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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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税とオンライン広告とラッファー曲線

最近またマンキューの教科書を読んでいます。ミクロ編の Principles of Microeconomics isbn:0538453044 で税金についてなかなか面白い事が書いてあるのでメモします。

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まず需要供給曲線について復習。需要供給曲線というのは、生産者と消費者がそれぞれ自分のトクになるように市場で振る舞うと、結局みんなにとって一番トクな値段に落ち着くという事を示した物です。それぞれお互いが得した量を余剰 (surplus) と呼びます。特に消費者が得した分を消費者余剰 (consumer surplus) 生産者の分を生産者余剰 (producer surplus) と呼びます。例えばなぜ消費者がトクするかというと、ある値段に決まったときには、本当はもっと出せるのに意外と安かった!と思う人がいるからです(図の赤い部分)。生産者の場合は、本当はもっと安く売れるのに意外と高く売れた(オレンジの部分)が余剰です。

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さて、現実はもう少し複雑で、実際には物を買うと税金がかかります。ここで余剰の一部が税金に持って行かれます。税金がかかるとその分だけ生産者は値段を上げようとするので供給曲線が上に動き価格が上がります。ここで、値段が上がったとしても、そのまま税収になれば社会全体としては問題が無いはずですが、実際には値段が上がったために物が買えなくなる人や売れなくなる人が現れ、市場規模が小さくなります。このように税によって社会全体でまるまる損する分を死重的損失 (deadweight loss) と呼びます。

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税による死重的損失の量は、商品の性質によって変わってきます。これは、価格が変化した場合に需要や供給が変化する割合が違うからです。もしも商品が贅沢品で大して必要じゃなかったり代わりの物がある時は、値段が上がると需要はすぐに落ちます。このような商品を弾力的 (elastic) と呼びます。グラフにあるように、このような商品の死重的損失は大きく、税をかけるのは難しいです。なぜなら、税金がついて値段が上がると誰も買わなくなるからです。一方で、値段が上がっても買わないわけには行かない生活必需品は損失が少なく、効率良く税を集める事が出来ます。

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死重的損失のせいで、税率をいくら上げても市場が縮んで税収が上がらないという事が起こります。これを図で描いたのをラッファー曲線 (Laffer curve) と呼びます。最初税率が小さい時は税率と共に税収も上がるのですが、ある一定の税率を超えるとみんな物を買わなくなって逆に税収が下がってしまうという事を示しています。現実世界の税率がラッファー曲線のどのあたりにあるだろいうかという話はなかなか難しい議論です。

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さて、メモはここまでで以下私の妄想です。この話を読んで、税というのはウェブにおけるオンライン広告と似ている!と思いました。価格をアテンション(アクセス数やクリック数など、どれくらいじっくり見ているかを表す用語)、税をオンライン広告に当てはめれば同じような議論が出来ます。例えば基本的な需要供給曲線の話をすると、あるウェブサービスにじっくりアテンションをかけられる人というのは少なくて、チラ見の人は多いわけです(右下がりのユーザー曲線)。一方で、サービス提供者は出来るだけ沢山のアテンションが欲しいと考えています(右上がりのサービス曲線)。というわけで全体としてだいたいのアテンション量に落ち着きます。

さて、ここでサービス業者は収益を上げるためにウェブの一部に広告を載せたいとします。こうするとユーザのアテンションのうち広告率の分だけ広告主に向かう事になります。当然広告を乗せるとうざいので、神経質な人はもうそのウェブサイトに行かなるでしょう。このように広告で減った分のユーザがオンライン広告における死重的損失になります。死重的損失によって、広告率を増やしてもそれ以上広告益が伸びない線が現れます。つまり、広告でもラッファー曲線が存在するという事です。

これが、なぜウェブサービスによって広告の量が違うかの説明になるかもしれません。ウェブサービスにも弾力的な物と硬直的な物があります。もしもサービスがブログや検索エンジンのように強い競争にさらされていると広告がユーザーに余分なアテンションが強いる事ですぐにユーザは離れていきます。つまり、弾力的だと言えます。この場合最適な広告率は小さくなります。逆に、なかなか離れがたい SNS やエロサイトの類は多少余分なアテンションがあってもユーザが離れないので最適な広告率は大きくなるでしょう。

と、ここまで全く調査もせず想像だけです。でも経済学を応用してオンライン広告について定量的な性質を調べる事で、未来のウェブの姿が見えると面白いなと思います。実はこのような議論がどこかですでにあるはずだと思って色々探したのですが、オンライン広告というとマーケティングと商売の話ばかり引っかかって見つからなかったのでここに書きました。