Hatena::ブログ(Diary)

qzo presents

2008-07-25

02:08

 夜の街。数多揺らめくネオンと光球の曼荼羅模様が目に滲む。
 それらは衆生の視界にあるべき満天の採光孔を故あって覆い隠すためにあるのか。
 兜卒の聖者達から下天のいじましさをひた隠すために誰かが設えたものだろうか。
 あるいは、肩を寄せひしめきながら命脈を瞬きで示し合わせるかのようなその様が、まるで自分ら半可者のみみっちい生き様
に対する意地悪い暗喩のようにも穿って思えた。
 そんな彩りの往来を、ご同輩方がちれじれに彷徨っている。しばし見ていると、やがてそれぞれの丸い背中が、誘蛾灯に順う
羽虫のごとく、光源の下にぽっかりと開かれた方形の穴口へと溶けていくのが伺えた。
 ほんの気まぐれ? それとも何か察するところでもあった? 虚空蔵からのメッセージ? 自問しても答えは一向に定まらぬ。
まあいい。そもそも世の中、直ちに白黒つけられることの方が少ないのだ。そう、ここは戦略的(ストラテジック)に判断停止
(エポケー)し、ただ或る凡夫にまつわるふしだらな事実だけを告白しよう。
 すなわち、気がつけば自分もまた、そんな彼らのうちの一人の後塵を拝していたということだ。

 いつの間にこうも景観が変わったのだろう?
 それがここ、“西日暮里駅戸越銀座ロマンス新世界”にまつわる私の雑感だった。
 小さな疑問と好奇心から、寺参りの帰りしなにふと立ち寄り、これも精進落としのうちと暖簾をくぐり、風流を気取って梯子
と洒落込んだ挙句、そこそこに腹の虫も収まり、ほろ酔い気分に浸る頃合。思えば未だ宵の口ではないかと心持を新たに、今し
がた「無料案内所」を立ち去ったばかりのおり。
 右手に一枚のチラシを握り締めている。酒勢を借りての出来心か、ここにきて淫猥な地金が顔を覗かせたのか。私の赤曇った
目をひときわ悦ばせるもの。それは紙面中央に躍るいかにも面妖な屋号と、それとはおよそ対称的なまでに純潔を印象付ける少
女のバストアップ画像との、あり得ぬほどの鮮烈なコントラストなのだった。

 <制服キャバクラ☆護法少女ちゃんインパクト>
 <集えよキョー人! 火風会館3F>
 <明朗会計! 60分\10,000ポッキリ!>
 <MI世代がついに解禁! 当店人気No.1ギャル ソワカちゃん(写真1)>

 雑居ビルのエレベーター内。燻し銀の閉鎖空間に煮締めたような臙脂色の壁紙。接合面の捲れ。黒点のような焦げ跡。饐えた
微香を忍ばせる生暖かな空気。かかる場末の典型的風景に、この摺れた風体はさぞかし似つかわしいものだろう。
 清川虹男、齢四十二厄年。歯は脂色に染まり、腹肉も少々厚みを増してきた年頃。やらし恥ずかしなど何もない日々を爛れて
暮らす一介の中年。
 鞄に納めた過去帖になど書かれようのない、この男にまつわる恥ずべき真実だ。
 普段ならまともに取り合わないような考えだが…。たとえば、先ほどすれ違った青年達の瑞々しさについてだ。褐色の肌にい
ささかの斑も見られぬ。私は人間だ。あの生き物達もしかし、確かに人間だ。俺と同じ人間なのだ。なのに、まるで何もかもが
別物じゃないか。気ばかり若くしていたつもりが、いつの間にやら人生の中間地点を折り返し。かつては少しなりとも彼らに近
かっただろうこの身体も、いまはただ灯火に炙られて微妙に形を崩しだした蝋燭のごときものだ。

 そんな自嘲の念に浸り切る暇もなく、不意に筐体はがたつき、たちまち眼前の扉が左右に割れた。

 生病老死は人の定めという。しかし、俺にとって生も死も、もうひとつ遠いところにあるのではないか? 若さとは生の輝き
そのものだ。それは万事を能わせるかのようであり、ゆえに皆の羨望を引き寄せもする。また、老いは生の鏡だ。死の淵に近
づくほどに、むしろその者の辿った生の道程を照らし出すものとなる。ゆえに人は老人を、その不可逆的な衰弱を直視せざるを
得ない。俺はそのいずれからも今、一番遠いところにいる。だから…、
 「オソオセヨー!!」
 「え〜っ!? ここ日本人じゃないの〜!?」




                              −電奇梵唄会奉納ソワカちゃん雑文祭 参加作品−
                                         <清川虹男・人生勉強>




【1】山田モンゴル本日開店


 「え〜っ!? コンセプトそれなの〜!?」
 これは吃驚前代未聞。思わず小倉さんのナレーションよろしく素っ頓狂な声を張り上げてしまう自分。たぶん無意識に顔真似
もしてた。あと私もヅラです。そんな哀愁漂う四十路男の狼狽ぶりなどには…、まるで無視か! わらわら群がるこのチマチョ
ゴリ娘たちは! 制服だろ制服それどう考えても民族服だろーよーおいーと突っ込むことも叶わず、纏わりつかれ、腕を引かれ、
小倉さんの顔真似もそのままに、私の体は待合のカウンター席へと押し込まれてしまう。
 いい加減しつこいので小倉モードを止めにし、いささかの諦念とともにカウンターに肘をつく。すぐさま眼前にバーテン姿の
青年を認めた。青年? そう呼ぶにはいやに幼い面持ちだが…。

 「いらっしゃいませオヅラさん」
 「オヅラじゃねぇよ。そのネタもういいよ。大体…」
 そう。大体そのバーテンはヅラどころか、いっそ清々しいまでのマルコメちゃんだったのだ。人様を捕まえて何が禿だの頭山
だのと。
 とか何とか愚痴を募らせつつ、改めて彼の容貌に目をくれる。
 おや? これは何だろう? 前述したように、彼の頭部だけでもインパクトには事欠かない。だが、その風貌にはもうひとつ
変わったところがあるのだ。
 口元に何とも結滞なものを咥えている。
 ストローのようでも男岩鬼の爪楊枝のようでもある。途中から上向きに三本も枝分かれしているところが、このアイテムの物
珍しさを一層、際立たせてもいよう。
 「ご案内までこちらで少々お待ちください。何か飲み物をいかがですか?」
 「飲み物? ああ…水割りでいいよ」
 バーテンが、なぜかこちらの注文に物言いをつける。
 「いいですけど。うちはオリジナルカクテルが売りなんすよ。せっかくなんでそちらをどうぞ」
 メンドクセェナ。別にこんな店の酒なんか酔えりゃどうでもいいじゃねぇか。とこぼしつつ手渡されたメニューを眺め、オリ
ジナルカクテルの項目から目に留まった品名を告げる。

