淡島百景 2 雑感

 淡島歌劇学校合宿所――通称"寄宿舎"に集い歌劇団員を目指す少女たちを描いた漫画の2巻目。
 愛憎渦巻く芸能界に関わり、リタイア・現役・練習生と複数の年代に渡って良きにせよ悪きにせよ心に消えぬ傷跡を残す日々を派手さはなく、淡々と描写されています。目が離せない独特な魅力があり、買い続けています。


 今回、本巻の後半で収録されている淡島怪談1-3がしみじみと良かったです。
(P151)
 そういう怪談。
 かつて過ごして夢が潰れたひと。例えば同級生をいびり倒した過去を持つ厳格な先生だったり、同級生が辞めていくのを止められなかった温和な先生だったり。
 いま過ごして夢に向かうひと。例えば友人に突然いじめられるようになった練習生だったり、これから辞めようとする練習生だったり。
 彼女らがふと一人でいるとどこかから聞こえる空耳、それにどう思うか――というのが寄宿舎にひいては過ごした/過ごす日々に対するスタンスになります。
 この声が聞こえるまでの描写が本当に胸にくるものがありました。
 それぞれの、何故そうなったのかわからくなった今そこの立ち位置をさらりとしかし適切に描写された後、今いる場所を一言でまとめられる気分は一体何をもたらすのか、と。
 誰かが言います。――こんなはずじゃなかった。
 誰かが言います。――懐かしんでいいのだろうか。
 誰もが華やかな舞台に立つことを願っています。
(P133)
 しかしそうはいかず、ほんの一握しか得ることができません。
 夢破れた、敗れようとした人、また得るために大事なものを失った人は何を考えるのか。自らの胸中でまとめきれぬ、内省から外にこぼれてくる心理的な葛藤が実に良い味を出していました。
 これまで三世代にわたった短編を描いてきた愛憎のうねりのピークともなっており、作品として一つの山となっていましたし、白眉ともなっていたと思います。


 以上。掲載ペース的に矢継ぎ早に新刊が出るタイプではありません。ゆっくりと続巻を待ち続けたいと思います。

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