佐藤景一の「もてない音楽」 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter


2006-06-24 超メジャーなもてない音楽、バルトークの弦楽四重奏曲を聴け!

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[]バルトーク弦楽四重奏曲に戦慄せよ! バルトークの弦楽四重奏曲に戦慄せよ!を含むブックマーク


超もてない超有名曲


きょうは、クラシック

超有名曲をご紹介します。


超有名曲のくせに、

女の子まったくもてない音楽です。


よかったら下までお読みください。


今回はCD紹介です


【今回のCD

バルトーク弦楽四重奏曲全集

Bartok: The 6 String Quartets

(PHCP-9165)


【曲目】

●CD1

弦楽四重奏曲第1番イ短調 Op.7/Sz40(1908)

弦楽四重奏曲第3番 Sz 85(1927)

弦楽四重奏曲第5番 Sz 102(1934)

●CD2

弦楽四重奏曲第2番イ短調 Op.17(1915-1917)

弦楽四重奏曲第4番 Sz 91(1928)

弦楽四重奏曲第6番 Sz 114(1939)


ミュージシャン

ノヴァーク弦楽四重奏団Novak Quartet

(録音:1965)


20世紀音楽のふたりの天才


ロシアストラヴィンスキーIgor Stravinsky(1882〜1971)、

ハンガリーバルトークBartok Bela(1881〜1945)、

ふたりは、いずれも20世紀を代表する作曲家です。


このふたりにはいくつかの共通点があります。


年齢はわずか一歳違い

ヨーロッパの周辺地域に生まれ、

それぞれ自国の民族的な音を取り上げ、

クラシック音楽の流れを変えてしまうような

革新的な作品群を残しました。

そして第二次世界大戦を目前にアメリカ合衆国へ移住し、

かの地で生涯を終えました。


f:id:putchees:20060624143638j:imageバルトーク)

f:id:putchees:20060624143715j:imageストラヴィンスキー


ふたりはいずれも先鋭的な作風ですが、

伊福部昭によれば、

ストラヴィンスキー派とバルトーク派は、

しばしば相容れないそうです。


つまりストラヴィンスキーが好きな人は

バルトークが嫌いで、

バルトークが好きな人は、

ストラヴィンスキーが嫌いなのだそうです。


ホンマかいな? と思うのですが、

91年の生涯で数知れない音楽愛好家と交流した

伊福部昭の言うことですから、

それなりの実感にもとづいた発言なのでしょう。


ちなみに、伊福部昭自身はストラヴィンスキー派で、

バルトークのことは嫌いだったようです。


ではぼく自身はどうかというと、

完全にバルトークです。


伊福部昭敬愛するぼくですが、

この点だけは彼と正反対の意見です。


もちろん、ストラヴィンスキーも嫌いではありませんが、

好きな曲はどっちが多いかと言われたら、

迷わずバルトークを挙げます。


ヴァイオリン協奏曲2番、

ピアノソナタミクロコスモス

中国不思議役人など、

思い出しただけでぞくぞくするような名曲ぞろいです*1


ほとんどフリージャズ


思うに、ストラヴィンスキー音楽流麗すぎます

あまりにスムースで、物足りなく感じることがあります。

一方バルトーク音楽は、ごつごつとしています

どうしてここまで肩肘張っているのかと思うくらい角張っています。


シリアスジャズやヘビーなロックを愛する人にとっては、

ごつくて角張ったバルトーク音楽

たまらない魅力ではないでしょうか。


たとえば、有名な

「2台のピアノパーカッションのためのソナタ」(1937)

