プヒプヒ日記

 

2017-05-13

なんというマニアック

おお拙訳シェーアバルト『セルバンテス』が私家版バージョンで! なんというマニアックなことでしょう。さすがにMH氏お膝元の古書店です、感謝感激。

2017-04-19

明石マジックリアリズム

ジャズピアニストの佐藤充彦が評論家後藤雅洋との対談でこんなことを言っている。

あとおかしいのはジャズ・クラブでやってるときの電話(笑)。あれって不思議にいいところにかかってくるんですよね(笑)。それからビル・エヴァンスの「ヴィレッジ・ヴァンガード」のライヴで、食器の音がするじゃない。カチャカチャって。あれがまたいいところに入ってます。あれがフリーの精神ではないかと。(後藤雅洋対談集『ジャズ解体新書』)

この前明石の「ですぺら」にお邪魔したときにも似たことがあった。店ではBGMとしてそのビル・エヴァンスとジム・ホールのデュエット「アンダーカレント」が流れていたが、それにかぶさるように、上の店からカラオケの野太い歌声が響いてくる。それが妙にBGMに調和して、珍酒の味わいをいっそう陶然とさせるのだった。

でもいま思い返してみると「アンダーカレント」の丁々発止の掛け合いが、間延びした素人の歌声と合うはずはない。やはりあれは明石という土地にしかなしえないマジックだったのかもしれない。

明石というのはじっさい不思議な町なのである。駅の前に申し訳程度に建っているビル群を抜けると、道路の向こう側には、いつ海岸に遷移してもおかしくないような、蜃気楼めいた景色がノペーとひろがっている。「魚の棚」という謎の看板がかかったアーケードが横方に広々と延びていて、そこを通ると、右からも左からも、イボイボのついた赤い触手がオイデオイデ・コチラニオイデと誘いかけてくるのだ。

なおも進むとまたまた雰囲気はがらりと変わり、あやうく「狭斜の巷」と形容してしまいたくなるような、いかにも一癖ありげな店の居並ぶ一廓に迷い込む。その角を曲がったところが目的地「ですぺら」だった。

赤坂見附時代の店主のホスピタリティは依然健在で、われわれはいまどこにいるのかを忘れかけた。いや今思い返しても夢かうつつかわからない不思議な一夜だった。ある短篇の一節をもじると「わたしがこの話をすると、時々、おまえは明石なんかへ行ったことはないじゃないかと、親しい友だちに突っ込まれることがある。そういわれてみると、わたしはいつの何日に明石に行ったのだと、ハッキリ証拠を示すことができぬ。それではやっぱり夢であったのか」

2017-04-18

グランギニョラー岸田國士

黄金の街での秘密結社の集会の後ほどなく、どういう経路でかは分からないが、会の様子が漏れたらしい。店に偵察に赴いた方があったと聞いた。あの高楼からはアレフさながら、パノプティコンさながら、あらゆる場所を見通せるのか。恐ろしいことだ。

とまれやがて結社の一員から宝のありかを記した通信が届いた。かくてわれわれは彼女のパートナーに導かれ、勇躍宝探しの旅に出たのだった。

そしてこれが見出された宝物のうちの二冊↓。

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昭和初期における岸田國士のある種の戯曲はグラン・ギニョールの味わいを持っている。年譜によれば岸田は1920年から23年にかけてパリにいたというから、そのあいだにアンドレ・ド・ロルドか誰かの舞台を見たのかもしれない。もっともロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)に収録された本場ものとは異なって、岸田においては残酷性はいわば濾過蒸留されており、直接的には残酷描写は一行も一字もない。だがそのスピリットだけはまぎれもなくある。

悪意は蛇の舌みたいにちらと先端をのぞかせたと思うと、あっという間にふたたび消える。そのチロチロ具合は他に求めようとしても求めえないものだ。そして台詞回しの日本語はおよそ百年たった今もみずみずしい。

一種のプロバビリティーの犯罪の物語「落葉日記」も絶妙だけれど、ここではグラン・ギニョール味がもう少しはっきり出ている「感化院の太鼓」を見よう。

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幕が開くと登場するのは姉と弟と彼らの母。姉は二十三、四の未婚者。弟は中学校を三度もしくじり、警察のやっかいになったこともあるらしい。ただセリフと動作を見る限りでは、いたずら好きで多動性があるようだけれど、それほど悪い少年とも思えない。

母と姉はこの弟を感化院に連れていこうとしている。ハハアこのままでは姉が結婚できないから、自分を感化院に追いやってしまうのだな、と弟は察するが、母も姉も必死で否定する。逆に地上の楽園のごとく感化院を誉めそやし、姉などは「自分も入ればよかった」とまで言う。

感化院のなかで彼らは院長に会い、次いで感化院の先生方が親子の前に登場する。この先生方を描写するト書きが非常によろしく、この感化院が本当はどういうところなのかを、無言のうちに明らかにしている。左の画像で読めるかどうか分からないが……あるいは読めないほうがいいのかもしれないが……