 「じゃーこの…、サットバレモン」
 「ブブーッ! うちはカルトの残党じゃありません。ぴゅー!」
 いきなりバーテンの加えた三つ枝から白い液体が噴出!
 なな何この流れをぶった切る展開!?
 さらに意外なことに、彼の目の前にはいつの間にやら黒い鉄板が敷かれていた。
 そこに液体が飛散。まもなく白い液はぷっくりと膨らみ始め、何か文字のような形を成してゆく。まるで無秩序に思えた模様
から、漢字の二字熟語のようなものが浮かび上がり、無理読みするとそこには『阿吽』の二文字が見て取れた。
 「どーですかお客さん!」
 「どうですかじゃねぇよなんだよテメェその訳ワカンネェリアクションはよ! メニューに書いてあんじゃんかよ! それか
ら粉モンで遊ぶな粉モンで! マサカドの怨霊によるとされる、あの18年前の大破壊後! 俺たちがいかに辛酸を舐めつくし
てきたことか知ってんのぁ? 空前の物資不足の中、わずかな小麦粉と野菜でどれだけお前らの腹を膨らませてやろうと苦心惨
憺していたか!? お好み焼きおやきグルテンガムもな、そうやって…!」
 はっ! 思わずお説教モードを発動し、史実にかこつけ“自分語り”を入れてしまった。いかんいかんこりゃあまったくロー
トルの悪い癖だ。物心つく頃には太平楽な時代を迎えていた世代を相手に、そんなことを問うて何になろう。寂しいことだが、
ここはひとつ仏の心で言葉を飲み込もうじゃあないか、ははは。
 「ま…、まあいい。あーそれより、いい加減のどが渇いたんだな」
 「私こそ失礼しました。お詫びの印と申してはナンですが、こんなのはいかが?」
 突き出された杯を傾ける。なにやらどろりとした口当たりだ。味は悪くない。
 「ハブ酒っていいます。ご存知ですか?」
 おつむにピコーン!と閃くものを覚えた。
 「うんハブ酒! 確かにハブ酒! これなら朕も知っておる!」
 改めて杯に口を寄せる。舌を転がせば口中にたちまち広がる甘い芳香。やがてじんわりと喉奥にまで染み入る滋味。嗚、何も
かもが懐かしい…。しばし酔夢に身を委ねてみれば、いつぞや行幸先の石垣島で邂逅した老ハブ取り名人のことが思い出されて
くるの。ほほほ。その赤黒い地肌は粗熱の落ちて暇ない玉鋼のように火照ることを已まず、遥か上古に阻く刻まれた石文もかく
やとばかりに深く皺寄せる。そんな面持ちの中にくちゃっと浮かぶ笑顔は、たまらなく印象的で忘れがたいものであったな。呑
めば呑むほどに、かくも愉しい記憶の残滓が今にもそう、瞼の裏に浮かんでくるようなので、ござい、ます。
 「ご存知でしたか!」
 「おおぞ!」
 「これぞ!」
 「甘露甘露!」
 「棋聖羽生善治名人の残り湯をとろとろに煮詰めてオーク樽に三年寝かせたプレミアムです!」

 羽生酒、胎内を逆流! そして発射!
 「ゴッパァァァーーーーーーーーーッ!」
 胸先を叩いてむせ返りを抑える仕草が、ゴリラのように元気いっぱい!
 「ゲホッゲホッ! こここんなもん出したらカルトさながらじゃねぇか! おばかちん!」
 バーテンが、にやけ面でトッポく返答する。
 「おきゃくさーんw そんな噴き出し方、まるきし僕の真似じゃないっすかー。だめですよ、今時分はパクリにうるさいご時
世なんすから」

 あの、なんですか? さっきから。
 そのクール・ヤングを装ったさまは?
 カッコいいじゃないですか。そうやって上から目線ですか。
 重ね重ねの無礼無体を罪もないこの私にさんざっぱら働いておいて。へーへーへー…。
 これは怒る。さすがに怒る。最近地元の日蓮系集団に自宅の台所まで踊り込まれたのにも増して腹立たしい!
 もはや是非もなし! 泣いて馬刺を食う! 俺は鬼に、今こそ鬼になろう!!!
 (解説しよう! 仏の顔も三度までと見切りをつけたその時から、はるか上空におわす天帝の詔命により、私は瞬間1ミリ秒
でかの霊峰泰山の破壊神、大惨殺汗毒餃子元君に変貌を遂げてしまうのだ! かしこみかしこみ!)
 「うおおおおおーーーーーーーん!!」
 地を割くような咆哮とともに、私の体躯は世にも超怖いものに変化していた。
 「中国から来たアルヨー! もっとモンゴリアーン!」
 「えーモンゴリアンってなによー。それ、中国と微妙に違うぽくないすか? パチモン?」
 「アホかボケおまえ、わしはモンゴルモンゴルでも内蒙古自治区出身じゃ! 西暦2008年現在、内蒙古族は紛れもなく
我が国55少数民族の一じゃ!」
 なんという大中華主義的発言! しかし、これこそは変身中の己の胸中に偽りなき愛国無罪の心情なのだ。
 そして右腕に手刀をかざし、いよいよ死刑執行の時が来た!
 「スンマセン! ホントスンマセン! ウチでは公開処刑なぞザラなんで! それでは殺らせてイタダキマス! インナーモ
ンゴリアンチョーップ!!」
 (※畏るべき魔神、その必殺の奥義が今こそ炸裂する!→http://joshinweb.jp/dp/4988007212700.html)
 
