あけいろ怪奇譚 雑感

  『なないろリンカネーション』と世界観を同じくし、2年後を舞台にした本作。
 前作は鬼を従えて霊を成仏させるお役目を引き継いだ大学生を主人公とし、メイン層は年齢が若干高めでした。そして人格形成が確立した面々が自ら怪奇な事件に関わることで自分たちの生き方を選んでいくというように展開は比較的落ち着いたものでした。(なお感想は→ なないろリンカネーション 雑感
 対して本作は主人公を学園生とし、ひょんなことから亡霊に命を狙われることになり、学園の七不思議の謎を解き明かしていくことになる――という粗筋。巻き込まれ要素が強くなり、メインキャラも未熟な要素が強くなっています。そして考えは甘く、能力は足りない主人公らが怪奇な事件に翻弄される中で成長していくという感じで、よりストーリーはビルドゥングスロマンの色合いを強く帯びていました。全体的に若々しいというか、活き活きとしているというか、鮮明な印象を与えられます。


 畢竟、前作にだけあった優れた点も色々とあるにはありますが、続編の本作の方が圧倒的に面白くなっていました。
 具体的に言えば、エロゲオールタイムベスト級――みたいな?
 シナリオ、キャラ、絵、エロ、音楽、演出、システム。何もかも文句なし。
 前作プレイ済みが出来れば望ましいですが、プレイしていなくとも本筋を楽しむ分には問題ありません。こんな傑作は事前情報なしにやらないと勿体ないので、未プレイの方は下手に情報を集める前にレッツプレイ。


 それでは前置きはこれくらいに。
 以下個人的な雑感です。プレイ前に読むのはお勧めしませんが、プレイ後に読んでもあまり面白いものではないかもしれませぬが、ご容赦を。

  • 全体に関して

 突然亡霊に呪われて命を狙われるようになった主人公はそのせいで霊視に目覚め、もともとの霊に好かれる体質で霊を取りこみながら、亡霊に立ち向かっていく――というのが粗筋。
 要は霊能探偵学園編みたいなノリなのですが、小気味良いテンポで進んでいき、だれさせません。
 その上で選択肢が良い密度で散りばめられており、知りえた情報と、得た霊の数と、好感度によって細かい分岐を来たすのが全くストレスになりません。この選択肢をこう変えると、ここでこの条件を満たすから進めるとか、逆に条件を満たさないから進めないとか、シナリオを試行錯誤しながら進めていくのは正しく良質なアドベンチャーでした。
 どのように変化しようとも貫いていた姿勢もまた好感度が高かったです。
 まず霊への対応。霊は生が終わった後のロスタイムに近く、本当の終わりになる成仏は納得が行く形にしたいため、心行くまで話し合いで突き詰め、暴力的な解決は次善の策。その理想を口にする主人公とか、キャラクタが自覚し、また他者からも指摘されるように甘い代物です。ここで上手いのは、その霊への対応は前作『なないろリンカネーション』で提示されたテーマのリフレインでもあり、おっかなびっくり成し遂げてきた前作の主人公をメンター役として出したことにあります。彼の姿がきちんと描写されることに寄り、かつて物語を走った理想はそこにあり、未熟なりに背中を追い理想をつき通す――ここには理想的な続編の在り方があったと言えましょう。まあ未熟なので、大概が失敗するのですが、そこはそれ。
 次いでアクション。やむなく戦闘になった場合は能力の優劣は気合いで覆せないというのが徹底されます。単純に言ってしまえば強い方が勝ちます。どんだけ理想に燃えていても強敵には策を講じないと殺そうとするのに抗う方法はありません。さくっと殺されるため、主人公らは必死に成長し強くならねばなりません。どう強さを得ていくのか――得てしまうのかもまた本作の見どころでありました。まあ、あれです。花子さんの活躍っぷりに瞠目せよと、そういうことですね。


 そして激烈なスパイスとして利いているのが偶然、そして理不尽。ここまで上げたのは倫理と理性の範疇であり、オカルトとは相いれぬもの。そもそもの出だしが偶々亡霊に目をつけられたように、ふいと偶然が顔をのぞかせ計算を台無しにし、理不尽により得ていたものがあっけなくこぼれ落ちていきます。作品の基礎と論理がしっかりしているため、運不運で片づけられるものが恣意的ではなく、"そういうもの"だと納得させられました。ことここにおいて作者は世界の作り方と使い方が上手いなあと歎息するしかありません。


