時の娘 感想

 『時の娘』はロマンティック時間SF傑作選と銘打たれているように70年代以前の時間移動が用いられた短編が選ばれています。どれもこれも時間移動の手続きがおおらかで気にする人は気にするかもしれませんが、ロマンチックな純愛小説ばかりで好みな人にはたまらないでしょう。
 名高い物ばかりではなく、隠れた佳作も選ばれたようで個人的に読んだことが無いものばかりで嬉しいチョイスでした。
 それでは各短編ごとに一言。


・「チャリティのことづて」
 書かれたのは1967年ですが、いきなり何と言う純愛でしょうか。セイレムの魔女が題材で時を越えた精神感応だと――エロゲ展開しか思い付かない自分が憎い!


・「いまをむかしに」
 名前はよく聞きましたが、デーモン・ナイトの小説は初めて読みました。
 短いながら設定が判るまでの混乱、判ってからの先の見通しの悪さのわくわく、ワンワードの結末と多分完璧と、全てが非常にレベル高くて、成るほど才能があるなあと実感しました。出だしの優雅さも効果的でした。
 ナイトの他の作品読みたいので、復刊希望。


・「台詞指導」
 すれ違いロマンスで、転がり方がフィニィのタイムスリップ物らしかったです。


・「かえりみれば」
 おばさんが混乱を起こすエフェクトのないバタフライ・エフェクトと言うか、はた迷惑なコメディでした。


・「時のいたみ」
 良いビッチとネトラレ―――ではないけれど色々と酷かったです。どの短編も当てはまるのですが、カジシン好きにはかなり合うかもしれません。


・「時が新しかったころ」
 流石はロバート・F・ヤングです。外枠はまさしくヤングな正しいボーイ・ミーツ・ガールとその別離。そして当然のように示唆されたハッピーエンドにゆるやかに向かっていきます。おおらかな設定が純真な語り手による真っすぐな文章で語られて和みました。白亜紀の描写も慎ましい出会いもつかの間の優しい日常も愛おしい。ただ牧歌的なジュブナイルが好きなら気に入るでしょうが、人によっては無理かもしれません。
 

・「時の娘」
 うーん。説明したくないというか、最後の一文が……。
 語られない感情が怖い小説でした。


・「出会いのとき巡りきて」
 時を越えて追い求める系統で壮大かつスピード感があります。それだけで、代わりに時間や人物関係など全ての描写が書き込まれていないため軽い。本短編集の中では一番下に感じました。


・「インキーに詫びる」
 トリを飾る短編。装飾された文章によってころころ変わる視点と時間が語られます。そのせいで語られる結像がややピンボケしています。けれども、理解した時には気の長い複雑な恋愛物であり、少年が紆余曲折を経て成長する青春物でもある素晴らしいストーリーが浮かび上がります。
 まさしく隠れた傑作でした。犬好きにもお奨めです、多分。


 以上。タイムスリップでロマンティックと聞いたら読みたくなる病を持つ人は迷わず買いです。

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