アルパージュ

projetdelundi2007-11-25

きのうにつづき神楽坂。
チーズというのは値が張る割に当たり外れがあるものだが、アルパージュで買ったものでおいしくなかったのはひとつもない。
ホームページを見るだけでよだれが出る。
店主の森さんが巡ったフランス、イタリア、スペインなどのチーズ産地が写真とともに紹介されている。
「チーズというのは味だけじゃないと思うんです。気候とか風土とか食文化とか背景に複雑なものがからみあっている。そういうことを知っていると食卓での話題にもなるし、おいしさがちがってくると思うんです」
フランスでは「ひとつの村にひとつのチーズ」と言われ、その数は千に及ぶ。
ちがいは、ミルクや製法、牧草、黴の種類、収穫の季節や熟成期間による。例えば、アルプスのほうでは保存がきくように硬いものが多く、ブリーやカマンベールなどやわらかいものは交通が発達したパリ周辺で産せられる。
シチュエーションによっても味は左右される。
「チーズの魅力というのは奥が深いところだと思うんです。あるチーズのことを一概においしいとかおいしくないとか決めつけられません。おいしく食べるためには熟成の具合が食べごろじゃないといけないし、旬もあります。人の好みにもよりますし、合わせるワインによってもちがってきます」
その様々な条件を限りなくベストにもっていくためにアルパージュは最善を尽くす。
「100%対面販売にこだわっているのは、人によって好き嫌いがあるからなんです。匂いが苦手だという方には食べやすいものもありますし。お客様にはなんでもいいから希望をいっていただきたいんです。きょうはこういうのを食べたいとか、前にこういうのがおいしかったとか。ワインが好きだとか、日本酒が好きだとか、手がかりになることならなんでもいいんです」
森さんの感覚は実に細やかである。ピクニッケでチーズを食べることをいうと、それは何時間後なのかとか、きょうは晴れていて温度が上がりそうだからよかったとか、ひとりひとりのお客さんがチーズを口にするところまでイメージして売っている。
「自分が食べておいしいと思ったものを他の人にも食べてほしいと思ってはじめました」
チーズに対する情熱は驚くばかりのものだ。自分がチーズを口にして天に昇るような心地になったその同じだけの思いをお客に味わってもらえなければチーズを売る資格がないと、それぐらい思い詰めているようにすら感じられた。
以下の言葉は特に印象深いものだった。
「動物を殺さずに食べ物を生み出せるのもチーズのすばらしいところです。余った牛乳を捨てずに済むし、冬の寒いあいだも保存食として食べられる。チーズは自然の贈り物だと思うんです」
わたしの考える理想の輪廻転生とは一介のネズミとしてアルパージュに住み込むことである。