対決

「なるほど、ジョージ。君はこう主張するわけだ。ダーウィニズムでは現存する生態系の複雑性を説明できない、と」
「そうだ、ケリー。古くは6億年前のカンブリア爆発から4万年前の新人誕生に至るまで、ランダムネスに基づく自然淘汰だけでは到底説明できない。そこには大いなる意志がある」
「で、アダムとイブか……聖書主義者め」
「違う。知的計画(ID)論は神学ではない。実験と観察に基づく科学だ。進化論は誤っている。世界のあり様がまさにそれを証明しているというのに、古臭い学者たちはなぜ認めようとしない!?」
「ジョージ、君は2つの間違いを犯している。まず、君のID論は科学ではない。なぜなら、科学であるための条件を欠いているからだ」
「……ど、どういうことだ!?」
「君は実験と観察を基点とする帰納的手続きを科学だと考えているようだが、それは違う。科学に必要なのは、ただひとつ――反証可能性だ。君の唱える『大いなる意志』はいかなる現象をもってしても反駁できない。したがって科学ではない」
「反証できないのは当然だ。それが真実なのだから」
「実際に否定されるかどうかではない。可能性の問題なのだ。進化論はアダムとイブの痕跡が発見されれば科学的に否定される。だが、ID論にはそういった余地がない」
「詭弁だ! 論破を恐れて前提を変える……それが科学者のやり口なのだ」
「そう、それこそが2つ目の誤りなのだ、ジョージ。科学は元来『HOW(どのように)』を追求する学問だ。それは決して『WHY(なぜ)』に言及しない。つまり、そもそも進化論とID論は対立などしていないのだよ」
「恥知らずめ、今度は懐柔か」
「分からないかね、カンブリア紀に突如として発生した複雑性、それが『意志』である可能性を科学は決して排除しない。言葉の定義の問題でしかないのだ。したがって、科学はそれに関わらない」
「黙れ、傲慢な屁理屈野郎!!」
「愚かな……神学、哲学、史学としてなら価値のある論理を君は持っているのに! むざむざそれを科学になど!」


 ――パン!


 二人は同時に引き鉄を引いた。
 冷たい床に倒れ込み、ケリーは考えた。
(ああ、高速に回転する鋼鉄の弾丸が私の胸部を貫通した。血流は止まらない。遠からず私は生命活動を終えるだろう)
 灰色の壁に背を預け、ジョージは考えた。
(なぜ私は死ななければならないのか。それはそこの馬鹿野郎が引き鉄を引いたからだ。私を憎み、殺そうとしたからだ)


(1000字・空白除く)