プヒプヒ日記

 

2018-08-07

脅迫合戦

先日の日記を書いたら、とある版元からすかさずメールをいただいた。タイトルに「脅迫」と書いてある不穏なメールである。恐るおそる開いてみると、どうやら「早く訳稿をあげないと本を出してやらんぞ」という趣旨らしいことが書いてあった。

さしさわりがあるのであえてどこの版元とはいわないが、○ャ○全集を20年近く遅らせているところである。以前ナイショで一度この全集のゲラを見せてもらったこともあるのだけれど、それさえもすでに10年くらい前の話になった。人のふり見てわがふり直せとはよく言ったものである。

となるとこちらからも脅迫状を出したくなるではないか。といってもメールで出したのではわたしが出したのが丸わかりだから、ここは古式ゆかしく新聞の活字を切り抜いて、「○」「ャ」「○」「全」「集」みたいに貼りつけたらどうだろう。(どうだろうと言われても)

それはそうと、とある局長の話によると、南條竹則さんの『英国怪談珠玉集』が怒涛の勢いで売れているそうです。まことに慶賀にたえません。やはり夏は怪談が一番であります。ツイッターでの告知によると、購入された方には抽選で素敵なプレゼントもあるようです。

この「識語」というのが気になります。どんな文面なのでしょう。南條さんのブログから推して、「冷やし中華はじめました」とかそんな感じでしょうか。あるいは「本が届いた。今日はいい日だ」とか……いやこれは違う方だったか。

素天堂素天堂 2018/08/09 23:19 お久しぶりです。次のお仕事楽しみにしております。凄く久しぶりに家庭内Pの校正と表紙作りで過ごしてます。三冊目も面白いです。

puhipuhipuhipuhi 2018/08/10 09:20 おおご無沙汰です。一冊目と二冊目はぱらぱらと読んでます。
「未亡人の妖術」はチェスタトンの「古書の呪い」というか、鮎川の「五つの時計」というか、すごい作品でした。
あと装丁がすごくかっこよくて惚れました。それから各短編の表題扉にあるカットの配置も実にセンスがよくてうらやましいです。

2018-08-02

陥穽と振子

とある編集者の方のウェブサイトにあった「今月の予定」を、すごい仕事量だな相変わらず大変そうだなとか思いながらボーッとながめていたのだが、何秒かのタイムラグのあと、とつぜんハッと気がついた。「今月入稿予定が二冊」って、一冊はわしの担当じゃがな!*1 いつの間にやら八月になっとったんか。わしゃちいとも知らんかったわ。

いやいやいやいや、忘れてたわけじゃありませんよ。いちおう初稿はできあがっているのでとりあえず頭から追いやっていただけです。

そうなのです。八月になったからにはノンビリとしてはいられません。八月末締め切りの本が二冊ありますから。と書くと、人は何も締め切りを重ねなくてもよかろうと思うかもしれません。もっとじっくり仕事すればいいのにと。

なぜそんなにあせって仕事するのかというと、それはもちろん秋の文学フリマ用の新刊をつくる時間を確保するため*2――いやいやいやいや、もちろんそれもあるけれど、より根源的な不安があるのであります。

それは一言で言うと、「今年なら出せる本も、来年には出せなくなっているかもしれない」という不安です。事実、中堅書店の棚幅など見ると、海外文学のマーケットが恐ろしい勢いで縮小しているのが、手にとるようにわかります。特にわたしの専心している怪奇幻想ジャンルなどは「本の雑誌」にもめったにとりあげられませんし、世間的には「なくてもなくてもいい」ジャンルとみなされているのではないでしょうか。

まあ感じとしてはポーの「陥穽と振子」で振り子がだんだん下がっていくあんな感じなんです。だから出してもらえる本はなるべく早めに出したいと思うわけです。

ということで今月は二冊分完遂予定! 乞うご期待!

ついでに秋の文学フリマの新刊もご期待ください。

*1中学・高校時代を岡山で過ごしたため、あせると岡山弁になる

*2あと9/15締め切りのROMの原稿もなんとか出したい

2018-07-23

登場人物表のパラドックス

今はむかし、世紀の変わり目前後に、ミステリ系サイトが栄えた一時期があった。実をいうとこの「プヒプヒ日記」もそれら先輩サイトに刺激を受けて生まれたものだ。ところが栄枯盛衰は世の習いで、当時の人気サイトも今ではほとんど消えてしまった。ネット界ミステリ言論の主戦場はフェイスブックやツイッターに移ったのかもしれない。

そんな当時のミステリサイトのひとつに『煙で描いた肖像画』の登場人物表についての話題があった。どのサイトだったか忘れてしまったが、今ではこのサイトも消えているようだ。

この『煙で描いた肖像画は、主人公の青年A氏と、彼が恋するB嬢を巡って展開される物語である。ところがこの本の登場人物表にはもう一人、C氏の名が挙げられている。

これについて、くだんのミステリサイトには、だいたいこんなことが書かれてあった。(記憶だけで書いているので違っていたらご容赦を)

「C氏は体裁を整えるだけのために登場人物表に入れられたのは明らかだ。C氏を入れるなら同程度に重要なD氏とかE氏とかF氏とかも入れるべきではないか」

まあこんな実にどうでもいいことでも真面目に議論がなされていた古き良き時代ではあった。

ところで今とある長篇を翻訳しているのだが、登場人物がやたらに多いので、登場人物表をつくりながら訳している。こんなふうに自分で作っていると、『煙で描いた肖像画』の登場人物表におけるC氏の存在意義がよくわかる。考えてみればいやしくもミステリ出版の老舗東京創元社が「体裁を整える」だけのために余計な人物を表に入れるわけはない。

