2011-11-15
■[政治][経済]TPPで煽る輩にFAQ、に答えてみる
勢いで書いただけのエントリにこれだけアクセスが集まるのは本当に驚きだったのですが、それにしてもその感想欄を見てもコメントを見ても、論点が拡散しすぎていて、関心がある人においてすら議論がぜんぜん集約されていないよね、と思いました。もともと煽り色が強いエントリだったのですが、それにしてもちょっと頭の整理がされなさ過ぎなのではないかと。
なので、いくつか分かりやすい疑問点をまとめて、私なりのTPPに対する考え方を示してみます。煽ったことへの罪滅ぼしになればよいな、と思います。
TPPのメリットは?
貿易が自由になれば、基本的には消費者側に低価格かつ選択の余地が増えるからです。また、貿易が自由になれば、リカードの学説のとおり、全体として効率的な経済圏が成立するからです。以前話題になったなぜTPP反対論が盛り上がるのか - Baatarismの溜息通信とか高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門
に分かりやすく書かれています。
もちろん、この原則にはいくつかの例外があり、それらの例外については、自由にするべきではありませんが、TPPは、そのような政策的配慮を排除する仕組みではないと考えられます。その守るべきものを、政府がきちんと交渉してくれればよいのです。
自由化すべきではない分野とは?
自由化によって適用される市場原理では解決できない問題点を持つ分野です。具体的には、特許とか、公的医療保険とかの分野です。ただし、TPPは、特許などの知的所有権については、むしろその保護を強化する方向です。
TPPで日本の公的医療保険はどうなるの?
政府は、公的医療保険が国民全てをカバーしている、いわゆる国民皆保険を守ると答弁しています。ただ、国民皆保険が守られたとしても、現在のように混合診療を排除する形の公的医療保険が維持されるのかどうかまでは不明です。なお、混合診療の問題点について私の認識は混合診療のメリットとデメリット - NATROMの日記と同じですのでご覧ください。TPPがなくても混合診療の緩和は国の政策としてありうることですし、民主党政権は一時期、医療介護を成長産業と位置づけることによって混合診療に踏み出しかねない勢いでした(参照)。なお私は、医療を成長産業と位置づけることにも、その手段として混合診療を認めることにも、否定的な考えを持っています。
TPPで日本の農業はどうなるの?
TPPがあろうとなかろうと、農産品の関税は常に国際交渉で低下圧力がかかっていました。それとは別に、概ね国内的な要因で、農業は衰退を続けてきました。戸別保障の形をとるかどうかはともかくとして、国家予算のてこ入れなく農業が生きていけるとは思いませんが、それはそれとして、農業の輸出競争力や国内市場での販売力を高めることは、TPPと関係なく必要だと思います。そのためには、農協のような構造に手を入れるとともに、農業専業の農家の経営力を強化し、あるいは法人の農業参入を認めるべきであると考えます。なお私は農業に詳しいわけではないので、ネタ本はこれ↓
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関税率だけじゃなくて規制まで議論するのは何故?
貿易の障壁は、関税だけじゃなくて、国内諸規制にも存在するからです。しかし、人の命に関わる規制などは必要なので、それぞれ本当に必要な規制は何かを議論する必要があるのです。これまで日本が結んだFTA(自由貿易協定)が、EPA(経済連携協定)という名を冠しているのは、まさに国内諸規制の問題も含めて考えているからです。
TPPのメリットが小さすぎるのでは?
経済産業省の中野氏がテレビで怒髪天をついたと言われる話ですが、まあ既にそれだけ市場は自由化されてるってことですよ。そんなに大騒ぎするような話だとは思えんっていう根拠でもあります。
ASEAN+6を優先すべきでは?
ASEANとは既に経済連携協定を結んでいます。だから、ASEAN+6とやるということは、ASEAN本体ではなく、+6とやるということです。ちなみに+6の中には、中国、韓国、インドが含まれています。TPPにはいずれも含まれていません。+6を優先させるべきと言う議論はすなわち、アメリカとの交渉よりも、中国、韓国、インドとの交渉を優先させるべきという議論です。「TPPは国の基本に触れる議論だ」と主張する人たちはこれをどう考えますか?
TPPはアメリカの陰謀では?
アメリカ国内でも日本を入れるか入れないか議論が喧しいのに、陰謀なわけないじゃん。
TPPでアメリカが自分の既得権益を押し付けてくるのがけしからん?
1990年代の日米構造協議からずーっとそんななので、いまさら何をです。たとえば医療保険(がん保険)などは、アメリカ企業(アフラックとかです)の優越的地位を守るため、日本の生命保険会社のその分野への参入を妨害しまくりました。それをどう押し返すかが政府の交渉力でしょう。
自由化で俺の仕事がなくなったらどうする?
別の仕事についてください。東南アジアとかからの輸入品のせいでなくなる仕事は、もはやこの豊かな日本では存在してはいけない仕事です。もっとクリエイティブで、一人当たり時間当たりの賃金に相応しい価値のある仕事をしてくださいな。と言いつつ、輸出入が困難な国内限定の対人サービス業務は残り続けるので、そっちなら大丈夫でしょう。あと、金融政策が緩和的ならば仕事も増えることが期待できるので、日銀が日本円をちゃんと供給すること(あるいは政府がきちんと日銀に影響力を行使すること)に期待しましょう。
TPP自体に問題があるかどうかはともかく、民主党の交渉能力に疑問がある。
おっしゃる通りでございます。実際、既に言った言わないで問題になっているくらいですからね。でも、その場合、TPPの賛否を問われれば、TPPはいいけど、民主党政権がそれをやるのは怪しからん、という話にしかならんですよ。もう一つ心配なのは、民主党政権は、国民皆保険のような基礎的な政策でも、ついつい「政治主導」の名の下に蹂躙してしまいかねない軽さがあるんですが(参照)、それもこれも含めて、2年前の選挙で民主党政権を選んだ人たちの問題でもあるんで、まあ自分の胸に手を当てて懺悔してくださいってことです。
ざっとこんな感じで。貿易にも外交政策にも専門家ではない素人の現状認識なんで読むに値しないと言われればその通り。ごめんなさい。
(追加)
ISD条項、ラチェット条項について、不平等条約じゃないの?
経済産業官僚の中野氏が主張すると言われる内容です。でも、参加各国も同じ条項に規律されるのであれば不平等じゃないですよね。あとは、政府、あるいは訴を提起する企業の交渉力の問題でしょう。まあ、経済産業官僚ご自身が不平等だと言うならば、それは仕組みの不平等じゃなくって、経済産業官僚自身が、他国のカウンターパートと比べて能力がないという自白でしかないのではないでしょうか。要は、中野氏は他人を責める前に自分で懺悔しろってことです。
TPPで大量の外国人労働者が来るだろ?
TPPの射程はそこまでは含まれていないようです。ってか、アメリカ自身が反対するでしょそれ。メキシコ−アメリカ国境の物々しい武装を知っている人であれば自明なのですが。
(参照図書)
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