ。


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 まだかなりの人が科学研究(基礎研究)と技術研究(応用研究)を混同しているらしい。そしてどちらかというと技術研究を評価する視点で双方を捉えている。これは怖い。もし社会の役に立つかどうか(リターンが見込めるか)という統一基準で科学研究と技術研究が取捨選択されるなら、ほぼ間違いなく科学研究は全滅する。これは科学者はプレゼンが下手だとか技術者はプレゼンの天才集団だとかそういう話ではなくて、そもそも両者が目指す方向が違うことに由来する。科学の役割は直近の社会の役に立つことではない。仕分けで発言権がある人は、せめてこの2つが相当に異なる種類の営みであること、でもそれらは両輪として発展していくこと、を理解する人であってほしいと思う。


 ただ、その違いを理解した上で、民意として日本は科学を捨てる、という選択肢はありうると思う(技術も捨てろ、という人はさすがにかなりの少数派だと思う)。80年代と違って日本はもはや経済大国とも言えなくなりつつあるので、「基礎研究のただ乗りをしている」と非難されることも、もうないだろう。幸いにも人類にはアメリカがあるので(下記も参照)、科学を志す人はアメリカに来れば良い。比較優位的な意味でもその方が人類全体としての効率は良くなるかも(個人的には、寂しさ、あるいは悔しさを覚える選択肢ではあるけれど)。


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 仕分けとは直接関係ないけれど、関連ブログを読んでいて気になった、もっと怖い(かもしれない)ことがある。


 文部科学省の資料によると、論文の絶対数およびその被引用回数、つまり大ざっぱに言って研究の量と質について、アメリカは他国を圧倒している。


http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200801/08060518/015/008.gif

平成20年版 科学技術白書 第1部 第2章 第2節 我が国の科学技術を巡る課題−文部科学省

(REVの物置 - id:REVさん経由)


 あるいは、圧倒しすぎている。


 今回の日本の騒動は財政難がその発端になっている(と理解している)。アメリカだって盤石な経済基盤を持っているわけではなく、どちらかというと今後いつ壊滅的な経済破綻が起きて政治経済的に立ち行かなくなるか判らない。これほど集中が進んでいる中でアメリカが転けると、われわれが今知っている形での現代科学の相当部分は、一旦そこで途絶えてしまう危険性がある。もちろん論文としてまとめられたものは残るだろうけど、論文には書かれていない知見やノウハウ、研究者コミュニティが存続することによってのみ維持される人的・物的リソースは山ほどある。それらの継承が一旦失われてしまうと、もう一度回復するには莫大な時間とリソースが必要になる。


 人類の歴史を振り返ると、一旦興った科学が断絶するということは何度も繰り返し起きてきた。現代科学だけが特権的な地位にあると考える方が不自然かもしれない。ただそれはあまり自分で見たいと思う風景ではない。そういうリスクを分散させるためには、やはり日本の科学の火は消さない方がいいかも。(ってどっちやねん!)

vikingviking 2009/11/21 01:11 ご無沙汰しております。ご存知の通り、日本(の研究者たち)は大変な状況です。

アメリカの(特に経済面での)将来は、思いの外不透明のようですね・・・。それも踏まえて、せめて日本の科学の火だけは何としてでも残さなければならないと考えて色々な提言をしているわけですが、日本の研究者の大半が関心を持っているのは「自分たちの既得権益が保たれるかどうか」だけのようで。ため息ばかり出てくる今日この頃です。

QManiacQQManiacQ 2009/11/22 14:32 関係者の努力もあって、結局、科学予算に関しては他とは別扱いということで、復活の道が見えてきました。民主党の幹部たちも自分たちで始めた騒動の結果を見て、すこしは正気に戻ったようす。「スパコン世界一」というのが、特につぼにはまったようで、仕分けの親玉の枝なんとかという人まで、テレビで言い訳がましく「これを機に議論を起こせてよかったんで必ずしも切れという訳でもない」、これはまちがいなく復活しそうです。一方で若手関係ポスドク関係の縮減、消滅はあまり戻す事が期待できないようです。大型プロジェクト予算も切り込みは免れず、来年からポスドクのポストの激減は避けられそうにないです。

この騒ぎからいくつかの事が見えてきましたね。
1)あらたに政権についた政治家たち自身、別段科学技術政策で、なにか意見がある訳でも考えがある訳でもなかったという事。
2)一方、政治家を含めて大多数の国民のあいだに、世界一級の科学技術こそが日本の生存のひとつの柱だとの認識はあること。
3)ポピュリズム的変革の混乱では、関係者の意図とは関係なく、常に立場の弱いものにしわ寄せがいく事。一方で強い既得権益者はたいていの混乱は凌いでいける事。

哀しい浮き世の現実です。

potasiumchpotasiumch 2009/11/22 16:16 vikingさん,
ご無沙汰しております。ブログではいつも勉強させてもらっています。事業仕分けという話があること自体vikingさんのブログで知りました。

今後に関する提言、むずかしそうですよね。議論を聞いていると仕分けする側・財務官僚にもとくに定見はないように聞こえたのですが、そういう状況だと何をやれば納得してもらえるのかもよく判らない。まずは関係者全員が一応妥当だと思えるような、科学研究を評価する共通の基準作りが必要なのかなと思っています。(といっても問題が配分である以上、分野を横断した基準作りも実際はむずかしいんでしょうね。たとえば神経科学と惑星科学のどちらがより大事かなんて趣味の問題でしかない気もします。むしろこれまでどうやって決めてきたのかが気になるところです。毛利さんみたいな人を送り込めた分野が勝ちみたいになるのも何か違うような気もしますし。すみません全然まとまってません)

potasiumchpotasiumch 2009/11/22 16:48 QManiacQさん、
弱いものに皺寄せがいくのは確実そうなんですね…世知辛いです。若手を切るのはまず確実に全科学分野の将来に悪影響を及ぼすでしょうし、それが一部誤解に基づいた決定であるというのも悲しいところです。既得権益者が守ったという権益に若手の雇用が含まれていることを願うばかりです。

