プヒプヒ日記

 

2017-02-15

ダンセイニ卿書評集

文学フリマ京都からだいぶ日がたってしまいました。いまさらではありますがいらしてくださった皆様、どうもありがとうございました。次は4月16日金沢でお目にかかりましょう。5月7日の文フリ東京は都合がつかず残念ながら欠席です。

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さて文フリ京都に話を戻して、そこで買ってよかったと思ったものの筆頭は西方猫耳教会のスペースにあったこの『ダンセイニ卿書評集』。『日本の昔話と伝説』(リチャード・ゴードン・スミス)『ウィルヘルミア女王の島々』(ヴァイオレット・クリフトン)『エゴイスト』(メレディス)『夢の丘』(マッケン)の四冊が評されている。

このなかで目を引くのはなんといっても『夢の丘』。あのダンセイニ卿があのマッケンをどう評するのか、それだけでも興味津々であったけれども、驚いたのは卿が絶賛に近い高評価を与えていた点だ。

ここで私事を語って申し訳ないが、わたしはマッケンという作家を愛する点では人後に落ちないと思うけれど、『夢の丘』という作品に対する評価は微妙である。前半はすばらしいが、第六章でわけがわからなくなり、最終章では不細工としかいいようのない終わりかたをするから。

マッケンはこれを書くことによって、というよりむしろ、この小説をこういうエンディングにすることによって、みずからの最良の資質を扼殺したのではなかろうか。だってそうでしょう。これ以降の作品では初期作品のエクスタシーの高みに達することは二度となかったではないか。

その無惨さは足穂の『弥勒』と比べるといっそう鮮やかになる。両者とも田舎で夢見る少年期を過ごした文学志望者が都会に出て貧困に苦しむ、というストーリーのアウトラインは同じだけれど、足穂のほうのエンディングはおそろしくハイパーな、転機の物語を締めくくるにふさわしいものになっている。

ところが、ところがですよ、卿はこの『夢の丘』のラストシーンを「勝利」と言ってはばからない。「……それでもこの作品は決して絶望の所産物ではない。むしろ絶望に対する勝利である。……それは厳しい現実に対して想像……がなした勝利である。」

だがどうしてそれが「勝利」なのか、正直なところうまく理解できない。勝利という言葉からは谷崎の「金と銀」が連想されるが、そういう意味での勝利ではおそらくなかろう。ただなんとなく感じるのだが、ダンセイニ卿とわたしでは死生観が根本的に異なっているのではないか。ぶっちゃけわたしは「死んだらおしまいだろう!」と思うが、卿は必ずしもそう思ってはいないのかもしれない。

ともあれ『夢の丘』への共感をこれほど熱く語った文章を読めるのはありがたい。願わくば「ぺガーナ・ロスト」はこれにとどまらず、ダンセイニ卿の書評をもっと集成してくださいますよう。

2017-02-10

怪作ついに浮上

『SFが読みたい!2017年版』の各社刊行予定のうち、アトリエサードのところを見てびっくり。なんと第三期にヴィシャックの『メデューサ』が入ってるではありませんか。何を隠そう、この作品はかつて何年も前にエディション・プヒプヒで出そうと思っていたものなのです。

この怪作の語り手はウィリアムといって幼くして父を失くした少年。寄宿舎が嫌になって脱走する途中で怪しい男につかまります。男はハクスタブルという紳士に手紙を届けろと少年に命じます。ハクスタブルは少年の身の上を聞き、一緒に船に乗らないかと誘いかけます。ハクスタブルは以前インド洋で海賊に会い、自分の息子を攫われていたのでした。息子を買い戻すための身代金もなんとか調達でき、ちょうどハクスタブルは海賊船にもう一度会うため船出をするところでした。少年が出会った変な男はオバディアと言い、実は海賊の一味でお目付け役だったのです。