なんて、ほとんどフリージャズです。


セシル・テイラーCecil Taylor

ここから影響を受けたと聞いても、

まったく驚かないでしょう*2


もてないクラシック


伊福部昭は、

ストラヴィンスキーリムスキー・コルサコフRimsky-Korsakov、

ラヴェルMaurice Ravelのような、知的で端正な

作曲スタイルを愛したようです。


バルトークのように、あたかも業をむきだしにしたような

作風はいやらしいと思ったのではないでしょうか。


しかし、ぼくはそういう

いやらしい音楽が大好きなのです。


なにしろもてない音楽好きですから。


バルトークの作品は、

いわばもてないクラシック


(前も書きましたが)だいたい、

バルトークが好きなうら若き乙女なんて

いまだかつてお目にかかったことがありません*3


きょうはそんな「もてないバルトーク音楽」の

真骨頂、弦楽四重奏曲String Quartetsを

ご紹介しましょう。


ジャズ好きにオススメ


弦楽四重奏曲というのは、

ふたつのヴァイオリンヴィオラ

それにチェロで演奏される曲のことです。


バルトークの残した6つの弦楽四重奏曲は、

超有名曲です。


クラシック音楽の分野では、

ベートーヴェン弦楽四重奏曲に並ぶ傑作

とまで言われています*4


だから、ぼくがあえて紹介するような必要もなさそうです。


ぼくが付け加えることができるとすれば、

もてない音楽好きなら、ぜったい聴くべし

と言うことくらいです。


こんなもてそうにない

えげつない曲を、上品クラシック音楽のファンが

喜んで聴いているというのは、とても信じられません。


クラシックマニアだけじゃなくて、

ぜひ、ジャズやその他の角張った音楽が好きな人たちに

聴いてもらいたいと思います。


失禁しそうな不協和音


まあ、とにかく聴いてみましょう。

ぼくのオススメは、なんといっても4番

その最終第5楽章です。


「ギーギーギーギー、ギー、ギー、ギーィィィッ!!!」


ああっ!!

たまらん。


なんという非常識不協和音

なんて野蛮な音なんだ!


そしてこの律動!

ズンズンと腹に響くリズムの快感ときたら!


これぞもてない音楽

これぞ男の音楽という感じです。


「ギギギッ!!」


お、終わった!


あまりに気持ちよくて、

おしっこがもれそうです。


ほかの曲もオススメですが、

とんがり具合からいうと、全6曲のうちで

なんといってもこの4番がオススメです*5


超コワイ音楽


弦楽四重奏曲というのは、

このジャンル確立したベートーヴェン以降、

インテリの屈託した内面

仮託するものだと見なされてきました*6


文学青年が、人生の悩みを投影するのに、

弦楽四重奏曲はちょうどいいBGMだったわけです。


バルトーク弦楽四重奏曲も、

もちろん過去伝統を踏まえ、

内省的な雰囲気は濃厚なのですが、

4番などは過激になりすぎて、

伝統的な弦楽四重奏曲の枠組みを

明らかに逸脱しているような気がします。


天才がイッてしまうときほど、恐ろしいものはありません。


さっきのようなギーギーという不協和音を聴いたら、

人生の悩みを投影するどころではありません。


気の弱い人は、はだしで逃げ出すかもしれません。


以前ご紹介した

メシアンMessiaenの幼児イエスにそそぐ20のまなざし」

に勝るとも劣らない、超コワイ音楽なのです*7


前衛現代音楽なら、これより激しい(あるいはヘンテコな)

弦楽四重奏曲はいくらでもありそうですが、

伝統的なクラシックの作法で

ここまでイッちゃってるところが面白いのです。


名盤多数!好きなのを選んで!!


