月に寄りそう乙女の作法 雑感

  • 女装物として

 公式ホームページを見れば判りますが、本作は美少年が女装しメイドとして女学院に通うという内容でして、ジャンルは所謂一つの女装物というやつです。
 女装物は一定以上の市場があるらしく、エロゲでもそれなりの数の作品が出されています。主流は(1)使用人=メイドとして女学院に入学しハイソな美少女らに気に入られる、(2)一生徒ととして女学院に入学し一番の人気者になる、の2パターンに分けられる気がします。参考までにErogameScapeのPOVをば→POV「女装もの(女装ネタ)」 ErogameScape-エロゲー批評空間-
 正直、個人的にはぴんとこない分野です。バれるだろうという野暮な突っ込みは兎も角として、男が想像した"男の知らない女だけの友愛"から、隠されていた性別が判明した揺れ動かしで男が望む恋愛へ昂揚していくタイプは何とも受け入れにくいところがありました。
 ただ"美少年の女装"に時めかないかと言えば、まあ絵によるよね!、と。
 あと、"美少年の女装時の女としての行動"に興奮するかと言えば、興奮するぜ!、と。
 例えば、『処女はお姉さまに恋してる』という美少年が誰もが敬愛するお姉様になる古典があります。その作品で最も好きなシーンは、主人公が体育教師にプールに参加出来ないことを告げに行く場面です。体育教師が一人であることを確認し、ドキドキしながら、赤面して告げる、"今日は月経なので参加出来ない"という意の言葉。――なんという、時めき。論理的にそれを選び、感情的に反して言う、その境の艶は股間を撫でて愛でたいぐらいでした。


 では本作はどうかと返れば、うん、鈴平絵サイコーですがな。反則なまでに可愛らしく美しい女性/メイドが爆誕していました。
 そもそもの掴みがとんでもない。初女装で赤面赤面の美少女(男)が自らスカートの両端を摘んでパンツを見せるのです。ファーストパンチラがこれです。ポイントなのは赤面・自らたくし上げのあたりで、なんじゃその顔は、パンツは、いやいや男だという感じに心が揺れました。
 次に歩いていたら往来で犬に絡まれてスカートをまくり上げられてパンツを見せられてしまいます。セカンドパンチラがこれです。前を押さえて全開になるのを防ぎながら、CG上表現されない後ろが丸見えで、CG上横からパンツが見える。ナイスパンチラです。よしきたと、ここらへんで思うようになりました。
 それから主人公はメイドの服装になり、女学院の制服を着ていきます。何着ても似合い、慣れない環境に必死に頑張る美少女視点でプレイしながら思っていることははただ一つで、パンツは何時見せるのだろうか、と。
 そして。
 サードパンチラがやってきます。それは便器に腰を下ろし、飾り気の無い女性物のパンツを膝まで下ろした美少女(男)という形でやってきました。性器など見えるはずも無く、見えてもいけなく、慎み深く内股になった深奥に隠されたままです。ただ今まで触れていたパンツだけが膝に。加えて言うなら、黒いパンストが足首まで下ろされており、色のアクセントがつけられ、パンツの色が際立っていました。ああ――これを待っていたのだとしみじみと感動して拝みましたね。しかも折に触れて何度もトイレに腰掛けているのが出てくる当たり、やってくれるわ。
 パンチラだけではなく水着姿もこの上ないものでして、 肌を際立たせる緑のビキニ&黄緑のパレオという具合。ヒロインの顔が邪魔してお腹と臍が見えないのが想像力をかき立て、臍の穴の美しさに思いを馳せさせます。パレオの下に関しては言うまでも無く。


