常夏島日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-11-19

[][]オーナーがいる会社と、いない会社、あるいはユニクロオリンパス

asahi.com(朝日新聞社):ユニクロ、新卒一括採用を見直しへ 大学1年で採用も - ビジネス・経済を読みました。

 カジュアル衣料最大手のユニクロを展開するファーストリテイリングは、来年にも大学新卒の一括採用を見直す検討に入った。従来の慣行にとらわれない採用方式が、企業に広がる可能性がある。柳井正会長兼社長が朝日新聞のインタビューで明らかにした。

 現在、同社は国内では年1回採用を行っている。新しい方法では、採用時期を通年とし、選考する学年も問わない方式を検討している。柳井氏は「一括採用だと、同じような人ばかりになる。1年生の時からどういう仕事をするか考えて、早く決められる方がいい」と話す。

 具体的には、1年生の時点で採用を決め、在学中は店舗でアルバイトをしてもらい、卒業と同時に店長にするといったコースが想定されるという。

http://www.asahi.com/business/update/1118/TKY201111180631.html

読んだ人の多くは、単なる青田買いで大学教育の否定ではないかとの感想を抱くようですが、私は必ずしもそれだけを読み取るのは若干浅いのではないかと思います。


むしろこの仕組みの肝は、柳井社長がインタビューで言うとおり、多様性のある人材を確保したいということだと素直に考えるべきだと思います。だいたいが、「青田買い」という言葉自体、新卒一括採用を暗黙の前提にした批判です。稲が実り収穫する時期は決まっているからこそ青田買いが問題になるのであって、新卒一括をやめるのなら、青田買いという概念自体成立しません*1。そして、大学を卒業した段階で同時期に入社する人たちは、既に、大学時代から学業と店員の両立をやってた人もいれば、単に勉強だけやってた人もおり、ひょっとしたら既卒の人もいるので、もはや同じスタートラインに乗ったキャリアパスを歩むとは限りません。「青田買い」批判は、多くがそのように大学1年生の時に事実上の内定を獲得する前提に立っている可能性がありますが、多様性の確保を前提とする仕組みなら必ずしもそうとは限りません。だとすれば、つまり、一括採用につきものの「同期」と言う概念も存在しえません


 ファーストリテイリングという会社の特質

そもそも、ファーストリテイリングという会社では、こうして採用した新卒がそのまま会社の中の階段を上がっていくとは限りません。ユニクロのパリ進出の時の広告を担当した部長のような重職も中途採用でしたし、そもそも、柳井氏が一線をいったん退いて社長を譲った相手も、内部登用ではなく、中途採用の人でした。ただ、社長が務まる人は稀なので、給料は高く払います。でも、満足する仕事ができなければ、見極められた途端に、お払い箱。現に、その社長は、数年足らずで首になり、柳井氏が社長に復帰しました。


ファーストリテイリングでは、つまり、社長ですら替えが利く人材なのです。


社内全ての人材が替えがきく人材であるというこのような仕組みは、アメリカなどでは端的な形でしばしば見られる仕組みです。仕事の流動性が高いということは、そういうことです。アメリカの会社では、株主負託を受けた取締役会がその見極めの任を担います。では、ファーストリテイリングでは、その見極めは誰がするのか?


当然、オーナーである、柳井、その人が見極めをします。


オーナーがいる企業では、全ての役員、社員は、オーナーの利益を最大化するために存在します。ファーストリテイリングのように、社長から新卒採用の社員まで徹底してその思想で一貫している会社はさすがに稀ですが、基本的には、オーナーの前では、いかなる社員も同じです。役に立つか立たないかだけで判断されます。


 オーナーがいない会社の行動原理

もちろん、日本の会社、特に上場企業の大半では、柳井氏のようなオーナーは存在しません。むしろ、銀行や生命保険会社のような金融機関や、取引先、投資信託が、5%程度の部分的な大株主である会社がほとんどです。その一つの典型が、昨今話題の、オリンパスです。


オリンパスは、こないだまで、最大の株主生命保険会社で、その後にいくつかの金融機関が続く株主構成の会社でした。主な取引銀行は事実上存在せず、3大メガバンクと等距離外交に近い関係を結んでいました。株主は、自社の法人契約の生命保険を増やしたいとか、資金繰りに参画したいとかの自前のビジネスにつながるメリットを求める人が多く、純粋にキャピタルゲインインカムゲインそのものを求めて経営に関与する動機を持つ株主は多くありませんでした。つまり、オリンパスの経営陣は、株主にも、取引銀行にも関与されない経営を目指し、かつ、実現していました*2


株主にも取引銀行にも左右されないなら、誰のためにオリンパスの経営は存在していたのでしょうか?