確かにC氏は、D氏とかE氏とかF氏と同様、ストーリーの進行上はいてもいなくてもいい端役である。だが同時にC氏は、D氏とかE氏とかF氏と違って、登場人物表になくてはならない人物なのである。

ではなぜそんなパラドックスめいたことが起きるのかということは、登場人物表が何のためにあるかをを考えてみればわかる。登場人物表とはもちろん、「あれ、このナントカさんっていう人はどういう人だったっけ」と読者が疑問を持ったときのためにある。

D氏とかE氏とかF氏とかは一場面にしか出てこない端役である。だから読者はその人物が退場すると同時にその存在を忘れてしまってもいっこうにかまわない。

ところがC氏は、始末が悪いことに、端役ではあるのだが、物語のはじめのほうでチョロっと出てきて退場し、その後物語がある程度展開したところでもう一度チョロっと出てくる。だからこの再登場の場面で「あれ、Cさんってどういう人だったっけ」と疑問を持つ読者も当然想定される。だから端役だけど登場人物表にはいなくてはならない。

ちらと思いついたのでメモ。こんなことを書いている暇があったら翻訳をさっさと進めんかいという気もするけれど。

2018-07-20

最後から二番目の消夏法

毎日暑いですね。皆さんはいかがお過ごしですか。国書刊行会さんもこの暑さには参っているようです。

でもこんなときにこそ逆に酷暑! 酷暑! と騒ぎたてて、納涼本として『江戸怪談文藝名作選』なんかを売りまくればいいのに……商売気がないことです。江戸期怪談なんてこんな猛夏の日々に読まなくていったいいつ読めというのでしょうか。いま『江戸怪談文藝名作選』を読んでおけば、「ああ、むかしあの暑い中をフウフウいって読んだなあ」という思い出がきっと一生残りますよ。できれば夜になって風が出てきたころクーラーを切って部屋中の窓を開けて読めば趣もひとしおかと。

さて消夏法として最高なのは怪談であることは論をまちませんが、二番目にすばらしい消夏法とは何でしょう。

ジャーン! それは何をかくそう、古書店巡りであります。暑さでフラフラになりながらこちらの古本屋からあちらの古本屋へと巡りあるく味は、一度味わったらやみつきになりますよ。いやほんとに。客があんまりいないのでゆっくり本も見られますし。

なかでもおすすめなのが神保町のはずれにある古書いろどりです。

なぜおすすめなのかというと、まず店内のクーラーが壊れていて、外と暑さがあまり変わらないのです。全身から汗をふきださせながら古書をためつすがめつ選ぶ楽しみが満喫できます。

第二に、とある方の蔵書がドサッと入ってホラー系を中心とした洋書が質量ともにおそろしくあることです。この話を聞いたのが一か月ほど前だったので、もう目ぼしいものはなくなってるかなと思っていたのですが、あまりそんな感じでもありませんでした。きっとあまりにも本がたくさんありすぎてたぶん買っても買っても本がなくならないのでしょう。 "maddening rows of antique books(人を発狂させる古書の並び)"というラヴクラフト「アウトサイダー」の一節が実感されます。

なにしろあの「ウィアード・テールズ」が30年代のおいしいところを中心に100冊くらい無造作に積んであったり、あちこち掘り返すとロバート・ブロックの初版本とかピーター・ヘイニングのアンソロジーが山のように出てきたり、あと部屋の隅のほうにはヒッソリと隠すようにして、ここに書くもはばかるようなマニア垂涎の本が天上近くまで積んであるのですよ。

とりあえず迷いまくって12冊買ってかえりました

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左の三冊はアッシュ・トリー・プレスのA.M.バレイジです。これだけあればこの夏を乗り切るには十分だと思いますがどんなもんでしょう。まあ足りなくなったらまた古書いろどりさんに買いにいけばいいんだし……

小林 晋小林 晋 2018/08/09 09:51 すごい収穫ですね! ぼくも今度覗いてみます。

puhipuhipuhipuhi 2018/08/09 19:38 いやもう人外魔境ですよ。いろいろな意味で(笑)
TAD(The Armchair Detective)も大量にありましたが売約済みだそうです。

小林 晋小林 晋 2018/08/14 18:12 今日、近くまで行ったのですが、塚本ビルなる建物が見つからず、断念。もしかして、結界でも張られているのでしょうかね。後日を期します。

2018-06-03

当たりとの遭遇

今日も夕方に学魔本を漁りに古書ほうろうに行った。だんだんわかってきたのだが、この店は夕方になってから棚に新しい本を補充するようだ。だから開店早々に行くと、かえっていい本にはめぐりあえないような気がする。ちなみにちくま文庫版ラブレーはまだカウンターの上にあっていっこうに棚に並ぶ気配はない。

それはともかく、これ↓が今日の収穫。なかでも『メタヒストリー』が半額で買えたのはとても嬉しい。この本はカルロ・ギンズブルグがしきりに批判対象として著作の中で槍玉にあげているので前から気になっていた。あと『ミニマ・モラリア』はたぶん学魔本ではない。

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そしてジャン=ジャック・ルセルクル『言葉の暴力』にはこんなものが挟まっていた。おお、これが噂の「先生ご自身が切り抜いた」という「当たり」なのだろうか……「いいものばかりなんだよ!」の一枚なのだろうか……。ureccoの写真ではないようなのだが……

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ともあれ更なる「当たり」との遭遇を楽しみにせっせと読書に励むことにしようと思う。