 いよいよ船が出帆しようというとき、少年は岸辺にあった水車小屋の窓に化け物のようなおぞましい姿をチラッと見ます。

 船はブリストルを出ると、喜望峰を回ってインド洋に行くコースをたどりました。そしてオバディアは不思議なことに、港に立ち寄るごとに食べきれないほどの魚を買い込むのでした……

……というような感じで序盤から中盤にかけてはスティーブンスン風の海洋冒険奇譚みたいで、このあたりはまあ凄く面白いといってもいいのですが、そのあと海賊船らしき船と遭遇したあたりからどんどん変になっていって、「それじゃ今までの話は何だったんだ!」と叫びたくなるような、斜め上にぶっとんでいく結末になだれこむのであります。コリン・ウィルソンも褒めるに褒められず、苦渋のありありと浮かぶ文章を序文として書いているのですよ。

ということで、そのあまりにも異様なラストシーンのためにさすがのエディション・プヒプヒも二の足を踏んだこの大怪作を天下堂々公刊しようとするアトリエサードには讃嘆と応援を禁じえません。願わくば途中で日和ることなく初志貫徹して無事刊行されんことを。もし万が一アトリエサードのほうが頓挫したら、今度こそは絶対エディション・プヒプヒで出しますよふおふおふおふおふお。

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ご存じゴランツ版『メデューサ』

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こちらはセンティピード・プレス版『メデューサ』。序文はコリン・ウィルソン。

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センティピード・プレス版『メデューサ』の挿絵。見るからに何か大変なことが起こってそうだ。

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ヴィシャックのもう一つの長篇"The Haunted Island"。なかなか面白いけれど怪作度では『メデューサ』に及ばない。

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"The Haunted Island"の口絵

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ヴィシャックの自伝。コリン・ウィルソンは「少年時代の喚起において『快楽主義者マリウス』や『夢の丘』に匹敵する」と評している。

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コンラッドの研究書。英文学者のあいだではヴィシャックはむしろこの著作で有名だと思う。

2017-01-28

confidential agent

ここ何日か、謎の黒猫の来訪を受けている。帰宅してドアを開けようとするとかならず隅にいる。毛並みがつややかで、こちらが近づいても逃げようとせず、もの問いたげなまなざしを向けてくる。その落ち着きは野良猫にはないものだ。どこからか逃げてきたのだろうか。捨てられたのだろうか。それにしてもなぜ毎日ここに来るのか。

そんな折このツイートが目にはいった。

おうそうだったか。黒猫国が総力を結集しているのであったか。それでうちにも密使が派遣されてきたのか。卒然とコンプレヘンドしたわたしはすぐさま本を買いに走った。

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これであの猫は明日からもう来ないだろう。淋しい気がしないでもない。

2017-01-21

明日に迫る文フリ

いよいよ明日に迫る文学フリマ京都。予定当日販売物は下記のとおりです。

作者タイトル
A・レルネット-ホレーニア三本羽根(新刊)
ジョン・A・シモンズギリシア倫理の一問題
スタニスワフ・レムエフ氏
スタニスワフ・レム発狂した仕立屋
レオ・ペルッツ霰弾(さんだん)亭
ルートヴィヒ・ティーク青い彼方への旅

価格は各400−800円くらい。その他にも家探ししてなんか名状しがたい物が見つかったら持っていくかもしれません。あとホテルが取れなかったため、明日は東京から直行です。新幹線の遅延などあれば会場入りが遅れるかもしれませんがその節はなにとぞご容赦を〜。

【おまけ情報】

安田均氏のツイッターによると、アトリエサードが『魔術師の帝国』を先行販売!

我刊我書房も『黄金魔人』をひっさげて乗り込んでくる!

2017-01-18

表紙完成

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文学フリマ新刊、表紙だけはとりあえずできました。真ん中の絵は翻訳が出るとかいう噂もある『ポリフィロ狂恋夢』より借用。しかしあまり本文の内容には関係ありません。