なにが「萌え」ですか


柳美里福田和也坪内祐三リリー・フランキーの四氏が責任編集する扶桑社の文芸誌*1『エンタクシー』。今月は三島由紀夫が表紙を飾って、今はやりの「ちょいウヨ」雑誌を気取っております。
落語特集をめあてに買ったのですが、明らかにアラーキーをバッシングしているとしか思えない篠山紀信インタビューも面白かったです。


この雑誌、巻頭に毎回先に挙げた編集同人四氏による「匿名コラム」が掲載されています。コラムが四本載っているのですが署名がないのです。「編集同人が名を棄てて腕を競う!」とありますので、まぁそういう企画なんでしょう。


目をひいたのが、オタクに関するコラムでした。

弐 オタクはやっぱり……


こういったことが続いているからというわけではないけれど、オタク、やっぱりよくないですね。差別、弾圧すべきですよ。すくなくとも、日陰者にしておくべきだと思います。その息子が、オタクだというと、親がツライ気持ちになるぐらいのポジションがふさわしいのではないかな。
ここで、とりあげているオタクというのは、マニア一般ということではないのです。と、申しますより、いまやオタクといえば、なにか世間的には無価値な、マイナーなジャンルにのめり込み、驚くほどたくさんの知識を集めている、けれどその知識はごく少数の仲間うちにしか通用しないという人たちだということで、これは要するにマニアックな人たちだと解釈されておるのですが、この解釈の仕方こそ、オタクの陰謀ではないのでしょうか。
オタクとは、要するに、幼女性嗜好をもつ変質者にほかなりません。かれらの性的な傾向は、その社会、他者との逃避からいやおうなく導きだされた結論なのです。
他者ときちんとむきあうことができず、そのために一般的で常識にもとづくコミュニケーションを他者との間にもつ努力から逃げ、その逃避を完全にするためにこそ偏った世界に集まり、独特の符丁と記号操作をつくりだし、その一方的な、対話を欠いたコミュニケーションを性的な領域にひろげると、責任が指弾されることのない状況でひとりよがりの、幼女やそれに類する無力な者たち――メイドなど――を性的対象とする卑怯者なのです。
こういう人々を甘やかしたことが、とらえ易いかたちで発覚するおびただしい事件以上に、日本社会全体をおかしくしています。経済関係のメディアまでもが、オタクを日本経済の原動力とするような報道をおこなっています。なにが「萌え」ですか。そんなものに頼るくらいなら、日本経済が滅んだほうがましです。
                                   (年増好き)


嫌オタク流』かと思った。ふーむ。『嫌オタク流』のほうが面白かったなぁ。
いちおう匿名になっているのだが、ぶっちゃけた話、これを書いたのはリリー・フランキーだと思われる。
それはリリー・フランキーがこのような考えの持ち主だということがどこかで明らかになっているからわかる、というわけではなく、状況証拠から導き出される結論であることをおことわりしておきます。
コラム「壹」は新潮社の歴史について。コラム「参」は大江健三郎中原昌也の比較について。「肆」は早稲田の立ち食いソバについて。リリー・フランキーが新潮社の歴史に興味があるとは思えないし、早稲田の立ち食いソバに興味があるとも思えない(たしか武蔵美出身。加えてこのコラムには「ツボウチ」なる人物が登場する)。中原昌也とは交流はあるらしいが、なにも大江健三郎と比較しなくてもよかろう。ついでに言うなら、「壹」と「参」には引用文が登場する。資料を見ず、推敲もせず、原稿用紙に鉛筆一気書きを貫く*2リリー・フランキーがそんなしちめんどくさいことをするとは思えません。


でも、たしかリリー・フランキーって昔は自ら「B級アイドルオタク」を標榜してたんだよね。それがこの苛烈なオタクバッシング。手のひら返し? ベストセラー作家になったから過去のプロフィールは抹消?(自分の過去の話でベストセラーになったのに!)


まぁひとつだけいえることは、彼が自ら認めていた頃の「オタク」と、今彼から見える「オタク」が乖離してしまっているんだろうなぁ、と。それは『嫌オタク流』でもさんざん指摘されていることだけど。それが世間から白眼視されながらも「世間的には無価値な、マイナーなジャンルにのめり込み、驚くほどたくさんの知識を集めて」きた彼をイラだたせているんじゃないだろうか。一緒にすんなよ、と。


いっそのこと、もう新しい言葉を作ってしまったらどうだろう。二次元好きで萌え好きでポルノ好きな人たち(それでいて「萌えはポルノじゃない」と言い張る人たち)。コミケのエロ同人売り場に行って「この人たちは仲間だ!」と帰属意識を持てる人たち。こういう文章を読んで腹が立つ人たち、という括りでもいいや。新語はどんなのがいいかな? 「ロリポ族」? 「チャイポラー」? 「フィギュア萌え族」? あ、それは大谷昭宏か。


追記
同誌に掲載されている中原昌也の小説は必読! 凄まじいサンプリング小説!(ナベジュンネタ)

*1:表紙には「超世代文芸クォリティマガジン」と書いてあった。「超世代」なんて言葉、全日本プロレス以外で初めて聞いたよ。

*2:『GQ』誌の福田和也の文章より。