樹木的成長

 
中村真一郎の一高時代の日記が翻刻されるということは、ずいぶん前から耳にはしていたが、今年ついに、それが一冊の本としてまとまった! つつがない出版を慶賀するとともに、関係者のおそらくは一方ならぬ努力に惜しみない感謝の意を捧げたい。

驚くのは一高時代から中村真一郎はすでに中村真一郎であったことだ。名著『1946・文学的考察』に直につながる世界がここにある。彼が好んで使うフレーズ「樹木的成長」がいかなるものであるかを、これほど雄弁に語りかけてくれるドキュメントはあるまい。

だが中でも吐胸を突かれたのは、きわめて率直に内心が吐露されたuranismeの記述だ。これは足穂でいえば「兎」体験にも相当しようけれど、さすがにこんなおちゃらけた日記でそれを云々するのははばかられる。これははるかに後の『冬』にもつながっていくようで、従来の中村真一郎像に新たな光を当てることは確実だ。