消去法で考えれば、オリンパスの役職員集団である、と結論できます*3

オリンパスの経営は、オリンパスの役員・社員集団に貢献するために存在していました。


そうした人間集団にとっての、新卒採用活動は特別な意味を持ちます。すなわち、利益共同体である役員・社員集団に、新たに参加させてよい人を選ぶ機会です。一生付き合う良き仲間たりえる人物かどうか厳選し、そしてそのようにして選んだ人々は、同期というしがらみと、先輩後輩というしがらみで利益共同体に取り込み、その代わり、思ったほど仕事が出来なくても終身雇用を保障し、ずば抜けた人材がいても当面は処遇を極端に上げることなく、仲間内が納得する範囲で名誉と処遇を徐々に付与しながら、そのような優れた人材に自分たち人間集団の将来を委ねられるかどうか長期的に慎重に精査していきます。ちなみに最近ツイッターなどで話題になった「若い人への助言 - さまざまなめりっと」に書かれている処世術などが有効なのは、このような人間集団が会社の基礎を占める場合です。


「同期というしがらみと、先輩後輩というしがらみ」に取り込むためのスタートラインが、新卒一括採用なわけです。この仕組みの中では、同期の中に、大学1年のときから会社にコミットしており採用即店長に抜擢される人間がいては困るのです。「同期」には最低限のばらつきは必要ですが、先輩より明らかに年上の人がいても困るのです。だから、新卒一括採用なのです。


したがって、株主というオーナーにも取引銀行にも左右されない、ムラ社会的企業においては、新卒一括採用は、論理的必然に近い仕組みになります。


結果として、オリンパスという会社では、株主価値に大きな毀損を与えるスキャンダルが発生しました。しかし、報道されている範囲で、これは、オリンパス保守本流である財務畑の仲間内で醜い秘密を糊塗しようとしたことが一つのきっかけだったようです。まさに利益共同体らしい判断です。そして昨今のスキャンダルが発覚してそれを糾弾する内部からの声は、やはり、オリンパスという組織の維持を第一義とするものでした。病は深い。


 まとめ

もちろん、日本の大半のオーナー企業であっても、大企業のほとんどは新卒一括採用をしており、会社幹部のほとんどは内部登用です。非上場で日本を代表する企業であるサントリー然り、竹中工務店然り。ファーストリテイリングの人材戦略は、その意味で多少特異なものだとは言えると思います。ただ、オーナーが人を選ぶ態勢にある会社における新卒一括採用と、オーナーなき会社における新卒一括採用の意味は、上記の通りぜんぜん違います。


では、オーナーがいないことがほとんどである日本の大企業において、新卒一括採用がすたれていく可能性はどこにあるのでしょうか。その企業に勤める人の集団の利益のために存在する企業自身は、いかにして自分たちの身代わりになる仲間集団の補充を、仲間内意識を解体する方向に進みかねない新卒一括採用の廃止によって行うことができるのでしょうか。


口では新卒一括採用は不合理だとか言いながら、上記のファーストリテイリングの記事を見て「青田買い怪しからん」と思うような人は、実はマインド的には新卒一括採用的ムラ社会にどっぷりつかっているのかもしれませんよ。


別の言葉で端的に言えば、「若い人への助言 - さまざまなめりっと」の感想欄で「古い」とかと言いたくなった人が上記ユニクロの記事の感想欄で「青田買い乙」みたいなことを言いたくなったとすれば、それは「新卒一括採用」というルートを通じて相互に矛盾があることに気づかない能天気なバカであるということです。おまけにその人が新卒一括採用を否定しているとすれば、つける薬がないっつーか、だからお前はろくな会社に内定をもらえないんだよ、と、ぱっとしない会社に就職して十数余年、うだつの上がらないサラリーマンになってしまったおっさんが捨て台詞を投げておきます。



(参照)

大企業に就職した「将来有望な若者」が本当にしなければならないこと - 常夏島日記

就職活動の制度について批判をするときは、我と我が身を振り返ったほうが良い - 常夏島日記

*1その意味では、冒頭の朝日新聞の記事には、恐らくインタビューした記者の側に新卒一括採用を前提としたバイアスがあって、だからこそ単なる一例に過ぎない話を具体例として挙げてしまった、偏見込みの記事であるとも思えます。

*2今回の事件の前までは、ですが。

*3追加:ブックマークの指摘のように、顧客や地域社会を含め、他のステークスホルダーも多々存在しますが、それらは、役職員集団に比べれば重要性が低いと考えられます。自分のことをさておいて顧客や地域社会に貢献するというのは、ありえないではないですが、あまりに美談過ぎます。特にオリンパスのように、独占市場で人の命に関わる商品であるにもかかわらず独占利潤をむさぼってきた会社ではなおさらです。

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