この作品はなにしろ超有名曲ですから、

聴く機会はいくらでもあります。


つい最近も、来日したバルトーク弦楽四重奏団Bartok Quartetが、

全曲演奏会を開いていました*8

間違ってもデートには使えない演奏会です。


この作品の全曲を収めたCDも、

毎年何種類もの新譜が登場するほどです。

間違っても、女の子へのプレゼントにはできないCDです。


個人的には、こんな角張った音楽

いったい誰が聴いているのか不思議なのですが、

一定の需要があるのでしょう。


ぼくが今回取り上げたCDは、

たまたまぼくが持っているだけの話ですので、

ほかの弦楽四重奏団の録音を聴いていただいて、

まったく問題ありません。


ぜひ、いい録音と演奏で、

この世紀の名曲を聴いていただきたいと思います。


そして、こんなもてない曲がメジャーになってしまうという、

クラシック音楽懐の深さを感じていただきたいと思います。


ただもちろん、こんな音楽を聴いていたら、

女の子にはぜったいにもてません。


(この稿完結)


※もしコメントをいただけるなら、あなたがストラヴィンスキー派かバルトーク派か教えてください!

*1バルトークヴァイオリン協奏曲2番については、過去の記事をお読みください→id:putchees:20050530

*2セシル・テイラーについてはこちらをお読みください→id:putchees:20041225 id:putchees:20050210 id:putchees:20050216 id:putchees:20050321 id:putchees:20050605 id:putchees:20060619

*3:同じことを過去に書いてます→id:putchees:20050530

*420世紀以降でいうと、ショスタコーヴィチShostakovichの弦楽四重奏曲群と双璧でしょう。もてなさ具合もたぶん同じくらいですし。

*5:ほかには2番、3番、5番あたりも楽しいと思います。

*6弦楽四重奏曲は、音楽史的にはハイドンHaydnやボッケリーニBoccherini、モーツァルトMozartなどの先駆者を経てベートーヴェンによって完成されたといわれています。

*7メシアンの「20のまなざし」についてはこちらをごらんください→id:putchees:20060430

*8:ぼくは、まだ実演では聴いたことがありません。全曲演奏会なんて行ったら、途中で眠ってしまうだろうからです。しかし、人生に一度は経験したいものです。

木曽木曽 2006/06/25 21:35 こんにちは。はじめまして。
私はどういうわけかバルトークもストラヴィンスキーも苦手だったりします。
クラシックを聴きはじめてウン十年、未だにバルトークの弦四、さっぱりわかりません。
4番の第4楽章(ピチカート楽章)とか第5楽章とか、5番とかは面白くなくもないのですが、
突然激高したと思えば、急にうつ向いてぶつぶつつぶやきだしたり、
情緒の安定しない人の相手をしているみたいで、とっても疲れます。
「なんで音楽聴いてこんなに疲れにゃならんのやー、ワレ」と、
こちらも凶暴な気持ちになってついCDを止めてしまうのであります。

http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/index.html

putcheesputchees 2006/06/25 22:02 木曽さん、はじめまして。プッチーケイイチと申します。
コメントありがとうございます。
もちろん、どちらもお嫌いな方も多数いらっしゃると思います。

gkrsnamagkrsnama 2009/10/31 00:02 もちろんバルトーク派ですよ。調性をきちんとおさえながらあの奇妙な音。いまはピアノ曲にはまっています。まるでセロニアスモンク。あの決まりきった音ばかりする、モーツアルトやポップスなんか耳が腐りそうです。

ストラビンスキーはあまりにも作風が変わるのでよくわかりません。ストラビンスキーは音楽祭をやるほどジェズアルド大好きだったそうで、そのあたりから攻略できるかも。(ええジェズアルドは大好きですよ。バルトークがテーマにしたジルド・レとすこーし似てますか)

gkrsnamagkrsnama 2009/10/31 00:04 一つ追加。バルトークはどれも大好きですが、一つだけ全く分からない音楽があります(まるでポップスやモーツアルトを聞いたときのように虫酸が走る)。オケコン。この曲だけは全くわかりません。

心配性心配性 2014/09/28 10:18 初めまして
通りすがりのものです
バルトークのオケコン・弦チェレは大好きですが、ストラヴィンスキーの春の祭典は大の苦手…でした

ところが、春の祭典のバレエ…「ニジンスキーはこうやったんだろう版」などを見てると実に簡単に入ってくる…一回入ってしまえばもう録音のみでもOK! なんだ、これいいじゃん!…という発見がありまして…

