副題:ずっと音の響きにこだわってきた
2003年11月刊 著者:冨田 勲 出版社:日本放送出版協会 \1,785(税込) 253P
著者は手塚治虫アニメの「ジャングル大帝」「リボンの騎士」やNHKの「新日本紀行」「新平家物語(大河ドラマ)」の主題歌作曲者であり、シンセサイザー演奏アルバム「月の光」「展覧会の絵」「惑星」でも知られる音楽家です。
本書には自身の生い立ちから最近の仕事に至る音へのこだわりが、本人の書いた文章で語られています。音楽家の文章が分かりやすいとは限りませんが、冨田勲は音楽だけでなく文章にも堪能です。著者の音楽に対する考え方やトミタ・サウンドクラウドの公演の様子が、まるで目の前で展開されるように迫力満点で伝わってきます。
本書で彼の足跡をたどり、私なりにいくつかの時代に分けてみました。
・テレビ・ラジオの草創期に綱渡りのように曲を書きまくった
「テレビテーマ曲の時代」
・モーグシンセサイザに賭けて新境地を開いた「船出の時代」
・壮大な立体音場イベントを次々と成功させた「プロジェクトの時代」
・オーケストラの奥深い魅力を再発見する「回帰の時代」。
そして現在は過去の作品を家庭でも立体音場が聞けるようにDVDオーディオへリメイクする活動を展開しています。
・「集大成の時代」
と言ってよいでしょうか。
ご本人は立体音響にご執心のようですが、私は彼のシンセサイザーやテーマソングが好きで、「回帰の時代」に東京交響楽団が演奏した「新日本紀行/冨田勲の音楽」のCDを聞くと懐かしさがこみ上げ、胸がジーンとしてきます。
「70年代我らの世界」というNHK番組をご存知でしょうか。1970年代という新しい時代を考える月に一回の特集番組で、当時40代前半だった鈴木健二アナウンサーが司会をしていました。番組冒頭にアポロ宇宙船から撮影した(と思われる)地球が画面に出現し、少年少女合唱団が
「♪青い地球は誰のもの」
と歌い上げます。この主題歌も冨田勲が作曲したものです。
懐かしい……。
同じNHKの「新日本紀行」もいいですねぇ。
井上ひさしは、
「『おれもやっぱり日本人だわなあ』という気分になる。いつだった
か、夏の終わりの夜、山形の田舎家の縁先で枝豆を噛みながらこの
テーマを聞いたときは、心の底からしみじみとなり、思わず涙がこ
ぼれたものだ」
と「ブラウン監獄の四季」で絶賛していました。私も同感です。
ちょっと変わったところでは「きょうの料理」「宇宙人ピピ」も作曲していますが、さすがにこれはリメイク対象になっていないようでした。
あまり「懐かしい」を連発すると年寄りになってしまいますが、ともかく、日本の誇る芸術家「冨田勲」を身近に知ることができる一冊。
お薦めです。