国際隊、白山へ

 いい出しっぺじゃないが、うまいこと乗せられて先頭に立たされることがときどきある。おだてられて木に登ったサルのようである。
 仕向けたほうが巧者なので、乗せられたほうはスキがあったか、あるいは、まんざらでもなかったかである。あえて “木に登る” のも、ときとして悪くはないが……。
 というわけで、木に登ったわけではないが、先週山に登ってきた。行き先は白山ーー。あの日本百名山の霊峰白山である。
 と、おおげさにいい立てるほどでもない。地元民なら昔からのなじみの山であり、夏山シーズンならわりと気軽に登れる山だ。
 しかし、集まった連中が傍目を引くような陣容だった。日本語学習者の中国人、ネパール人、ベトナム人カンボジア人。そして、サポートする日本人を加えた、いわば国際隊である。
 外国人の在留資格も、技能実習生、エンジニア、留学生と多彩。日本人のほうも、職業日本語講師、ボランティア日本語講師、会社員、主婦とこれまた多彩だ。
 まあ、かなりアンバランスな集団なのである。案の定、若者主体の外国人とオッサンオバサン中心の日本人とでは足並みが揃うはずがなく、途中から二極分化してしまった。
 ぼくなどは一応「引率者」という役回りになっていたので、登山口の別当出合でえらそうに、「ゆっくり歩くことが疲れないコツだから、ぼくについてくるように」と、彼らに理解できるような日本語でゆっくり注意事項を述べた。
 コースに選んだ砂防新道は、のっけから高度感のある長い吊り橋を渡るので、すでに外国人の若者たちはハイテンション。「引率者」の御託などすぐに忘れ、ガシガシ登りはじめた。
 それでも、彼らのはやる気持ちをおさえながらぼくもついていったが、やがてオッサンはオーバーヒートしてしまった。
 しょうがないので、甚ノ助避難小屋の手前で「引率者」を放棄した。ムリに若者に合わせることはない。ま、山に限らないがね……などと哲学的思考にひたる余裕もなく、またヨタヨタと歩きはじめた。
 休憩地点で追いつくと、「先生、おそいね〜」と余裕で見下ろされ、彼らはまたさっさと先に登っていった。くやし〜。
 キミたち、今にきっとバテるからな、ヒヒ……と思っていたが、下山する翌日の最後までハイペースを保った。恐るべし若者パワー。
 断っておくが、ぼくはとくべつ遅い方ではない。トシはとっても標準的なコースタイムはたいがいクリアするのである。でも振り返ってみると、ぼくも若いころはコースタイムなど気にしたことがなかった。
 ところで最近あちこちの山で、外国人登山者を見かけることが多くなった。その多くは若い世代で、在留外国人の増加に沿った単なる比率の問題なのかもしれないが、ぼくは日本の若い世代が山に向かうようになった影響だろうと思っている。
 さて、我が「隊」であるが、1泊2日全行程天候にも恵まれ、火山地形により生まれた7つの池をめぐる「お池めぐり」や頂上で日の出を迎える「ご来光」を楽しむことができた。
 9月に入ってはいたが、ハクサンフウロやイワギキョウ、シモツケソウ、クガイソウなどがまだ残り目を楽しませてくれた。
 それにしても、多国籍なグループの共通言語が日本語、というおもしろさ。外国人同士が日本語でコミュニケーションする姿は、日本語講師としてニヤリとするような光景ではあった。(^o^)
(photo:上…御前峰2,702m頂上にて、下…北アルプスからご来光)