個人的にもGCOEで食べている日本の友人が何人かいます。仕分け後半はもっとまともな議論になると良いのですが…。

QManiacQQManiacQ 2009/11/22 19:32 ちょうどちょっと前に飛行機の長旅の中でアナトール・フランスの「神々は渇く」ってのを読んでいたので、帰ってすぐこの、言葉は悪いですが「みせもの裁判」風なものを見せられて、恐怖すべきか笑うべきか、ちょっと困りました。こういうのは一種の劇薬で、みんなの喝采を受け易いだけに、適用対象と適用方法をよほど注意しないと、物事の改善より改悪になったりする事もありますよね。

あまり注目されませんが、芸術支援の予算なんかもばっさりやられて、たとえばクラッシックのオーケストラなんかはもう瀕死の状態のようです。これで中期的には国際コンクールに入賞する人の数なんかにも影響しますよね。芸術家はさしあたり、我々よりはるかにこういうフォーマットには弱いです。なんせ仕分け人の親玉が言うには、もっと上手に、すぐ役に立つという事を手際よく言ってくれんと切らざるを得ない、っていってましたし。

もっともこういうのが当面続くとなると、我々も適応しますから、研究コミュニティには、見かけも颯爽とした舌の滑らかな美男美女で、イザとなったら喧嘩も上手な、いわばスーパー毛利さんがどっと増えるかもしれません。その分研究自体の国際競争力は落ちるでしょうが。あるいは、この段階だったら、芸術家は我々よりずっと強そうな気も(笑)

真面目な話、我々自身で、少数者の専制(今までのような密室でのボスの談合)と多数者の専制(今回の仕分け劇場)のどこか中間の正しいバランスを、早急に見つけないといけませんね。

やはり近代大衆民主主義の元祖米国では、こういった点をもう解決積みなんでしょうか。

potasiumchpotasiumch 2009/11/24 15:49 > やはり近代大衆民主主義の元祖米国では、こういった点をもう解決積みなんでしょうか。

直接政治に参加しているわけではないので詳しくは判りませんが、ロビー活動等を通じて大枠で予算を取っておき、具体的な分配は担当機関内で相談する、という形式になっているように思います。ここで日本と大きく違うと思うのは、こちらでは政府機関内にPhD持ちの研究者や元研究者が大勢いるということです。分配手法はDARPAみたいに小数専制に近いところもあれば、NIHのように綿密なpeer-reviewに基づいているところもありと、機関によって毛色が違うようです。

また日本ではあまり馴染みのない(?)考え方としては、公共事業として科学をやる、という点があると思います。景気刺激・雇用対策としての役割が重要、成果はまあ出れば良い、というスタンスで、個人的にこれは科学と相性が良いように思います。つまり科学という博打に大金を使うことに対して、国民の理解が得られやすくなるかなと。

ところで、芸術と科学が弁舌でもって予算を取り合うなんてことになったら見せ物としては面白そうですね。なんとなく体育祭の部活対抗リレーを思い出しました。

QManiacQQManiacQ 2009/11/25 01:22 >芸術と科学が弁舌でもって予算を取り合うなんてことになったら見せ物としては面白そうですね。なんとなく体育祭の部活対抗リレーを思い出しました。

ははは、たしかにそういうのが年末恒例の行事になったら最高の気晴らしでしょうね。どうせならあんな粗末な会場じゃなく、「科学芸術スポーツ仕分け」だけは、国会の本会議場、じゃなきゃサントリーホールとかで。

日本版リサ・ランドール博士が、プラネタリウムみたいに天井に星を投影しながら、宇宙の神秘を解明するポストLHCの新加速器建設を訴えるのを、仙石大臣がうっとりと聞き入る。つづいて指揮者の大野和士氏辺りが、シェイクスピア俳優よろしく、芸術のユニバーサルな価値についての大演説をぶって、福島大臣もメロメロに。そして最後に金メダル六つを帯びた北島康祐選手が登壇すると会場は総立ち、、、とか。

>日本ではあまり馴染みのない(?)考え方としては、公共事業として科学をやる

たしかに、いまのスパコンなんか典型ですが、はっきり言って半分位は公共工事なのに、全部先端科学技術と強弁して分捕るやり方なんですよね。どうせなら表立って公共事業といえば、正直で嘘がない分いろいろ良さそう。大体貰う方の精神衛生にもいいし、余分な理屈付けの書類書きも減ってより研究成果が出そうですね。今の政治家がそんな大らかな考えを認めるかは知りませんが。

結局は、国民は自分たちに相応の政治家を持つのと同様、自分たちに相応の科学、芸術、スポーツを持つという事でしょうか。

potasiumchpotasiumch 2009/11/25 13:35 > 結局は、国民は自分たちに相応の政治家を持つのと同様、自分たちに相応の科学、芸術、スポーツを持つという事でしょうか。

そうだと思います。そして日本は基本的には高い水準を保っていると思います。科学の場合は、上のグラフが端的に示すように、アメリカが外れ値なんでしょうね。

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