 畏るべき奥義、あつあつの鉄板上に堂々炸裂。どじゅー。
 
 「うおおおおおーーーーーーーん!!」
 これは泣く。大人でも泣く。ジンギスカン焼きのジューシィな匂いが食欲をそそります! これはもう、最近地元の日蓮系小
学生集団にケツバット&モモチで土塀の隅に追い込まれたのより悲しっ!
 「それはそうと…」
 「それどころじゃねー! あづあづあづあづーーーーー!」
 「お気に召しませんでしたか。先ほどのプレミアムは」
 いやもうこの子! もういやー!
 「召さぬ召さぬ! もう帰る父帰る! ソワカちゃんなんてもういい! 知らないっ! 知らないっ!」
 そう言い捨てながら、ぼろぼろと零れる涙を下ろしたてのひこにゃんTシャツ(ジュニアサイズ)の袖で懸命に拭いとる。だ
が…。

 どうしたことだ? ここで悲しむべきは、私一人ではなかったのか?
 それまで凛として営業スマイルを崩さなかったバーテンの顔に、やおら影が差し始めているようなのだ。
 ムチムチ・ショータイムの始まりだった。
 いやいや、ここは謳い文句とは裏腹に業態としてはいたって健全なコスキャバなのでそれはなかった(今考えた後付け設定)。
店内が暗くなったのではない。彼の表情から心理的な明るさが失せつつあるのだね!
 気勢を殺がれては止むなし。それに、邪気の抜けた相手を無闇に討ったところで、なまじ極楽への近道を易々と知らせてしま
うだけのことだろう。
 よって、ひとまず世を忍ぶ仮の姿に引き返してやろうかフハハハハ! ついでに今度はオプションで、驚愕する萩原流行の顔
真似も入れてみました。この間わずか0.5ミリ秒。うーんさすが「地頭がいい」と親戚の間で評判もちきりの僕ちゃんなのだ!
 先とは打って変わり、あえて優しく問いかけてみる。
 「のーしたのー?」
 「………」
 下向きになった枝。ぽたぽたと垂れた生地が、鉄板に『欝』の一字を書いている。
 「うん。何気ない一言が誰かを傷つけてしまうことって、あるよねー。いいよー。何でも話してごらーん」
 「父…パパは…、パパ和尚は帰りません…!」
 思い返せば、この些細なやり取りが全ての始まりだった。縁は異なものとは言う。だがしかし、世職ばかりか無駄口までをも
ルーティンワークとする私の言葉尻が、初対面の男児の知られざる過去を根こそぎ掘り返し、ひいては彼の養父の怪死にまつわ
る真相究明の行動を共にする契機となろうことなど、この時誰が知り得ただろうか。

 「おまっとさん!! 三番テーブルごあんなーい!」

 …というのが嘘であろうことなど、誰が知り得ただろうか。
 ボーイの呼び声を合図にふたたび群がるチョゴリ娘たち。えーちょっとなにそれーいまの話気になるんだけどーと突っ込むこ
とも叶わず、纏わりつかれ、肘つき腰掛けポーズのまま担がれ、萩原流行のまま私の体は三番テーブルに向けていま、飛び立つ!

 「ソワカちゃ〜ん!! いまいくよー!!」
 空中に弧を描く最中、カウンターの方からこんな呼びかけが、確かに聞こえたような気がした。

「あんた…、あの娘のなんなのさ?」


【2】与太郎戦隊かく戦えり


 江戸時代に流行った遊びに「投扇興」というものがある。扇を投げて台の上の的を落とし、その時の扇の格好や的との位置関
係によって役点をつける。ルールは至ってシンプルながら、複雑な物理的制約を受けて舞う扇の軌道はしばしば予想外の結果を
もたらし易い。そんなところが興を呼び、一種のお座敷芸として愛好されてきたのだろう。役名に百人一首の句などから引用さ
れた風雅な言葉を見立てとして用いていることも、このゲームの特長だ。たとえば扇が的に被さると「雲隠」、台に隠れて逆さ
に立つと「富士」などといった具合に呼ばれる。

 さて、今の状態の私にはどんな役名が相応しかろうか。

 「あーこれはライドアップですなー」
 全身は少し後に斜めった中腰姿勢。両足は揃って二脚のソファーの狭間にずっぽし。両腕はアホのように前方にだらりと伸び
た状態で拳を握る。まさに絶妙と言うほかない反自然的なポーズのまま、私はしばしそこに静止していた。
 「うーんこの角度からステアを一発でクリアできたらわわわわ」
 機転を利かせてノリツッコミに持ち込むことも出来ず、重心を崩してこけつまろびつ。強かに打ち付けた背中をさすりながら
体を起こし、向きを変えて心機一転。素に戻った私はさらに気持ちを転じて、自分の所作を自転車競技に見立てたボーイにすぐ
さま正当なる訴えを起こした。
 「エェから早よタレ遣さんけワレ何さらしとんド! おらんのケナンバーワン!? ナンバーワンワンじゃ!」
 「かしこまりました。当店のナンバーワンを直ちに召還いたしましょう」
 関口宏スペクター? 中途半端なホワイトメッシュが悪目立ちぎみな髪の色。そんな私的にはとてもイカさない風貌の男が
ノートパソコンを開き、こなれた手つきでキーを叩き出した。

 スタッフ専用の出入り口から、にわかに青紫色の焔が立ち、煙が吹き上がる。
 何故だか、トロンボーンによるファンファーレが天高く吹き鳴らされる。
 「三番テーブルお願いしマース!」
 「はーあーいー!!」
 と、しわ枯れた声が煙の中から聞こえてきたかと思うや、突如としてアジュンマとハルモニの中間的存在である者どもが颯爽
と登場! 長大な数珠の並びを両脇に抱え、文字通り数珠繋ぎに列を成して突進! ゴゴゴゴゴ!!
 「バババババババババ!?」
 隊列が私の前で円陣を組めば、場はすっかり侘びた風情に改まってしまったかのようになった。
(キャバレークラブ→お達者くらぶ)。 
 「何ヨこれ…、話が違うじゃないノ…。欽ちゃんのとこでふざけないでヨ…」
 「自分にちゃん付けプゲラッチョ! これこそ当店が誇るオールドワン! 法然上人一筋ウン十年の念仏シスター、人呼んで
『豊年ギャルズ』の面々にござりまするるる!」
 ボーイが勝ち誇ったかのように高らかにのたまう。
 何という、何という汚辱っ…! 心なしか彼の表情に鬼畜の相が浮かんでいるようも思えてしまう。
 …悪なり。人間の性、悪なり!!
 「いわゆる…、悪人なり!」
 豊年ギャルズ爆笑。
 「しかれども、自力の心を翻して、他力を頼み奉れば!」
 ギャルズ大爆笑’87。
 無駄だ。ここでは何を叫んでも無駄だ。こいつらの笑い屋風SEが被せられたら、どんな金言名言でさえ、その表現のエッジ
は悉くスポイルされてしまうことだろう。
(※悉く笑い事にしてしまう異議異端の妙技→http://portal.nifty.com/2006/12/14/a/)
 かくして攻勢はギャルズのターンに移り、悪夢の唱和が始まる。
 「あソーレッ!」
 
