2010-12-09
■[就職]就職活動における「コミュニケーション能力」の中身
一見もっともらしいことを記者さんは書いたつもりなんでしょうけど、読んだほうにとっては疑問を感じる記事の典型を見ました。これ。
「コミュ力なし」は「内定なし」 企業と学生の間には深い溝:asahi.com
いや、このタイトルそのものには全面的に賛成です。コミュニケーション力についての、学生と企業の認識には深く広い溝があります。ただ、この記事そのものにはその溝をある意味広げかねない要素があると思いましたので、ついついエントリを起こしてみます。
といっても、【2ch】ニュー速クオリティ:名札を作り胸に付け「終わりました」と言う→「指示されたことしかできないの?帰って。」や 【就活】名札を作り胸に付け「終わりました」と言う→「指示されたことしかできないの?帰って。」 - (´A`)<咳をしてもゆとりで2ちゃんねるの人たちが指摘していることでもあるんですけどね。
「手を挙げるならまっすぐ。声が聞こえない。目を見て!」
「声、出ますか。おなかから出ますか。今より5倍出ますか」
「プラスαの心が大事。指示されたことしかできないですか」
「意欲のない人は結構です。どうぞお帰りください。言われたことをやらない人、一生懸命やっている人の邪魔です」
なんだか自己啓発セミナーを思わせる芳しい言葉の数々。「出身大学はさまざまで、東大、早慶などの卒業者も含まれる」と記事には書いていますが、では、当の朝日新聞社の採用者で、こういう態度をコーチや採用担当者や初配属の上司に向けてことさらに取る人ばかりなのか。あるいは逆に言えば、朝日新聞は新人社員にそういう態度を求めるのか。私はたぶん違うと思います。少なくとも、これまで私が知り合いになった朝日新聞社の社員は、そういうのを真に受けるタイプの人はぜんぜんいませんでした。半径5mの事例ばかりで恐縮ですけど。
朝日新聞社を含め、ブランド大学からそれなりの資質を有する学生を確保できる会社では、採用者にはことさらにこんなことを求めなくても、もっと自然な形でコミュニケーションを取れる人材が集まっていると思います。
ここに書かれていることは、あくまで、一義的には、パソナという労働者派遣業者が、派遣社員に求める資質に近似していると考えたほうがよさそうです。結果として他社で就職することもあるのかもしれませんが、そもそも派遣法では、3年経ったら派遣先の企業は派遣社員に対して直接雇用をオファーする義務があるのです*1。
では、この記事が本当に主張する「コミュニケーション能力」の本体とは何か。キーワードはいくつかあって、
「人間力」「企業が求めるのは、本音を聞き出す力、言葉の裏側を読む力、あるいは対人交渉力だったり、話を整理してまとめる力だったり。」「わかっている学生はわかっているんですが、言葉で説明しようとすると、難しい」「コミュニケーション能力って、主体性も協調性も誠実さも、ある意味チャレンジ精神も、全部含んだ言葉」
これらの言葉が示唆するこの記事における「コミュニケーション能力」とは、要は、見える限りの全人格と考えられます。そして、仮にAERAのこの記事が、一般的な企業が大卒者に求める「コミュニケーション能力」をそのように捉えているとしたら、私の実感ともだいたい合います。企業は、自分が何を求めているか自覚的でないからそれをコミュニケーション能力と呼んでいる。
だからこそ、学生が「コミュニケーション能力」を鍛えようと考えるとき、私などは「やめとけ」と思うわけです。狭義の、あるいは辞書的な意味でのコミュニケーション能力は「特定の相手に対する情報伝達能力と、特定の相手からの情報収集能力」というように理解されがちです。まただからこそこの記事に書いてあるように、ぺらぺら余計なことをしゃべりまくって自爆したり、ミクシィのマイミクとかツイッターのフォロワー数とか関係ない指標が気になったりするわけです。しかし企業が求める「コミュニケーション能力」すなわち“見える限りの全人格”は、そう単純に蓄積できるものではないと考えたほうが、気が楽になるというものです。
むしろ狭義のコミュニケーション能力と言う意味では、本記事中では、「前提の違う人と会話できるか否か」ということが一番答えに近いように思います。
ただし、そのために取るべきと書かれている対策が最悪。「基本は親子の会話。これができている人は、就活もうまくいくんです」、だそうです。これはたぶんウソ、というか、その親の資質によって子供の将来が左右されるという大変不幸な結果を招くだけのアドバイスです。その父親が優秀な組織人であったり、母親が立場の違う人のことを慮って話せる人であれば良いアドバイスですが、だいたいそういう人は、そもそも恵まれた環境で十分に就職できる資質を持って育っているので、結果として当たり前というか、そうでない親がいる人にとっては極めて残酷なアドバイスだと思います。
そして、「前提の違う人と会話できるか否か」は、これは“見える限りの全人格”と違って、トレーニングで育成することが可能です。生まれ育ちや社会的立場が違う人と数多く接するという荒療治もありますし、数多くの読書なかんずく自分の考えと違う/考えたこともないことを書いてある本を積極的に読むという伝統的なやり方もあります。思索力が豊かな人であればディベート的にある議論についてYes/Noの両方の立場から相手を論破する訓練を試してみるのも良いでしょう。いずれの方法にせよ、就職活動を始めて数ヶ月で身に付くものではなく、数年単位のトレーニングが本来であれば必要なことですし、実は、大学の講義は、こういった手法に満ち溢れています。すなわち、受験と異なる大学固有の学問の方法論を大学入学後早く身につければつけるほど、実は就職に有利になります。
本質としての人格を陶冶する。手段としての学問の手法を早く身につける。
いずれも数ヶ月でどうにかなることではないですが、就職への近道は、当たり前のような王道にあると思ったほうがよいように思います。
くれぐれも元記事の
「傾聴力」を鍛えよ
相手(企業)の土俵を学べ
目配り、気配り、心を飛ばせ
常に質問を用意せよ
会話でキャッチボールせよ
みたいな皮相なテクニックは考えないほうがいいんじゃないでしょうか。
それはそれとして、面接する側が必ずしも陶冶された人格と学問的に鍛えられた頭脳を理解できるとは限らないので、ありのままの自分の人格と頭脳を理解してもらえる面接官に出会うために、できるだけたくさんの会社を回るのは基本です。コミュニケーションは、相手と知的レベル差がありすぎると成立しない、というのはこれまた永遠の真実ですから。
ちなみに、言ったらアレですが、この文章は、一定程度以上の大学を卒業した学生向けの文章です。AERAの記事の本質的に無理なところは、この辺から生じていると思います。
(参考)
- 27 http://www.google.co.jp/reader/view/?tab=my
- 15 http://gaishishukatsu.com/archives/2911
- 12 http://reader.livedoor.com/reader/
- 12 http://xmasckjy.jugem.jp/
- 11 http://b.hatena.ne.jp/hotentry/diary
- 8 http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/potato_gnocchi/20101209/p1
- 8 http://d.hatena.ne.jp/sunafukin99/
- 7 http://search.yahoo.co.jp/search?p=公務員給与 いつあがる&search.x=1&fr=top_ga1_sa&tid=top_ga1_sa&ei=UTF-8&aq=&oq=
- 5 http://b.hatena.ne.jp/entry/www.asahi.com/job/syuukatu/2012/etc/OSK201012070066.html
- 5 http://www.google.co.jp/reader/view/
