息もたえだえ四阿山
単独行は久しぶりである。トシとともにあらゆる機能が低下してきているので、数年前からできるだけ複数で山へ行くようにしている。今回は一人なので、計画や準備にはいつも以上に注意をはらった。
さて、菅平牧場から根子岳を経て四阿山をまわるコースである。
牧場はゆるやかな斜面にひろがっている。しばらくは、牧場の柵沿いにつけられた道を歩く。
朝露にしっとり濡れた牧草地では、すでに牛たちがあちこちで草を食んでいる。ちょうど6時半、気温は19度、昨日までの灼熱地獄がウソのようなさわやかさだ。
やがて道は牧場をはなれ、白樺の樹林帯に入っていく。林床はササだ。ゆるい傾斜の登りがつづく。静かである。聞こえるのは自分の息づかいと土を踏みしめる音、ときおり樹間を渡る野鳥の声だけである。
ゆるいといいながらもしだいに息があがってくる。日ごろの不摂生のたまものだ。すでにぐっしょり汗をかいている。
最近のウエアに使われている素材は、汗をすばやく外に逃がしベトつかない繊維のものが主流で、肌触りも綿にひけをとらないものが多い。登山靴でさえゴアテックスが使われ、濡れない蒸れない快適さである。もうこの手のものなしには山登りはできない。
樹林は白樺から広葉樹に変わり、道脇には高山植物がにぎやかになってきた。ヤマハハコ、ウスユキソウ、ヤナギラン……立ち止まってはマクロ撮影をくりかえす。息をとめてシャッターを切る。苦しい。
少し登りが急になり、まもなく視界が開けた。ここから根子岳までは草原の登りとなる。苦しいながらも、なんとか足を交互に前に出しているうちに頂上に到着した。
360度の展望は気分がいい。広い山頂部に、先客は2グループ6人だけである。おにぎりを一個ほおばり、しばらく冷涼な風にうたれ放心した。体力が回復してきた。
ザックに手を通し、四阿山のほうへ向かって再び歩き出した。
根子岳の東側からは、一旦急降下して四阿山へと登り返す。高度差約200m下って300m取り戻すような感じだ。
ちょっとした岩稜帯を通ると、いよいよ一気に鞍部まで下る。ビーカンだがササ付きの下り道なので楽である。鞍部を過ぎて登りにかかるころ、広々としていたササ原は道をせばめ、そのままツガ林に入っていった。
暗い樹林に肩までかかるササの道。ササの葉にびっしょり付いた露が、毛管現象ですばやく服に移動。またたく間に全身を湿らす。不快な湿度と急登に、あっというまに体力消耗。最大の難所である。
ここまで来て何人かとすれちがう。四阿山から周回してきた人たちだろう。せまい道、こちらが登りなのでよけて待っていてくれるのだが、死に体の身にはつらい。
ササが切れたところで休んだが、口から心臓が飛び出るくらいに胸が波打つ。身体の要求にまかせて酸素を取り入れるが、今度は過呼吸にならないように注意する。
限界を感じ朦朧としてきたころに、四阿山へとつづくゆるやかな尾根の一角に出た。助かった。あとはだらだらの登りである。
せまい四阿山の頂上は、すでに20人ぐらいの老若男女でにぎわっていた。ここめがけて直登してきた人たちだろう。嬬恋からならリフト利用で、ワリと短時間で登って来られる。
時間はまだ10時だったが、陽はすでに高く、雲が上がってきていた。すぐ南の浅間連山も雲に隠れだした。
休んでいると次々に登山者がやって来た。さすが「百名山」だ。長居は無用。近くのカップルに証拠写真のシャッターを頼んで下山にかかった。
足どりの重さは、疲れよりも灼熱の下界に下りなければならない、残念な気持ちにちがいない。(^-^)
(photo:上から順に、鞍部からの根子岳、四阿山頂上、頂上から浅間連山方面、下山道にて、ノアザミ)