 ♪なーんーまいだー なんまいだー
                    ♪なーんーまいだー なんまいだー
        ♪なーんーまいだー なんまいだー
                           ♪なーんーまいだー なんまいだー
 ♪なーんーまいだー なんまいだー
 ♪はーなーしーがー ちーがーうー

 「ゆうたろこんボケナスァーーー!」
 「違います! いえ違いません!」
 「どっちじゃ!?」
 「よう見たってください! この群れとる中に一人だけホンマモンおりまっせ。ウォーリーを探せーみたいなモンですわ」
 こ奴にしては珍しく機転を利かせた喩え話のようだが、それでも直ちに合点がつかない。
 「ウォーリー…!? なんぞそれ…? わ、わかいひとには、ゆうめいなのかな?」
 「またまたー冗談はよし展ちゃんて…、あれご存じない?」
 「しんけんに…」
 「さよでっかー。ま、ウォーリー知らんでもゲームのルールは分かりますやろ。要は大勢の中から“仲間外れ”を見つければ
エエんですわ」
 「あーなるほどねー。そういうゲームなんだー」
 「分かってくれはったらOKですわ…」
 「はやくいってくんなきゃー」
 ボーイの表情が一転して和らぐ。
 「ささっお客さん! 説明はここまでや! あんじょうウチのナンバーワン子ちゃん! 救い出したってや!(肩ポン!)」


 …そうか! ウォーリーを探せか! ウォーリーを探す! ウォーリーを探すようにあの娘を捜す!
 さぁゲームの始まりです! どーこーだー! あちこちを目を凝らしてもだめだなー。そうか! 見方が悪い!いくら一点を
見つめたところで、そんなところに神は宿らないんだ!
 一歩二歩と後ずさりをし、改めて回転の全容を眺める。点を見るな! 流れを読め! 流れのうちにホンの一点、淀んだとこ
ろがあるはず!
 「…よし! 見切った!」
 すわっ! とばかりに地を蹴り、タイミングよく流線のなかに手を突っ込む。
 うーん確かな手応えだ! 重い!
 いいだろう! この虹男、かつては城北きっての太公望として勝美園辺りじゃちょいと鳴らした男よ! 3m級のバショウカ
ジキをカヤック単独で釣り上げた腕を以ってすれば、こんな引きなぞ児戯に等しい!
 (※世界を釣る兵どもの梁山泊・勝美園とは→http://nttbj.itp.ne.jp/0338986246/index.html)


 いくぜおりゃーーーーーー! と力任せに獲物をキャッチ!
 「ウフフッ! 捕まえた(はーと)」

 私が抱き寄せたのは、話に聞く本物のウォーリーさんのようだった。
 腕の中で照れくさそうに会釈をする、縞々シャツの優男。
 さて、私は彼といかに対峙するべきか? そんなこと考えるべきなんだろうか? ここは逡巡するまでもなく、機械的にリリ
ースですよね、分かります。
 ちょっと待ってぼく! 何やらスピンの様子がおかしいよ?
 おや? 徐々に加速をつけているではないか。おやおや? どんどん早くなっている!? おおお? おおおおおおー!?
 
 隊列を成す者どもの姿が徐々に肉眼では捉えられないほどになり、遂にはそこに一つの結合した円環を成す。
 それとともに、外周の空気がこの動きに連なり、渦巻く突風が出現!!
 轟々と唸りを上げ横殴りに吹き荒ぶハリケーン。もはや私も頭部の人口毛髪も、そこに居留まることが出来そうにない。ウォ
ーリーも辛そうだ。私も辛い。あ! ウォーリーが飛ばされた! 渦に巻き込まれるなり全身が粉々に! ウォーリー死んじゃ
った! 死んじゃったよウォーリー!
 徐々に踏ん張りが利かなくなりそうだ。親指が浮く。ついで四指が、踵が、床から剥離していく。
 「あー俺ももうだめだー!」
 まさに踏ん張りもここまでと観念を決めた刹那焼きそば! バゴーーーーーン!

 轟音とともに一気に風の勢いが収束した。すんでのところで私も足場を失わずにすんだ。どうやら助かったのだ。
 立ち込めた噴煙で視界が黒一色に染まり、そして徐々に晴れていく。
 いっそ、永遠に晴れなければよかったのかも知れない。
 そこに私は、あってはならないものを仰ぎ見てしまった。
 巨大な人面の塊。そう表現するより詮無い巨大な異形が、威容を誇るように鎮座していた。
 どうやら、先ほどまでオバちゃんとオバアちゃんの中間生物だったものたちは、さらに一歩形態を新たにしたようだ。元より
似たり寄ったりの群体であった彼女達は恐らく、文字通りここに身心一元と化した。何とも形容のつかぬ人外の姿が、その動か
ぬ事実を如実に示している。
 「あーこれはレギオンですなー」
 そう、かの聖書に記された伝説の邪神が、ついにこの世に再び立ち出でたのだ。
 「オレっちはヨー。ギャルズだヨー」
 一人称が単数形にして名乗りが複数形。まさしく! だが…!
 「だから何じゃコラ! これが酌を勧めるんケこれが!?」
 「………」
 「あ?」
 「えー…大丈夫です」
 「その“溜め”は何じゃワレ! 根拠あるんケコラ? 末路哀れは覚悟の前やド?」
 「…はい、お客様! ただ今入店されてから60分1秒を経過しました!」
 「あ?」


【3】よかいち呑んだらひゃーん!