吉田秀和に言わせれば「バレエは音楽そのもの」だそうですから、こういう入り方もアリな気がします

好き・嫌いはおいといて、ストラヴィンスキーって「動画で説明してほしい作曲家」…まるで物理の式みたい…な作曲家なんでしょうかね

そういう意味では、バルトークはあのたいていくらーい、彼の肖像さえあれば充分…ドラマもポエジーも感じられる…気がしています

最終的にはバルトークが好きなんですけどね
個人的な感想です あしからず ごめんくださいませ

有田有田 2015/09/26 23:25 はじめまして。クラシック歴40年強の五十代後半の者ですが…この年になり初めてバルトークに目覚めました。二十世紀を代表する大作曲家と知りつつも、古典派のメロディーに馴染み過ぎたせいかバルトーク云うとアレルギー起こしてました(苦笑)そんな私でしたが、バルトーク御大のバイオリンコンチェルト第二番の静かな序奏に続くソロバイオリンのタータタタと始まるメロディーを耳にした瞬間に打ちのめされました。今は弦楽四重奏曲の深い森にはまってます。静かに幕を下ろす第六番のフィナーレの余韻。秋の夜長に相応しい名曲ですね。此れからもバルトーク御大に長いお付き合いをと願ってます。ストラビンスキーは!?肌に馴染まんみたいです。此れは蛇足ですがバルトークの弦楽四重奏曲と比較される楽聖の16曲の作品と大フーガが有りますが、個人的にはハイドンの円熟期以降のカルテット、特に日の出という副題の名曲は、転調の妙味などバルトークに通じるようで興味深いです。長々失礼いたしました。

ベラ兄ベラ兄 2016/07/02 15:30 好きな作曲家=バルトーク、サティ、ドビュッシー、フォーレ、ラヴェル

クラシックは上記以外、あまり聴きません。
思春期にクラシック好きな父がモーツァルトばかり聴いていたせいで、ポップなクラシックは馴染めませんでした。
以前、仕事で知り合った方が若い頃バンドマンだったギタリストで、クラシック初心者なのでオススメをと言われたときに、迷わず「最もロックンロールなクラシック作曲家はバルトークです!」と言って勧めました。個人的に好きなドビュッシーの3つのソナタと一緒に紹介しましたが、やはりその方はバルトークにはまったようでした。
私はアマチュアで作曲をしているのですが、最も勉強になるのは、バルトーク兄貴とフォーレ院長、そして天才ドビュッシーです。サビがかっこよく、奏法の限界に挑戦しているバルトーク。バッキングのマスターで、丁寧な作風のフォーレ。音楽家が天職で、この音しかないという音を完璧に選んで推敲せずに書けるドビュッシー。どなたも楽譜で読むと、読み応えがあり ます。
バルトークは、作曲家の苦闘の跡が楽譜から伝わってきて音源同様、迫力を感じます。

ベラ兄ベラ兄 2016/07/02 15:44 追記です。他の方のコメントを見て思いました。

器用な人の一筆書きな美しさ=モーツァルト、ドビュッシー
不器用な人の鬼気迫る凄み=ベートーヴェン、バルトーク
といったところでしょうか。
それと、作風ということでいうと、流麗さを心地よさと感じる作曲家やリスナーがいる一方で、バルトーク自身やバルトークリスナーはダイナミックさ、つまり変化に価値を求めるのではないでしょうか。

じじい@新横浜じじい@新横浜 2018/10/05 16:46 ビバルディ、バッハ、シューベルトの歌曲、ベートベン、
チャイコフスキー、ヴァーグナー、ブラームス、そして
モーツアルトのピアノ協奏曲 ストラヴィンスキーは大
の苦手、バルトークは圏外だった。 今朝、BSで聴いて
魂に灯が点ってしまって、ここを見ています。 JSBの
実験と同じ匂いを感じ取ったからっ…