 上記のごとく理想を胸に成長しようとする意志と、それに襲い掛かる悪意。それぞれの軌跡と結末は何もかもが輝けるものでした。例えそれが途中で潰えたものであろうとも。
 


 そんな訳で次からは個別ルートについて語っていきます。
 

  • ベルベットルート

 吸血鬼な彼女は不死者のよくある話に違わず死を希っています。
 ベルベットを生へと引っ張ろうというのが彼女のルートの本幹となります。
 出来なかったBADエンドと、出来たGOODエンドがあるのですが、BADエンドも結構しっかりと描かれていました。というか、そのBADエンドは力が入れられた分、かなり良く出来ています。吸血鬼物のシナリオではよくある吸血鬼と人間の恋の悲哀系のBADエンドなのですが、それを上手くやられてしまえばころりと転がってしまうしかないじゃないですか。

【ベルベット】「私は、あなたのために死にたい」
【社】     「俺は……きみと一緒に生きたかった」
【ベルベット】「私は、あなたを看取りたくなかった」

 から始まるラストの会話と、そこに至るまでのささやかな時間の積み重ね。いやー、泣くしかないじゃないですか。


 さて個人的にはこのいくら良く出来ているとはいえBADエンドはBADエンドであるこのルートを先にプレイするのをお薦めします。
 というのも、失った記憶が鮮明であるからこそ、得ていこうとするかけがえのなさが輝くという訳で。
 生に絶望しかけていたベルベットを生へと引きずり出そうと懸命にあがいてあがいて、互いに傷ついた先の――応え。よくぞ! よくぞ諦めず、心をとらえた!!!と喝采を送ってしまいました。「おはよう、ベルベット」という台詞と共にベルベットの目だけが浮かび上がる演出といい、屈指の名シーンでした。
 そこからのGOODエンドルートの詳細に触れるのは野暮なことなのですが一つだけ、都合3回目のエロシーン、GOODエンドルートの2つ目のエロシーンについてどうしても語っておきたい。
 ベルベットがメイド服を着て突入する性行為。――そこに至高のイチャラブエロが結実していました。普段はクールなヒロインがメイドコスプレにめっさ恥じらいながらエロ行為を始め、次第にエロスイッチが入ってノリノリで主従プレイをこなしだし、強く命令されるのに濡れまくり乱れまくります。その最中にふと互いに一瞬我に返った時の甘々さといったら、もう超最高。

  • 佳奈ルート

 前作主人公の親戚であり、霊視能力を持つ女学生。霊とは話し合って納得させて成仏させるべきという理想を引き継いでおり、主人公にも影響を与えます。
 未熟さが前面に出て一番やきもきとし、また解決の仕方も釈然としません。
 けれど七不思議ネタには一番沿っており、テーマには一番合致していたルートでしょう。
 キャラ単体としては雑なと繊細な面が入り混じった性格は良く出来ており、ほのかな恋心に笑ってさよならする乙女さも魅力十分で、他ルートでの方が輝いていたと思います。

  • 美里ルート

 同居している幼馴染のお姉さん兼ホラー小説家。
 ルートとしては美里が主人公へしていたことが明らかになり、どう恩返しをするのか悩む――というのが本筋。
 この美里のやっていることはすっごい重いのですが、ガジェットの使い方として見事でした。
 最初はコメディ的なノリで扱いながら、実は――と明らかになる隠された想い。段階を2つ踏むことで衝撃が増しました。この手腕を読めただけでも満足でしたね。

  • 葉子ルート

 主人公が属する霊能探偵所所長。
 このルートでは理不尽が猛威を振るいます。何気ないイベントがまさかフラグだったとは・・・・・・・。
 オチがちょっと弱いかなと思うものの驚くべき展開をたどります。美里ルートの後を推奨。

  • るりとるかルート

 土地の守護神たる双子。
 望む者に願いを叶える者として規定された彼女らは信仰心が乏しくなり、いずれ消えゆく定め。そんな彼女らとどう向き合うのか――がメイン。
 彼女らのルートは出色の出来でした。
 展開においてかなりのアクロバティックを見せます。単なる無理筋ではなく、そうくるかーという捻りと着地は"倫理的"および"論理的な"正しさで人情を導いてきた前作から続く流れの見事な結実になっていました。


 そして、

【社】「俺は……二人の願いを、叶えられたか?」

 という問いからの流れは必見。これ以上ない泣けるシーンでした。

  • まとめ

 個人的なお薦めプレイ順はベルベットBAD→ベルベットGOOD→美里→葉子→るりとるか→佳奈→True、ですかね。
 シナリオ・キャラ共に上記のごとくかなりの絶品。
 絵は文句なし。演出も上手く、ベルベットの覚醒時の目とか魅せていたと思います。
 音楽は主題歌を筆頭に良く出来ていました。
 システムも不満なし。


 以上。重ねて言いますが傑作。プレイを推奨します。

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あけいろ怪奇譚
あけいろ怪奇譚
posted with amazlet at 16.10.09
シルキーズプラス(WASABI) (2016-03-25)