時砂の王 感想

 西暦2598年、人類は地球を失い、居住圏を海王星まで追いやられていた。それでも敵性体<ET>への反撃が功を奏し、太陽系を取り戻そうとしていた。<ET>は対抗して時間軸を遡り、過去から人類を滅亡させようと目論むようになる。人類も人型ユニット<メッセンジャー>を過去へと送りこみ、生存をかけて複数の時間軸を股にかけた時空戦争へと突入する。
 そして時は西暦248年。邪馬台国にETが攻め込み卑弥呼の命の危険が迫った時、喋る剣を揮う異形の王が舞い降りる――


 という感じの時間SF。
 肩肘張らずとも読めるエンターテイメントに振り切った娯楽作品として極めて優れていました。つまりはめっちゃ面白いです。

 
 まず時間移動と生存戦争というメインのルールの提示の仕方が良かったです。
 因果関係によって優劣が入り組むのですが、勝利条件はシンプルかつ明確に示されます。
 だからこそ、そこまでどう辿りつこうとするのか、また辿り着けるのかというストレートな展開が力強くなっていましたし、興味がぶれることがありません。


 大きな展開としては人類史に対<ET>戦として手を加えるというゲームライクなしろもので、そういうの大好きとどうしようもなくわくわくするものとなっていました。
 資材と成長、開墾と内政。
 いやあまさに戦争物の花形ではないかと。

「ずいぶんと開墾を進めたな。河内側を見たが、大和川の工事は川の付け替えだな? あれは江戸期に行われるはずだった」
「えどき?」
「ずっと先だ。それにこのあたりもたいしたものだ。本来なら、まだ耕地が扇状地から出るか出ないかという頃のはず。全体として三百年……部分的には一千三百年近くも繰り上がったか」
「住吉津に竜骨構造の縦帆外洋船を認めました。航海史も一千年以上早まったようです」
        (時砂の王(Kindleの位置No.297-301))

 ただし、それはまた敵にも当て嵌まるものであり、敵性体<ET>は人類を効率よく追い詰めるためにエネルギーと資源を求めます。
 ことここにおいて、人類と<ET>は同時代においてどちらが先に敵に対して有利なように発展するか、また相手の進化度合いにどのようにマウントを取るのかという戦略上の問題となります。
 例えば、弥生時代において、<ET>が亜鉛を用いた武器を使用していることから、敵の現状を推測して曰く、

「今はまだ、な。──物の怪は、鉱脈さえ見つかれば、大規模な鉱山設備など作らなくとも、組織内選別によって必要な金属を摂取できる。連中が鉱脈にたどり着くかどうかが重要なんだ。現在、我々は出雲のある西日本を押さえているから若干有利だ。しかし東日本──東夷の地にも、巨大な鉱脈が存在する……」
「釜石に到達した時、ET個体の戦闘力は飛躍的に上がるでしょう」
        (時砂の王(Kindleの位置No.1448-1452))

 そこから莫大な資源となるものにコンタクトさせないように戦線を上げるよう計画を練るとか、まさにシミュレーションライクな面白さを小説の面白さに上手く落とし込んでいました。


 そして大事なマクロなプレイヤの視点も細かく書きこみはしませんが、要点を掴んで上手く描写していました。
 時を超えて戦う<メッセンジャー>もまた感情を持つ知性体であり、『どうして人類を守るのか』というそれぞれの理想が延々と敗退戦を闘い続けていく内にどう変質していくのか。あるいは卑弥呼を筆頭としたその時代に生きた人々が膨大なバックボーンを持つ戦争の最前線に突如立たされてどう思い、どう振る舞うのか。
 などなどという描写によって、壮大な戦争を読者からあまりにもかけ離れたものにせず、臨場感を持って読めたと思います。


 そんなこんなでひっくるめて言うと――マブラヴ×SLG×時間SFみたいな?
 いやまさか雑すぎますね。


 以上。面白かったです。お薦め。

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