ウダルグルーヴ

 
今日付けの『新青年』研究会のブログを見たら『新青年』趣味17号が文学フリマで初売りだそうな。特集はなんと大下宇陀児! その変わらぬ時代錯誤ぶりに思わず笑いが出た。世間では変な人が大統領になっててんやわんやだというのに。

もちろんそれでいいのだ。どんどんやってもらいたい。

それにしてもウダルというのは絶妙のチョイスだと思う。トランプに対抗するには乱歩や正史では、ましてや久作や虫太郎ではちと役者不足だ。ここはやはり、とうに忘れられた過去からノメっと顔を出したようなウダルが必要とされるのではないか。すくなくとも唐突感ではタメを張れよう。

幸いなことに(こんな幸福がいつまで続くかはわからないものの)、現在は例の論創社のシリーズで「蛭川博士」他の代表作が読める。もっとも今読むとどうにもあまりに通俗で、二冊まるまる付き合うのは辛いかもしれない。

ウダル作品で気になるものといえばそのショタ風味である。不良混血少年(しかも名探偵!)ジュアンとか、時に少女漫画的感性にきわめて接近することもあると思うがどうだろう。その筋の人が読んだら御飯三杯とはいわないまでも一杯くらいはいけるのかどうか、ちと聞いてみたいと思う。明らかにその気のある乱歩は、ウダルのことを「少年使いの名手」と評したけれど、いったいどういうニュアンスを籠めているのだろう――だがこの『新青年』趣味17号の目次を眺める限りではそういう趣旨の文章は載らなさそうで残念だ。

それからウダルといえば「ニッポン遺跡」の全文が読みたい。早川SF全集の古典篇に収録されていた抜粋はとても面白かった。たしか横田順彌氏のアンソロジーで読んだ短篇「宇宙線の情熱」も唖然とする大怪作だったし、この人は独特のSFセンスのある人だったのではないか。

だが今回の『新青年』趣味の目玉といえば、なんといっても毎回軽妙な文章で楽しませてくれる村上裕徳氏の

ケンカとオッパイ ー松山俊太郎さんの思い出ー  村上裕徳

にとどめを刺す。この一篇のために二千円出しても惜しくはない。あと沢田安史さんが「これを見つけられるのは俺だけ」とあちこちで豪語している小栗虫太郎エッセイ集拾遺も楽しみ。

ということで11月23日(休)の文学フリマにみなさんお越しください。拙豚も店を出します。