 中身もGJでした。視点人物を通して他者から可愛い、清楚、優しいなどなどと折に触れて褒められることで、外的評価により視点人物の良質な所を伝えるのは良くあるのですが、実際の行動が伴っていないと寒々しいものになります。本作の主人公の思考回路は基本的に下半身がないのですが、それが長所となっていました。霧のように常にたゆたう挫折感と恐怖と、折れない向上心と、他者への強い思いやりと言った明暗が混ざった発露としての視点の地の文と言動とは外的評価を肯定するのに充分過ぎるほどでした。どのシナリオライタでもそこらへんがぶれていなかったのは総締めのコントロールが効いていたのだと思いますね。
 そして下半身が無い思考回路をベースにしているために、ゲームを進めるにつれてナチュラルにメイドとなり、ナチュラルに女性的な言動(男性から見たと留保はしますが)になって行きます。ふと気がつくと何の違和感も無く女性として存在してしまっているのです。そこらへんの自然な運びは女装物としてなかなかじゃないかなーと評価したい所です。
 いやまあ、女装物はぴんとこないので、これ以上は何とも言えませんが。

  • 総じた感想

 シナリオ・絵・音楽もろもろひっくるめて、全体的なクオリティはまあまあと言った所。
 CG。背景とか小道具・衣装の力およばなさが痛いですが、及べたらデザイナーになればいいので、こんなものではあるのでしょう。イラストは鈴平さんのシャープさと西又御大のダルさとの画面上のコラボが好きなので、このコンビの復活は嬉しいですね。
 音楽。OPのDESIREが良曲でした。『それは舞い散る桜のように』のOPと似た曲調でして、聴いていて盛り上がります。 
 システム。幕がどーんというSEと共に降りて場面が変わるのは善し悪しです。明らかに連続性がある中でやられると盛り上がりが萎えてしまいます。それ以外は特に不自由しませんでした。
 シナリオ。共通ルートは才能を磨く場としての学園物のエッセンスは十分ありましたし、掛け合いのテンポは良いですし、気を抜くと炸裂する下ネタには腹がよじれました。特にコメディ面では三島好きのヤンデレ毒舌キャラの名波七愛が出色でした。彼女が輝けば輝くほど爆笑させてもらいました。
 章名のパロディとかは誰かがまとめてくれることでしょう。

  • 個別ルート

 女装具合とテンポの良さで充分楽しめましたので、あまり言及したくない所はさらっと行きます。
 4ルートあり、瑞穂と湊ルートは特に見るべきところが在りませんでした。


 ルナルート。ルナは主人公の主人であり、努力出来る天才を持つデザインの天才。彼女のルートはクライマックスにさしかかるあたりまでは素晴らしかったです。犬のようにひたむきに慕う主人公を受け入れていく、恋に転げていく様は微笑ましいですし、恋に落ちきってからの心の障壁の瓦解の仕様はにまにましっぱなしでした。
 ただ恋愛模様が良かっただけに、クライマックスで最後の難関が訪れた以降は残念きわまりないと言うしか在りません。あのキャラが盗作を良しとしたのならば、主人公は見切らなければなりませんでした。プライドを折って盗作までしたと精神の強さを評価するのは、あのキャラのそもそもの在り方からすれば侮蔑でしか無いでしょう。作品をリードしてきた基盤を汚しきってその上に感動を積み、和解を重ねて、カタルシスを演出しても、下らぬと切るしかありませんでした。慌ててフォローするなら、あれはあれでOKとする向きも判らなくも無いので、私がそう受け取ったとだけご理解ください。


 ユーシェルート。これは出色の出来でした。だだ甘い恋愛からは、キスの尊さが蘇り、恋の匂いがしました。私の恋愛物の最高の評価は"トノイケダイスケに近い"となるのですが、トノイケレベルに近づいていると評価して過剰は無いでしょう。エロゲの純愛物の新たなメルクマールとも言いたい所ですね。

  • まとめ

 以上。ひっくるめてしまうと繰り言になりますが凡作です。色々と足りないところがありました。主人公(男)の女装私服でのエロがないこととか、主人公(男)のビキニ姿でのエロがないこととか。つーか、ビキニエロがないことに血涙なんですが、マジで。FD超希望。
 俺翼以外のNavel作品が好きな人には無条件でお薦めです。あとエロゲの純愛物好きならユーシェシナリオのみはマストプレイです。

  • Link

 OHP-Navel Official Website