この戯曲は青空文庫にも入っているので、テキストだけなら宝の地図がなくても読める。ただディスプレイ上で横書きの文章で読んだら、微妙な味わいは吹き飛んでしまう気がする。僭越ながらできれば第一書房版、でなければせめて全集で読んでもらえたらと思う。ジャズ(あるいはロックでもヒップポップでもいい。要するにリズムを強調した音楽)はこんな風にして生まれるのだ。

2017-04-17

文学フリマ御礼

昨日足をお運びくださった皆さま、どうもありがとうございました。金沢の古本屋事情をうかがったり、皆川博子の話を思いきりしたり、あるいは全点大人買いしてくださった方もいて、おかげさまで楽しい時が過ごせました。

東京だと朝の開場と同時に人がドーっと入ってくるのですが、こちらは昼を過ぎてから徐々にお客さんが増えてくる感じで、のんびりまったりとしたいい雰囲気でした。

五月の文学フリマ東京はあいにく都合が悪く出られませんが、六月の盛岡には、また何か新刊をひっさげて店を開く予定でおります。なにとぞよろしく。

2017-04-13

文学フリマ金沢で販売する旧刊

いよいよ今度の日曜。新刊以外に持っていく本を簡単にご紹介します。書名のあとの数字は初版発行年、解説のあとの数字は持っていくおよその冊数です。

アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『三本羽根』(2017)

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第二回京都文フリ新刊。36ページ。愛娘を女王に謁見させようとバッキンガム宮殿に向かう長蛇の馬車の列に並んだジョージ・アルンヘム。ところが近衛将校から突然待ったがかかった。娘のスキャンダルが発覚したというのだ。馬車を列に残したまま娘とともに真相究明に走り回るジョージ。果して馬車が宮殿に着くまでに汚名はそそがれるか。「暁の死線」風タイムリミット・ドッペルゲンガ―小説(7冊)。

フリードリッヒ・フレクサ『伯林(ベルリン)白昼夢』(2004)

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32ページ。夜汽車でベルリンにやってきた主人公は、商店街のあるショーウィンドウに、どう見ても生きている人間としか思えないマネキン人形が飾ってあるのを見る。店の者がやってきて、これは生きているんですよ、と言い、主人公を不思議な研究室に案内する……子不語の夢―江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集において、不木が乱歩の「白昼夢」に関連して言及した作品の原型(7冊)

ジョン・アディントン・シモンズ『ギリシア倫理の一問題』(2016)

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56ページ。全20章のうち最初の10章(全体の約1/3)の訳。世界史上古代ギリシアにしか見られない少年愛の独自の形態は、いかなる源から生まれ、いかに発展し、いかに堕落していったか。同性愛者であった世紀末文人シモンズが、博識と情熱を傾け滔々たる美文で説く。ミステリ界では乱歩の鍾愛の書として有名。(7冊)

スタニスワフ・レム『発狂した仕立屋 その他の抜粋』(2006)

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114ページ。レム追悼として編まれた書。『技術大全』『偶然の哲学』『対話』のさわりにインタビューを収録。熱い批評魂が胸を打つ。なかでもレムが自分のライバルとみなすウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を縦横に論じる『偶然の哲学』の一節は特に読ませる。(15冊)

フェルデナンド・ボルデヴァイク『クワエウィース?』(2010)

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32ページ。とある避暑地のはずれにある一区画には「クワエウィース?」(「汝は何を望むか」という意味のラテン語)という疑問符入りの街路名がついていた。そこに住む老人はときおり自宅のバルコニーに立ち、謎めいた演説をぶつので有名だった。両親とともに避暑にきていた少女パンジーは老人の奇妙さに惹きつけられ、やがてその秘密を知る…… オランダ幻想小説の底力をまざまざと知らしめる隠れた傑作。(7冊)

スタニスワフ・レム『エフ氏』(2010)

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28ページ。ドイツ語でのみ発表されたレム幻の短篇。今の時代に「ファウスト」を書くとすればどういうふうに書きうるか、という問いを自分に課したレムはあるプロットを構想するが、それは結局書くことなく終わった……。ボルヘスのある種の作品と同様、「書かないことによって書かれた」短篇(7冊)

アレクサンダー・M・フライ『戦利品』(2014)

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28ページ。何といったらいいかよくわからない変てこりんな短篇だが、反戦怪奇小説? ドイツのウィアード・テイルズといわれる怪奇小説専門雑誌「蘭の苑」傑作選第一巻。第二巻以降もいずれ出したいものだ。(7冊)

ルートヴィヒ・ティーク『青い彼方への旅』(2011)

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154ページ。アッシャー館のあるじの愛読書として名のみ有名だった作品の完訳。抜粋が荒俣宏編怪奇文学大山脈 (1) (西洋近代名作選 19世紀再興篇)の第一巻におさめられているが、この作品の奇妙奇天烈さはとても抜粋などでうかがい知れるものではない。(10冊)

名状しがたい旧巻(2011)

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120ページ。ミスカトニック大学さえ所蔵していない名状しがたい本。(10冊)

では皆さん、4月16日(日)に金沢で会いましょう!