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2012-03-13

[]いろとりどりのセカイ 雑感

【真紅】「お前の明日が、今日よりもずっと、楽しい事で溢れているようにと、祈ってるよ」

 セカイは祈りで満ちています。幸せになる、という意志から発せられた祈りで。

 本作の主人公・悠馬には自分以外からは見えないし会話も出来ない魔法使い・真紅が常に付き添っています。真紅の力を借りることで、悠馬は人の痛みを肉体的も精神的にも癒すことが出来る能力を有しています。この真紅は悠馬としか話せないのですが、話し事が大好きであり、夜になり人目を気にせず思いっきり悠馬と話せる機会があると長話を毎回ねだります。もっともっと話そう、話そうと幸せそうに請います。そして真紅は話し終わった後に一日の疲れに眠る悠馬に対して毎晩毎晩一句をある程度変えながらも大筋では変わらない内容を祈ります。

 ――悠馬が幸せになるように、と。

【真紅】「ああ。悠馬の明日が楽しい事でたくさんたくさん、溢れているようにって、祈っているよ」

 

 では、幸せとは。

 本作における幸せの定義をざっくりとまとめると“目的/願いをかなえること”となるでしょうか。

 魔法使い・真紅の願いは"恋をすること"。悠馬が恋人を作り、幸せになること。そのために悠馬と共におり、彼が癒やす能力を使うのはその目的に関する範囲であるのを望みます。なにせその能力には代償があり、使う毎に記憶が無くなるのです。ただし日記に書いたことは忘れないので毎日口うるさく日記を書くように言います。その日記を書く時の姿勢が真紅をだっこして話しながらという、たいそう羨ましいものなのですが、取りあえずはおいておきましょう。


 そうして物語はほぼ、目的を成就して悠馬がヒロインたちと結ばれるように進んでいきます。

 ヒロインは5人で、制限がかかっていて最初は4人を選べることができます。4人の名前は加奈、澪、鏡、つかさ。シナリオの大筋ではそれぞれのヒロインは別のセカイから来た存在であり、元いたセカイでの問題に悩んでおり、問題を何とかしようとなります。ミクロの問題を複雑にするマクロな難関として、どのセカイでも人がどんどん消えていく現象が起こっています。


 ここで個別に語る前に作品の設定について触れておきましょう。

 まずセカイについて。さらりと"別のセカイから来た"と書きましたが、本作は森羅は"一中心多世界構造"を取っているとしています。中心は本屋のようなものであり、作品内の人間は本屋からとあるセカイに送り出されて生まれて死ぬまで暮らし、死ぬと本になり再び本屋に戻ってきます。

【鈴】「そこへは生きている人間はいけないんだ。私たちが“最果ての古書店”と呼ぶその本屋のドアを開けられるのは、死んだ人間の命だけ」

【鈴】「その場所には、その本屋には、死んだ人間の魂だけが自動的に集められ、そうしてその命は一冊の本に纏められる」

 つまり人の命は多世界内で循環しているということになります。

 そして本作の一つの強みが個別のセカイの作りであり、実に魅力的に描かれます。他セカイの人間は認識されないセカイだったり、妖怪が住むセカイなどは序の口で有り、巨人が春を運ぶセカイや、ロケットの夏のとどのつまり/突破するあてもないロケットに子供を乗せて送り出すセカイというとんでもなくワクワクする在り方が切り取られます。イタリアの作家カルヴィーノの著作に『見えない都市』という逸品が有り、そこでは家々の玄関が糸で結ばれてる都市や、記憶しやすさだけが求められた配置をした都市などが、都市を主体に生き生きと書き出されています。その名作に届かんばかりの欠片だった、と過大評価をしたくなるぐらいに、センスがありました。

 どれだけ強調してもしたりないくらいに本当に嬉しいことに最初の始まりからセカイの見え/描き方に私はノックアウトされたのです。

 ――空には割れた月。指す言葉は

 ――満月の夜。

 それは寝つきの悪い、とある真夏の夜のこと。

 夢のように真っ白な羽根や、あるいは雨でも雪でも雹でも、何でもなくて・・・・・・。

 空から少女がひとり、降ってきた。

 なんて、美しい背理。こんなものを成り立たせられたらぞっこんにならざるをえません。


 異能力/魔法について。前の段落で引用したセカイの中心の本屋について説明している台詞はこう続きます。

【加奈】「死んだ人間は本になる?」

【鈴】「そう・・・・・・心の中に、夢を叶える特別な力を付与されて」

 この特別な力の意義は幸せのために有用であることです。たとえどれほど些細だったり、役に立たなさそうでも、生まれてきた目的/幸せになることにつながっています。

 ここでは主人公の力の使わせ方が巧みでした。肉体も精神も癒す能力であり、精神を癒やす際には心の傷を肩代わりします。そして目の前にあるのはヒロインの心の傷。あとの使いようは想像の範囲内でしょうが、設定と使用の仕方は見事なものでした。しかも肩代わりして、解決するのはごにょごにょというあたり徹底して心のありようのみを重視しているなあという印象を抱きました。

