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2008-07-04
■[生物]脳の大きさと知性の関係の有無
ヨーロッパ人の平均1300―1400グラムに対して、(中略)ノーベル文学賞受賞者アナトール・フランス(中略)は1017グラムというちっぽけな脳――同業者であるツルゲーネフの約半分――しか持っていなかった。以後、完全に機能している人間の脳としてこれまでに確認されている最も小さい脳は、762グラム――すなわちゴリラの脳の最大記録である725グラムより5パーセントしか大きくないのである。結論は明白だ。賢さと脳の大きさが固く結びついているという主張は完全に崩されたのである。
人間の脳に余分なものが詰まっている証拠は、(中略)いくつかの悲劇的な、しかしきわめて驚異的な医療事例から得られている。その患者たちは脳の大部分を失いながらも、すべての機能を――私たちの種を他の動物と大きく隔てている言語と手先の器用さを含めて――保持していたのである。特に最も有名なのが、十九世紀半ばにバーモント州で働いていた鉄道従業員の事例である。
(中略)爆発が起こったとき、(中略)ものすごい勢いで跳ね上げられた棒のとがった先端がゲージの左の頬骨のすぐ下に突き刺さり、左眼窩の後ろから左の前部前頭葉を抜けて頭骨のてっぺんを突き破り、ゲージの頭に長さ九センチ、幅五センチの穴を開けた。(中略)いくつかの報告によれば、ゲージは決して意識不明にはならなかったという。左の前頭葉の半分に加え、おそらく右の前頭葉の一部も周囲に吹き飛ばされており、残りの脳もおびただしく出血していた。(中略)さて、その後フィニアス・P・ゲージはどうなったか? まず、驚くべきことに彼は生き残った。しかも彼の回復力はすさまじく、七ヶ月後には仕事に復帰していたほどである。脳の大部分を取り去られてしまったにもかかわらず、フィニアス・ゲージはいたって正常に話すことができたし、身体の各部分をすべてコントロールすることもできた。論理的な思考も、意見の主張も、計画の立案もできて、まるで何事もなかったかのように、どこから見ても以前の彼と変わりなかった。
(中略)
人間の脳が必要以上に大きいことを示す最も驚くべき証拠はこれからである。シェフィールド大学のジョン・ローバー教授は、600人以上の脳水腫(水頭症)患者、つまり脳の空洞に脳組織のかわりに髄液が溜まっている人々の脳を検査して、患者を三つのカテゴリーに分類した。髄液の溜まった脳室の広がりが最小限の患者、脳室が脳の空洞の50パーセントから70パーセントを占めている患者、そして最も深刻な、脳室が脳の空洞の95パーセントを占めている患者である。ローバーはその後各グループの患者のIQを測定した。その結果は、息をのむようなものだった。
この大学にはIQが126もある若い学生がいる。彼は数学で第一等優等学位を取得しており、社会行動的にも完全に健常である。にもかかわらず、彼には実質的に脳がない。我々が彼の脳を検査してみると、脳室[脳内の髄液の溜まる場所]と皮質表面の間に通常あるべき厚さ4.5センチメートルの脳組織のかわりに、わずか一ミリ程度の薄い膜のそうがあるだけだった。彼の頭蓋はほとんど脳脊髄液で埋め尽くされていた。
彼だけでなく、ローバーの研究の第三グループに相当した、脳の空洞の95パーセントが髄液で占められていた人々――言い換えれば、脳が通常の大きさの5パーセントしかない人々――の半数以上はIQが100を超えていた。脳が通常の1500グラムどころか100グラム程度しかない人々の方が、通常の大きさの脳を持った人々よりも実際には高いIQ平均値を示したのである。
ここで私たちは最も不思議な謎を突きつけられた。(中略)何らかの疾病によって頭骨のほんの一部にしか脳がない人々でも、平均以上の知性を持てることが明らかになったのである。人間の脳の大きさが際限なく増してきたのは人間の知性にとって大きな利点となるからだという説は、もう意味をなさなくなった。実際のところ、私たちのほとんどは必要量の二倍、ともすると三倍近く大きな脳を持っているらしい。
クライブ・ブロムホール 「幼児化するヒト 「永遠の子供」進化論」 p.179-183, 2005, 河出書房新社
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