伊藤人誉「人誉幻談 幻の猫」(亀鳴屋)

もうずいぶん前に読んで、感想を書こう書こうと思いながら、機を逸してしまった本です。ぼやぼやしているうちに、いろいろWeb上で書評が出てきました。なかなか好評なようで拙豚も嬉しいです。とりあえず遇目したもののみリンク(順不同)

「幻の猫」書評リンク 


拙豚自身の感想はうまくまとまらないので箇条書きに。

・良質のghost story集であります。(このghostという言葉の意味については、「伝奇ノ匣」収録のハーンの講義を読むべし)

・日影丈吉の幻想的短編に似た味わいを持っていると思いました(「夢の播種」とか)。日影ファンならば読んで失望することはまずないでしょう。

・文体は柔若ながら、感傷に溺れぬ物語の運びがここちいい。内にこもるstand aloneな精神が尊いと思います。

・表紙の、足をぴんと伸ばして歩く猫がカコイイ。ああいう歩き方をする猫はあまりいません。

倉阪鬼一郎『42.195 すべては始めから不可能だった』

「読者参加型」のマラソン・ミステリー。給水ポイントでヒントをもらいつつ、二つのマラソン競技が行われる作中の全42.195章を読者が共に走りつつ真犯人を推理するという趣向です。途中三箇所に給水ポイントが設けられていて、作者が登場し、謎解きのヒントを読者に授けます。(「読者への挑戦」の変形)

誘拐もののサスペンスとスポーツのサスペンスはうまくシンクロすると絶妙な効果を発揮しますね。誘拐+スポーツという組み合わせは岡嶋二人をはじめとしていくつも作例があるけれども、この作品にも負けず劣らず手に汗握りました。

しかし、給水ポイントでヒントを出しすぎのような気が…。拙豚は20キロを越えたあたりで仮説が閃いて、10キロ地点の給水ポイントをもう一度読み、冒頭に戻って何キロか再走した結果真相を確信したなり。ミステリを読み慣れた人ならもっと早くわかるかもしれない。


メモ1:ペアであること。赤いこと。これは無言劇と共通している。おそらくは他の作品とも。
メモ2:赤と言えばトランペットの赤…10月1日には完成させたいと思っています。