 ボーイが先とは打って変わり、酷薄とした面持ちで状況を告げる。
 「すでに延長時間に入りましたので、前払いとしてあと一万円頂きます」
 「ああ?」
 「つ・ま・り、すでに二時間目なのです」
 「………」
 これほどの喧騒にも関せず歓談に沸く店内で、ひとり静かに私は泣いてた。淡々とした心持で頬を伝うものを感じ取っていた。

 私は今、嵌められた。制限時間ルールを悪用する相手の術中に、まんまと嵌められてしまった。
 だが、これほどの世の理不尽を前にしてさえ、気持ちは不思議なほどに落ち着き払っていた。
 「………」
 やがて我が壷中の奥底から、煮えたぎるような何かが昇ってくるのを覚えた。
 「…ぉぉぉ…」
 それは、私が流した涙の量にもとより伴うべき激情のたぎりに違いなかろう。
 そして、やがては土石流のように怒涛の勢いを上げ、ついに私が取る態度として表出するものだ!
 そうだ、向こうの勝手ルールなどもはやクソ食らえなのだ!
 「…ぉぉぉおおおおめめめめええええよよよよおおおお!!!!!」
 「ひゃーん!」
 「ひゃーんじゃねぇ!」
 このふざけた男の首根っこをつかんで耳にかぶりつき、全力でわめいてやる!
 「酒の一滴もすすらん! 女の湯気にもあたらん! 男・虹男に満ちるモイスチャーは己の泪ばかりじゃ! これ以上ビタ一
払えるモンなんかあるかいっ!」

 「テメっちよォ!」
 「?」
 途端、巨大な肉塊が物々しく口を開いた。
 「そんな屁理屈こねてんでねーヨ。(そーダ!)」
 何をか言わんや。
 「へ…、屁理屈じゃないでしょうこれは?」
 話の流れなどガン無視で、肉塊が続ける。
 「オレっちみんな持ちつ持たれつやってんダァ。(そーダ!) テメっちはいっつも菊蔵さんトコ嫁いだ妹に大事なコト任せ
っきりでヨォ。このメェのお施餓鬼だってサ。餅の一つもついてんのかヨ?(ヒソヒソヒソ)」
 「あの…、どこのおクニのしきたりの話をしとるんでしょうか?」
 「新盆の時だって提灯は掲げねェ! 線香もやらねェ!」
 それは全くの濡れ衣! にも関わらず、何やら真の事で非難されているかの様な気分になってくる。
 この化け物が得手とする、一種の心理攻撃なのだろう。
 「寄り合いにも全然ツラ寄こさねぇしナ。此間の台風で火の見櫓が倒れた時にゃヨ、そりゃあ部落総出で一所懸命、畦道から
鉄骨を避けたもんサ。そんな時でさえテメっちはどっかで油売ってやがって、(アラー!)指一本も貸しやがらねェ(ヒソヒソ
ヒソ)」
 「ちょwおまwww」
 あー、俺は…確かにそんな奴だった…ような気がする。
 「先一昨年もおトメさんの弔いでオレっちの講に声かけねぇでサ。(エェー?) ハイカラ気取って“お別れ会”とサきたも
んダ。(アラー!) ココにはココのやり方ってもんがあるベ。(ヒソヒソヒソ)」
 「もうやめて…w」
 「皆が言わねェからってイイ気になってんなら勝手にしろヨ。だけどな言っとくゾ? テメっち、そうやって世間様に後ろ足
で砂かけるような真似ばかりしとったらー」
 「やーめーてーもうー、やめてっ!」
 「生きてけんゾッ!」
 腹の底にズシリと響く、痛烈な脅し文句!
 さらに攻撃は続く。土俗的な同調圧力の凄みに耐えかね首をすくめる私に、この化け物は容赦なく全身で圧し掛かってきたの
だ!
 まるで予期せぬ奇襲! マウントポジションを取られ、ひとつも動くことが出来ない。それは私に屹立せる近代的個人として
の自意識を放棄させ、いわゆる“空気”が支配する村落共同体への帰順を促すためのことだろうか。
 「おおぉ犯されるっ!! あの娘に会う前に汚れちゃうよぉっ!! オモニーオモ二ーアイゴー!」

 「イヒヒ…、ウブなネンネじゃあるまいし…(ヒソヒソヒソ)」

 その時、肉壊の中からくぐもった声が聞こえた気がした。
 「…ココアルンバ…」
 それとともに、肉塊の皮膜をつき抜けた七色の閃光が燦々と輝く。
 「アリャマーーーーーーーーーーーーーーー!」
 終局はいとも呆気なく訪れた。この世ならぬ不気味な嬌声の多重奏とともに、肉壊に張り付いていた人面が一挙に剥がれ出す。
 四散するデスマスクは、それぞれ地に付くと同時に乾いた音を立て、鈍色の瓦礫と化していった。
 これまで我が身を苛めていた重圧も、すっかり消え失せた。
 仰向けになっていた体をゆっくりと起こし、辺りを伺う。
 破滅の後に訪れた、静謐な時間。
 しかし、それも永くは続かない。

ばき!

 床に散乱する瓦礫が音を立てた。

ばきばき!

 瓦礫を踏み鳴らす音が近づく。
 
 「あーあ、ついに自己解決できなかったか」
 チマチョゴリ姿のアガシが立っている。彼女が声の主だ。
 次いで、ボーイがのたまう。
 「ハイ三番テーブルさん! 今度こそお待っとさんでしたー!」
 まるで意味不明な展開ばかりだったが、やっとコンパニオンが私のもとに付いたようだ。

 彼女が私の隣に腰掛けた。
 さてどうしよう? いざとなるとアガってしまうのは、小学生時代からの宿業だな…。
 緊張の解けぬまま、何となしに異国の言葉が口を突く。 
 「あ、アニョハセヨー…」
 「日本語でおk。つーか、ウチラみんな日本人だから」
 「え? …ま、まーそりゃそうなんだろうけどさ…。この店は一応そういうコンセプトなんじゃないの?」
 「言っちゃ悪いけど、こんな店にリアルな要求しても。韓国語喋りたいんならお兄さんはそれでもいいよ。言葉分かんないけ
ど。何か取る?」
 「…あ、じゃあ山崎。ロックで」

