著者:パオロ・マッツァリーノ 出版社:ちくま新書 2007年2月刊 \735(税込) 222P
自称イタリア人が社会学を大まじめに茶化す「社外学お笑い本」です。
パオロさんは肩書きを聞かれると「戯作者(げさくしゃ)」と名乗ることにしているそうです。
「戯作者」とはまた古風な言い回しを選んだものですが、その心は、
「うがった見方で趣向を凝らしてなんでも茶化すのが、戯作の精神」
と本人が解説しています。
本人が戯作者と名乗っているかどうかわかりませんが、「戯作者」と聞いて私が思い出すのは、小沢昭一、黒鉄ヒロシ、松崎菊也さんあたりです。特に、『松崎菊也の「あの人の独り言」』の毒の強さはハンパじゃありません。
この3人に比べるとパオロさんの名前は売れていませんが、なんでも茶化す精神は、本書でも遺憾なく発揮されていますよ。
本書ではじめにやり玉にあげているのは、「メディアリテラシー」です。イギリス生まれでカナダ育ちの「メディアリテラシー」ってどういうことかご存じですか?
本書の解説によると、「テレビや新聞・雑誌、広告などのメディアには、制作側の意図による偏りが含まれるので、鵜呑みしないで判断しましょうね」ということを「メディアリテラシー」と言います。
この外来語の言いたいことは分かるけれども、日本には「つっこみ」という、すばらしい風習がある。この「つっこみ」の力をもっともっと磨いていくべきだ、という真面目とも冗談ともつかない主張が展開されていきます。
著者に言われてみれば、批判力や論理力やメディアリテラシーがつっこみ力のパワーに勝った試しがない。同じように、齋藤孝センセが言い出した段取り力も読書力もコメント力も目じゃないのです。
「つっこみ力」を追求していった結果、パオロさんが到達したのは、
「民主主義とはおもしろさのことである」
ということでした。
詳しい話は本書を読んでいただくとして、他にも、いくつかパオロさんの「反社会学」的見地から導いた結論を紹介しておきましょう。
「わかりにくさは罪である」
「愛とは、わかりやすさである」
「つっこみ力は、愛と勇気とお笑い、この三つの柱で構成されている」
パオロさんの本は、版元を変えながらもう3冊目。
物好きな私がパオロさんの本を取り上げるのも3冊目です。
実は、拙著『泣いて笑ってホッとして…』の中で、同じ著者の本を2冊載せたのは、ただ一人パオロさんでした。私の入れ込み度の高さも分かっていただけると思います。
こういう戯作者を囃したてることができるのが、文化っていうものじゃないでしょうか。「役に立ちそうもない、おもしろいだけの新書」も、たまには読むべきです(笑)。
ご一読あれ。