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ランス10

2016-03-20

[]天冥の標 1−8 雑感

 色々な人から評判高く、何時か読もうとはしていましたが、読むのは完結してからかなーとかkindleで買うだけ買っていただけでした。しかしふと開いてみたのが運のつき。読むのが止まらず、1か月半ぐらいで1〜8まで計12冊を読み切ってしまいました。

 娯楽作品を追い求める個人的な目的は面白いものに出会うためなのですが、思う存分この作品群の面白さに打ちのめされ、むさぼるように読んでいた1か月半はほんと幸せでした。

 未読の人はもうあまりいないかもしれませんが、もしもいるなら「読め、そして面白い小説を読む悦びに震えろ――」とだけ伝えておきます。




 さて、ちろりと作品の内容に関しての雑感をば。

 このシリーズは長い、長い人類の歴史の物語。人類がどのようにして地球で育ち、どのようにして地球を離れ、どのようにして太陽系を制覇し、どのようにして崩壊するのかの変遷をじっくりと描いています。

 1巻。始まりは西暦2803年、人類の最前線――宇宙に散らばった探索船の一つがみつけた植民星が舞台です。領主が圧政をしき発展が停滞した惑星には、改造を受けていない人類の他に、酸素呼吸を必要とせず海に生きる<海の一統>や、春を鬻ぐアンドロイド、そして原住民の異星人が住んでいます。筋としては未知の病気のパンデミックと未知の生命体の来襲から始まり、次第に領主の圧政に耐え切れず革命へと至ろうとするというものであり、SF群像劇として優秀でした。ストーリーレベルでは正直言ってこの時点では優秀でしかないのは確かですが、未知の伝染病への対策をどう取るかとか、何百年も春を鬻いてできたアンドロイドたちの末裔が創作した未完成のバイオリン曲とか、400km以上の高さを持つ巨大建造物とか、ぞくぞくする要素が散りばめられ、読む手は止まらないのは間違いないでしょう。そして、普通に読んでいけば領主が隠している内容は予測出来るでしょうが、革命が達成されてからのどんでん返しには、ちょ、おいィ!と声が出ること請け合いです。

 その上でここからどう続くのか気になって2巻に矢継ぎ早に手を伸ばしたら、迎える時代と場所が現代日本と来ます。さてさてどうするのかと読んでいくと、さらっと流されて惜しかった未知の伝染病のアウトブレイクがかつて地球でも起こっていたことを描いています。

 3巻では宇宙海賊と真空で生きられる《酸素いらず》が艦隊戦と白兵戦を繰り返すスペオペに様変わり。

 4巻では理想的なセックスの成就を願い人間に望む限りの性的なサービスを行うアンドロイドらをメインとした、全編ほぼ性的な行為と思索で埋め尽くされた異色なエロSF。

 5巻ではしがない農場で秘密を持つ義理の親子の活劇、乏しいリソースで植物を育てようとする開発物、そしてようよう明らかになる大きな物語としての枠組み――宇宙を覆う被展開体同士の闘争の一旦が描かれます。

 段々と読んでいくことで、1巻が時間軸としては一番最先端にあり、そこに至るまでの歴史が書かれているとは合点が行きます。未知の伝染病は冥王斑であり全人類にそのような影響を与えたのかとか、酸素呼吸を必要とせず海に生きる一族は《酸素いらず》なんだとか、アンドロイドのリーダーはそのように生まれたのかとか、大きな物語は何かとか、要素要素が繋がっていき、有機的で活動的な人類史として理解出来るようになっています。

 しかもどの巻でも同じようなテンポでいかず、千差万別のコードで進むのですから、飽きさせることはありません。


 加えてリーダビリティを上げるためのサービス精神は旺盛であり、盛り上げるシーンはほんと盛り上げます。例えば5巻で、年老いた<酸素いらず>が闘争にあたり宇宙空間で正装をさらして不敵に笑う姿にときめかない筈がなく。

「混ぜ返すなよ。――待て、あんた今どこにいる?」

 左手わずか二 メートルの至近距離に、もう一台のタイプKが上昇してきた。操縦席にいるのは胸を張って立つエルネスティ・テルッセンで、風変わりなフェルトの三角帽子を かぶって、赤と黒の恐ろしく古臭いキルトスカートと緑のベストを身につけている。暗黒の宇宙空間をバックに宇宙服もなしで、 だ。

「ここにおります」

「あんた、その格好……」

「古く伝わるものです。 たまにはこうして太陽風にさらさぬと、布地を虫が食いおる」

    (V 羊と猿と百掬の銀河)

 これぞ、これぞSF活劇!

 

 そして物語を彩るガジェット/要素が出来切り、あとは物語が進むだけであり――とうとう人類の終わりが訪れます。

 3冊に分けられた6巻で、人類社会が崩壊するのですが、よくもまあ太陽系の崩壊をここまで書けるなと感心しきりました。

 時間軸で直後に次ぐ、7巻では社会が崩壊した後に来る新たな社会の到来を書く建国の記、あるいは少年少女の『蠅の王』めいたサバイバル物として姿を見せます。

 何度も言いますが、よくもまあ、ここまで手を変え品を変えられ、そのうえで巻を重ねるごとに性質を変えながら面白くさせるものかと。

 そしてどれも単体でもすっごい面白いのですが、これまで語られた要素が緩やかに繋がっていた段階から、全てが完璧に繋がり、1巻の世界に収束するのを理解した瞬間の感動の質感は言うに言い表せません。喝采せよ、喝采せよ!と、謳いたくなるのも、ままなるかな。


 8巻――さらりと言ってしまえば1巻の続きです。

 そう、長い、長い人類史の回顧は終わり、とうとう時間軸は1の舞台へと舞い戻りました。

 ここからも本当に上手い、上手すぎる小説の手腕が振るわれます。これまで読者は、地球内での冥王斑への対策と権力の行方、太陽系での冥王斑への対策と権力の行方と、少年少女が新たな社会秩序を生むのを追ってきました。どれもこれも最後に訪れていたのは悲劇であり、悲劇であったからこそ未来をよりよくしようとする希望が書かれていました。

 にも関わらず――メニーメニーシープで再び冥王斑が猛威を振るい、無政府後に強力な中央集権政府が再び成立してしまうのを目の当たりにします。ああ、今まで繰り返されてきたように、無残で悲惨な歴史は繰り返され、とうとう矮小化が進行して本当に人類が終わるのか――という無力感の大きさは半端なく、絶望さえしようとした入れ込み具合でした。

 そこからどう転換するかは読んでのお楽しみですが、人類はようよう繰り返しを回避し、未知なる未来へと踏み出します。――ああ、小説の形で語られてきた歴史が新しい今を作っていることを知るのになんと甘美なることか。どのように新しい未来が進んでいき、どのように決着するのか本当に楽しみです。

 それにしても、10巻完結とのことであり、完結するまで目が離せない傑作群かと。このような傑作に会え、これからもまだ付き合えるのは小説読み冥利に尽きます。


 以上。興奮して色々書きましたが、まあ簡単に言えば面白いので読め、とそれだけですね。


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