 グラスを手にしたまま、何か気の利いた話題を振れぬものかと長考。いかん。まるでノーアイディアだ。
 ひとまず話の口火を切らねば。
 「きゅ、休日とか、どこら辺で遊ぶの?」
 「近いよ。このへんだけ。東京はよく分かんないし」
 「あ、上京して来てんだ…。何かやりたい事でもあるの?」
 「別に。親がすげー嫌で出てきただけ。…そんで始めはタレント事務所に登録したんだけどさ。仕事が碌に回って来なくて、
家賃が溜まっちゃって」
 …なんだか、お目当てのコと大分イメージが違うぞう。
 「だから、生活のためなら何でもやった。天狗麺の製麺ラインとか、対レストラン荒らしの用心棒とか、バイク便とかトラク
ターの試乗会キャンギャルとか。こういう仕事もね。なんか呑んでいい?」
 ほどなく、彼女用のモスコミュールがテーブルに置かれる。
 「漁業もやったことあるよ。珍しくないそれ?」
 「ぎょ!?」
 「密漁の夜だったね。あの時はホント悲惨だったー。オキロ漁協の船に乗りかけてオホーツク沖まで出たんだ。そしたらたち
まちロス家の警備艇に機銃掃討喰らうわ、船長以下アタシまで拿捕されるわ」
 「だ?」
 「ガチムチのコサック兵どもにまわされるわ、獄のマラコウは生臭くて吐きそうになるわ、いい加減イヤんなって脱走するわ、
逃亡中に樺太ユーラシア大陸が地続きでないことを偶然発見しちゃうわ」
 「…途中からかなり作ってね?」
 「自慢にもならない。もう散々の人生だねアタシ」
 そこまで言うと、ストローで三口分ほどのモスコを一気に吸い込んだ。
 なんで今日はこう変な話ばかり振られるんだ。また超展開の兆しなのか? いい加減に本懐を遂げぬと頭の電気蟹が騒ぐでは
ないか。
 そうだ、このままではイカン!
 意を決し、そろそろと尋ねてみる。 
 「…あのさ。君の名前、ソワカちゃんじゃない、よね?」
 「誰それ。あたし水と木の早番しか入ってないから他の子あんま知らないの。あたしの名前はね」
 差し出された名刺を見る。

 <毛玉肉団子>

 手元から見上げると、ビッグフットが友好的な笑みを浮かべながら我々人類とのコンタクトを図ってきていた。
 チョーパン一発で駆除した。
 「あたしのはこれ」
 
 <ジュワイオ・クチュール・カルセール・マキ/アシスタントアドバイザー京マチ子>

 いかにもフェイクと思しき肩書きと氏名だが、いずれにせよ分かった。やはり彼女は「ソワカちゃん」を名乗るコではないの
だ。まだ俺を誑かすか、あのボーイめ…。
 「あー分かった! パンフの子だよね! ソノコちゃん?」
 「ソノコじゃないって。ソワカ」
 「何か…こういっちゃ悪いけど、変な制服みたいの着てんの。キャハハ!」
 何だか、自分が小馬鹿にされているような気分だ。
 「お客さん、そういうのが好きなんだ?」
 「ま、まー男だし。嫌いじゃないかもなぁーははは」
 「違うな」
 「え?」
 「制服が好き? 違うな。制服だけじゃなくて、まるごとだ!」
 人を指して、彼女が断じた。
 「それはどういう…」
 問い返す間もなく、急に人の顔を座った目つきで覗き込む彼女。
 そして、息のかかる距離でこう問うてきた。

 「ぶっちゃけあんた…、あのコに惚れてるね?」

 え…? 何でそんなことを訊くか?
 「制服のあのコに会いたかった? 韓服のアタシじゃなくて?」
 「い、いやぁ! 君は君で…」
 一瞬、マチ子がとりすました表情を作った。
 あ、言い方マズったよな。
 「ま、いいや。少し待ってて」
 そう答えると、彼女は急にソファーから立ち上がり、早歩きで私の元から離れ出した。
 「ちょびっと私用でチベット修行しまーす!」
 なんだい、その珍妙な言い回しは? …ああ、何となく分かるわ。たぶんそれは、持ち場を一時的に離れることを意味するス
タッフの隠語なのだろうな。デパートだと眦膕なら「仁久」、三越なら「3の字」とかいうアレか。
 それにしても、さっきの問いかけが引っかかる。

 ソワカちゃんに“惚れている”…?

 浮気ではなくて、本気?

 そうなんだろうか、俺は?

 確かにこの店に入るきっかけを作ったのは、あのチラシの写真だった。殊更に純潔を印象付ける少女の絵姿が、インパクトを
与えてくれたには違いないのだ。しかし、生身の本人を前にした訳でもないんだせ? 自分で言うのも何だが、マリンちゃんの
胸元のラインに誘われる下手打ちのパチンカーみたいなもんじゃないのか、これは? だって、たかが一枚のピクチャーで…。
 今までの考えをまとめようにも、まとめないのとほぼ同じ。いくら頭を働かせたところで、所詮はアルコールでいささか混濁
した意識下でのことか。それとも、もっと根本的に思考のフレームを取り違えているのか。浮気と本気の両説を行ったり来たり
と、まるで止揚に至らぬままだ。

 しばらくして、お色直しからマチ子が戻る。
 「おまっちー」
 丈の短いセーラーの上下。髑髏のバックルベルト。オレンジのブリーチをかけた髪はアップの途中から毛先が左右に垂れて、
鳥の羽のような格好をしている。
 「お! いいねー」
 これは想定外! ソワカちゃんとはまた違った趣だが、それがまたよいではないか!
 微妙に重心を崩したポージングはどこかぎこちなく、何やら生まれたての小鹿がよれよれと立ち上がる様を見ているようだ。
 だが、見た目の華奢さやしぐさの拙さが返って、その薄皮一枚の裏に潜めた瑞々しい筋肉のしなりを透かし見せてくれている
ようでもある。
 まさしくそれは、人生のほんの一小節たる時期だけに持ち得る、いとも儚いただずまいであろう。
 「ふふん! 似合うでしょ!」
 「おー似合う似合う!」
 踊躍歓喜とはこのことか。思いがけず眼福を得たことで、何だかめでたい気分になってきたようだ。顔が紅潮してくるのは、
酒のせいばかりでもなかろうて。
 始めはちょっと無愛想な口ぶりだったが、いやいやなかなかどうして! 相手に慣れてくれば会話もこなれるものだ。ふふん!
だって。かーわいいじゃあないか!
 たまらず照れ隠しにおしぼりで顔を拭い始める。よーしよしよし! よーしよしよし! 今度はもっと曇りなき眼でその艶姿
を拝んでみようぢゃあないのよさ!
 ひとしきり表面の油をこし落とし、多幸感ですっかり緩みきっただろうそのマシラ顔を上げてみる。