 加えて前述のように代償は忘却。忘れるのは――何かとは言いませんが収まりのつかない収まり方が何とも言えない苦みを作り出していました。


 それでは個別に簡単に個別に触れていきます。

 つかさ。元いたセカイの事情から簡単には集まらない大金をもとめている勤労少女。彼女のルートはいい話なのですが、ぶっちゃけ退屈でした。お金を稼ぐ話を美少女ゲームの範疇で面白くするのは難しいのでしょうかね。それこそ丸戸史明さんや、丸谷秀人さんか、それこそWWEを作っている支倉凍砂さんとか出ないとなーとなるのでしょうか。


 鏡。引きこもり巨乳少女。これもうん、普通の出来でしょうか。特にシナリオに関しては言うことはないのですが、サブヒロインと思いきや元いたセカイの家のことを含めて、随所で関わってきます。


 澪。幼なじみキャラ。このシナリオは素晴らしかったです。手放しで褒めます。彼女がどのような意味で他セカイキャラなのか、そしてどのような悩みを持っているかは杳として解り難くなっています。解った上での成り行きのどうしようもなさと、解決の困難さが茫洋さに輪をかけていました。これだけでもよく出来ているのに、このシナリオではさらに混乱する要素をぶち込みます。それは、難敵です。とりわけ虚淵・奈須・東出・るーすぼーい以降に顕著ではありますが、美少女ゲームでは魅力的なライバル・宿敵キャラは数います。数在れど、この澪ルートで出てくる敵はラスボスと言いたくなるぐらいの存在感があり、画面上で出現したときの絶望感は比類なかったです。

【悠馬】「・・・・・・あんた、負けたな」

 この台詞が吐かれたときのドキドキは今思い返しても心が沸きたちます。たとえ敗れ去った敵だとしても尚恐れるキャラを作り出したのはただ凄いなと。

 途中に『虐殺器官』がガジェットとして出てきたり、シナリオライタの趣味が炸裂したのかなと見ています。だとしたらもっとやって欲しいですね。

 

 加奈ルート。灯台から落ちてきたテンション高い不思議少女。これまた最高でした。偽名を名乗り、テンション高いアホの子のようでありながら、本を乱読する彼女。加奈のルートはまさしく彼女を読み取っていく話になります。より詳しく言うと、このルートは前半と後半に分けることが出来、前半がセカイから人がどんどん消えていく現象にまきこまれた親子をつれて歩く多セカイ遍歴、後半が彼女の過去の話となります。前半の多セカイ遍歴は個別のセカイ設定が存分に味わえて、これだけでも充分であり、秀作となりえています。後半があるからこそ出色となっています。キーワードは異世界でのサバイバル。文章は平坦なのですが、淡々と語られる意味を正しく理解したときに結ぶイメージの壮絶さといったらもう。


 この4人をクリアすると、トリである真紅の話にようよう至ります。各ルートを楽しみながらも、だっことか手をつなぐとか「エッチなのは嫌いなんだけどな」とジト目るなど愛くるしい姿を披露しきっていた真紅にメロメロな身としてはやっとキターとテンションが上がるわけですよ。それまで散々他セカイの話されたし、ある程度過去の話も整理されたし、後はもう共通ルートで語られた真紅と今の真紅との差異が解れば終わるんじゃないかなと。

 ・・・・・・当然、考え抜かれたルートをくぐり抜けてきた割には甘い認識でした。

 真紅/魔法の源/セカイの中心に至り――当たり前のように何もかもがひっくり返っていきました。

 リフレインしていた「助けて」という声、“恋をする”目的の出所、忘却する記憶の意義、人が消えるセカイの異常etc。

 設定がおさまる所に落ちていき、あるようになっていき、不自然は自然にはまり、ただただ彼と彼女の物語の剛速球で感情が根こそぎ持って行かれます。“愛”のお話にここまで動かされたのは久しぶりです。前はまあ『Forest』のオーラスの“愛”だったりするのですが置いといて、

【真紅】「私のこの好きはどういった種類の好きなんだ? 友情? 愛情? 家族愛?」

 この海辺での滂沱と、

 ――残された俺の人生は幸せだった。

 それからのおしまいに涙腺が刺激されました。ああ、今まで攻略してきたヒロインたちとの心の交流はここで違う形で、寂しく豊かに実るのか、と。


 以降は語るに及ばず。・・・・・・なんかもう散々に語り尽くしている気もしますが、もうこれ以上――とどのつまりは言いません。プレイした人だけが幸せを目に焼き付けてください。


 他の要素。

 絵は最高でした。真紅可愛いよ。

 音楽はシーンシーンをきちんと盛り上げていました。

 声もキャラに合っていました。特に真紅。もうしゃべり方がこれ以上無いくらいに真紅でした。


 以上。ぐだぐだ述べてきましたが、まとめればこうなります。私はこの作品を愛している、と。



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