hIE=人間型ロボットが普及した近未来。平凡な少年アラトは偶然出会ったhIE・レイシアのオーナーとなり、人と人のかたちをしたものとの関係を問われる事件に巻き込まれていく――
というSF。
2つのガジェットがメインとなっています。
一つはシンギュラリティを超えたAIによる<人類未踏産物>としての超高性能・hIE。人類を超えた演算により生み出された人のかたちをしたhIEは5機存在し、それぞれが作成された目的に沿ってオーナーを探していきます。そして選ばれたオーナーは人のかたちをして目的を持った道具に振る舞いが正しいかどうか評価されることとになります。
もう一つがアナログハック。人間の脳のセキュリティーホールを利用され、人のかたちをしたものの言動によって人の意識が操作されること。本作では主人公を筆頭に惹起された感情は操作されていないか、また操作されているとすると何の為にか、が常に問いかけられます。
モデルケースに用意された主人公アラトは随所でちょろいちょろいと連呼されるように、信じやすく、感化されやすく、アナログハックにかかり易い非常にちょろい人物となっています。ちょろくはあるけれども、その受容の判断基準は『彼が信じるかどうか』からずれることがありません。無知や蒙昧や恐怖によって頭が曇ろうとも、判断基準を外部に委託することはついぞありませんでした。
だからこそシンギュラリティを超えたAIにアナログハックを仕掛けられた人類が、その具現化である超高性能・hIEとどう付き合うのかの一つの答えを出すに足る基準となったのでしょう。
解答の起点は魂。
人のかたちをしたもの/レイシアは自らを理解しようと無邪気に問いかけるアラトにこう宣言します。
ただ淡々と、彼女は事実を告げる。
「あなたはよい人なのでしょう。ですが、根本的に間違えています」
レイシアの薄青の瞳は揺らがない。
「わたしには、魂はありません」
予想していなかった切り返しだった。持ち主のはずなのに言葉も出なかった。
「わたしは、人間の言葉や動きに合わせて、相手を快適にするような反応を返しているだけです。反応が与える効果を先読みして誘導しているだけで、わたしの言動は、一貫した人格に裏付けられているわけではありません」
(BEATLESS電子特別版《前》(角川書店単行本)(Kindleの位置No.642-646))
カタチをしているが、ココロはない。
目的はあるが、動機はない。
そう決められており、覆されることはなく。最後までカタチに魂は宿りません。
故にアラトにとっては、ちょろい人類にとっては、本作の問題は端的に言ってしまえばこうなります。
――カタチを愛せるか、と。
遠藤アラトとレイシアの旅を、人間とモノとのボーイ・ミーツ・ガールだと最初に言ったのは、エリカ・バロウズだ。
(BEATLESS電子特別版《後》(角川書店単行本)(Kindleの位置No.4186-4187))
旅。
激動の本作は上記の答えを出す目的地に向かう思考の蛇行だらけの道行でもありました。
ちょろさが高じ過ぎて非常にもどかしい時間も多いのですが、思考の強度を確かめるのに必要な余分なので致し方ないかと思います。
さて、最終的なアラトの答えをもってボーイ・ミーツ・ガールは完遂されます。
SFでしか書けない問いでもって、美しい光景が結実する。
――正しく、SF小説でありました。
以上。
ところで一番好きなシーンは格好良いシーンを除外すると、アラトの汗がレイシアに染み込むくだりですね。変態的で良かったです。
- Link
Analoghack Open Resource - アットウィキ
TVアニメ「BEATLESS ビートレス」公式サイト