 曇りなき眼に写るもの。それは女の子というよりIKKOさんなのだった。
 「温度計ー」


【4】奇人の仮寓


 池袋マニアックロリコンショー、そんな文言が脳裏をかすめた。
 全身に寒気が走る。肩の震えが止まらない。これは罠。罠なのだわ…。
 「罠じゃない」
 罠だろう。さすがに。
 「罠じゃないの。これがあたしの本来の姿。齢還暦を迎えてなお、今も昔も変わらぬご本尊様さ…。ほらとっとと拝みな!」
 「かかかかか、還暦…? コンパニオン! たるものの! 年齢が!?」
 あり得ない。普通コスキャバ的にそれだけはあり得ない。仮に百歩譲って、ジェンダー的な意味でだけ“女”というシチュを
許すとしても、アンド高齢? そんな条件まで認めちゃいられない。
 ともかく、今の一言で反駁の材料はもう十分、腹は減っても原一平だ。この機に思いのたけをぶちまけてやる!
 「どこが罠じゃねぇってんだよ! もういい! ソワカちゃんなんて娘は、ここにはいなかった。それでいい! 何だよあの
チラシの写真はよ! 大方俺みたいなのを釣るためのでっち上げだろう? 振り替え上等のイカサマ稼業だろう! ふーんだ!
そんなのくやしくないよ〜!」
 「おい!」
 急に野太い声をかけられ、不覚にも身をすくめてしまう。虚飾を捨て去ったまる出しの男声。まるでジェンダーファクターの
パラメータが、突如キーボートの上を横切ったぬこの蹴り足によって大きく振り切ってしまったかのようだ。
 「酸っぱい葡萄の方程式とは見下げたもんだねやずやの香醋! そうやって箱いっぱいの葡萄をどんどんバルサミコみたくし
ちまうのかい?」
 「な、なんだそりゃ…、バルサ」
 こちらの二の句を遮って言い寄る偽IKKOさん。
 「いきなり核心に触れてやるよ。いいかい。あんた自分に倦んでるだろう? 何かを持て余して仕方がないんだろう? 分か
っちまうんだよ、アタシにはね」
 「持て余すって何を? …笑わせんな。こちとら生きてて碌なモンを得た覚えもありゃしねぇってのによ」
 「だからこそ、じゃないのかい? いいか。かつてアンタは若かった。スタミナの有り余る時期があった。そのときガチで何
かに打ち込んでいりゃ、今頃こんなところでフテたりしちゃいねえってのさ」
 「だっ…、だから何だってんだ! あの頃は生活でめいいっぱいで…」
 「また過去の美化かい? 大げさにもほどがあるね。 食料物資なら売名目当てのドグガがバラ撒いたカロメドクペで十分
に補填された。最低限のライフライン復旧なんか数年で済んでたし、居住区の生活水準はたちまち回復した。お前はその頃、パ
ッポンストリートで日々悶々と自堕落に過ごしていたんじゃなかったのかい、エエ!? 災禍を免れたアンタは復旧の完了を悠
々と見計らって帰国。その後、たまたま見つけた無人家屋に転がり込んで、すっかり住人面を決め込んでいたんだよな。その上、
詐病被災者手当てまでせしめちゃってさ」
 「…! なんで知ってるの?」
 「しかもさ。近頃は死んだ親父の遺産も少しは懐に転がり込んだばかり。そんな結構なご身分に、どれほどの苦労が圧し掛か
っていたっていうのさ」
 だから、何でそんなことを知っているかと問うているのだ!
 「時にアンタ、宗教どこさ?」
 「いきなりなにおゆー!? 大人の社交場で政治とその手の話はタブーと知っての…」
 「真宗じゃないのかい? 清川さん」
 あなたはガンですガーン! 何故! なぜだ!? 立て続けに私の身上をネタバレしまくるこいつは何者なんだ!?
 「その様子だとやっぱりだね。大事なもん落としてるよ」
 そう言われて手渡されたもの。
 それは鞄に納めてあるはずの過去帖だった。
 「え!?」
 虚を突かれ、呆気に取られる私の手から、蛇腹状の折本が表紙側から崩れた。
 パタパタと開いて片側に落ちた帖面。
 そこには先祖から亡き父に至る各々の法名に続けて、いつの間にやら私の出生から今日までの経歴が、芥子粒ほどの微細な字
でびっちりと記されている。
 「なぜ、なぜなんだ!? …さっき、寺参りの時に住職から返してもらった…。よく見てなかったから…。こんなこと、なん
で…」
 「知るかよ。でも、きっとそれは罰だね。誰かがアンタに下した罰なのさ」
 「………」

 「個人情報を勝手に覗き見ちゃって悪かったね。侘びと言っちゃ何だけど、この際アタシのことも教えちゃうよ」
 「アタシのママはね。アタシが物心つく前にこの世から消え去ってしまっていたの。パパはアタシに家督を継がせたくて、幼
いころから殊更厳しく当たってくれた。まるで世襲は嫡男の宿命と言わんばかりに」
 「そんなパパの期待に、アタシも応えようとしていた。と言うより、特に疑問もなく従っていたのかな」
 「アタシの心根には昔から“ちょいワル娘”がいてね。でも、アタシはそんな自分の中の自分をいい加減にしていた。だって、
思春期のころに“彼女”を解放する手立てなんて想像もできなかったし、第一そんなもの、世継ぎの努めにゃ関係なかったから。
男子校にもフツーに詰襟着て行ってたし」
 「そんなアタシが自分を取り戻せたのはほんの…、偶然じゃない。そうなる運命だった。運命が私を招き寄せたの」
 「あれはアタシのマイ・レボリューション。もうホンット! 頭がパーン! って弾け飛んじゃいそうな衝撃を受けたの。
POISONなこの世界で唯一つ信じられること。それが分かったのよ。実を言えば頭だけじゃなくて…、おっと! これはま
だ言わぬが花ね。いずれ分かるわ」
 こんな調子でひとしきりまくし立てると、今度は八つ折に畳まれた紙を手渡してきた。
 広げてみると、そこにはよく見た風な版が刷り込まれている。
 「こ、これはっ…!」
 これは…!
 「いぃ一体っ! どういうことなんだ…!!」
 それは、一瞥だけで私を驚愕させるに余りあるものだった。
 「というわけで…、ちょびっと私用でヴィパッサナってきまーす!」
 またもや隠語。
 「さ、行くわよ!」
 チラシを凝視ししたまま固まっている私の状態などまるで顧慮せず、ぐいっとこちらの腕を引き、素早く席を立ち、スタッフ
ルームへ向けて走り出す偽IKKOさん。
 私は彼女(?)のそんな様を、座ったまま呆然と見送っていた。
 したがって、自分の腕は彼女との距離分だけ異常に伸び続けていた。
 そんなわけもなく、私の体は彼女と共にスタッフルームの中にすっ飛んでいたのだった。
 残されたのは、一口もつけてないウィスキーグラス。氷水と分離状態で沈殿するモスコのグラス。
 そして、さきほど私の手から離れた、よれよれの古びたチラシ。
 そこには、こんな文言が踊っていたのだ。


 <制服キャバクラ☆精神的迷子ちゃんインパクト>
 <集えよキョー人! 火風会館3F>
 <明朗会計! 60分\100ポッキリ!>
 <敬虔なミゲルも思わず棄教!? 当店人気No.1ギャル グレテルちゃん(写真1)>


 客室の裏側は、こんな間取りになっていたのか。
 壁の左右両側からロッカー棚に挟まれた、わずか三畳ほどの細長い床スペース。その突き当たりには、申し訳程度に鏡台が設
えてある。私と彼女はこの鏡台に向いて、二人羽織のような体勢で折り重っていた。
 私に背後から被さるIKKOが、噛んで含めるように一節一節、言葉を紡いでくれる。
 
 「18年前ね。アタシが目覚めるきっかけをくれたのは、やっぱりこの店だったの。そこに本来の自分の絵姿があったから。
そして『世界は拓けた』。覚えてるわよね? あの大破壊を。みんな当たり前のようにMIと、マサカド・インパクトと呼んで
いるわ。でも、その裏に隠された真の意味を知らない」
 まさか…。
 「もう分かるでしょう、アンタにはさ」
 
 "Mental stray child Impact"
 まさか…本当にそうなのか…。

 胸中の言葉に、鏡写しの彼女が莞爾として答えた。
 「ここから先は、自分で考えなさい」

 彼女のこなれた手の動きは弛まず私に変化を与え続けている。多少なりとも外見が人の内面をも規定してしまうのだとしたら、
すでに私は私ではなくなりつつあるのかも知れぬ。いや、むしろこれまでの私こそ、本当の意味で私ではなかった。この半生こ
そは、仮のものに過ぎなかったのだ。
 ひこにゃんTシャツはもう肌身にしていない。きっとこれからも。
 今思うこと。それは、一つにこれまでの半生への反省。(♪駄洒落ー)すなわち、臆病な自尊心と尊大な羞恥心に挟まれ、道
半ばまで自縄自縛に陥っていた我が身についてのこと。
 もう一つに、そんな自分を開放する三つのキーメッセージを巡る考察。その存在を確信したからこそ、本日私がこの場に現れ
たことについて、それも故あっての事と思い至ったのだ。
 すなわち、初めの自問については、

 ほんの気まぐれ→×
 何か察するところ→▲
 虚空蔵からのメッセージ→いわば○

という解答が与えられる。

 本題に入ろう。実はこの店内に入ったときから、何か「臭いな」と思ってはいた。(♪におってー)むべなるかな。私には、
誰からともなく一種の“ほのめかし”がなされていたのだから。その手口は、実に周到なものだった。(♪ゆんゆんー)店員に
扮した工作員どもは、私をからかう素振りの中で、自然に口を突いたかのようにそれらを発していたのだ。
 そのうち、主だったものがこれらだ。

 1「あんた…、あの娘のなんなのさ?」(バーテン)
 2「ウブなネンネじゃあるまいし…」(化け物?)
 3「あんた…、あの娘に惚れてるね?」(マチ子=偽IKKOさん)
 
 平常の思考で捉えれば、何が何だかだ。
 だが、全てが私の認識を推し進める“テクスト”であると捉えれば、これほど腑に落ちるものはない。
 いいだろう。順を追って読み解く!
 まず一つ目のメッセージ。

 >「あんた…、あの娘のなんなのさ?」

 私はそもそも、あの娘の何者でもなかったわけだ。何しろ、往来でチラシを手にするまで、娘の名も何も、一つとして知らか
ったくらいなのだから。
 チラシを手にしたとき、私はそのバストアップ写真に釘付けにされた。それは酒勢を借りての出来心でも、淫猥な性癖ゆえの
ことでもなかった。ただ、矢も盾もたまらず惹かれた。だから、私があの娘の何かと問われれば、「あの娘に惹かれるもの」と
しか答えようがない。(♪ぐろーぶー)いや、まさにそうなのだ! 私にとって彼女の姿は、私自身が持つ何かしらの理想を表
したもの、いや、あるべきそのものと言ってさえいい!


ぱりん!


 二つ目のメッセージ。

 >「ウブなネンネじゃあるまいし…」

 それがどうしたというのだ。私には無条件で求めるべき理想があるだけだ。ウブもへちまもあるものか。実際のところ俺なん
ぞ、正直やや毛色は違っちゃいるが(♪うぃっぐー)、基本はすれっからしのオヤジだ。それでも純情の一片くらいは持ち合わ
せている。それは否定されるべきものか? いやいや、そもそも他人に是非を仰ぐような筋合いのことではない。そこに愛しむ
べき価値を少しでも自認できるのであれば、その(♪りぼんー)全てを包み込むように一人、愛しむべきなのさ。


ぱりりん!


 そしてそれはつまるところ…。

 >「あんた…、あの娘に惚れてるね?」

 己そのものを認め、愛しむということに他ならない。そうさ! 私は何よりも、何かに惚れてみせる自分に惚れていたのだ!
(♪ねくたいぃーん) 対象そのものが問題なのではなかったのだ。対象を解釈を通じて所有し、己が血肉とすること。(♪い
けぬいーっ、くめーるるーじゅまーじっ)その達成とともに訪れる充溢感のうちに、私の生も死も、瞬間も永遠も、全てはある
のだ!


ぱりぱりぱりんっ!


 そうだ!
 清川虹男! 齢四十二厄年! 身の丈五尺三寸! 目方十七貫五斤! 心身共に極めて健康!
 我、この期に及んでついに目覚める! すなわち。
(♪できあがりー)

 最後の紅の一筋が引かれるやいなや、すっくと背を立ちあげ踵を返した。IKKOを構わず蹴倒し、その余勢で狭い通路を、
一気呵成に駆け抜ける。
 紅蓮に染め抜かれた暗幕を両手で押し広げれば、そこに見えるのは先ほどの客室。
 すぐ左脇には、マイクスタンドの突き立つ半月形のステージ。直ちに壇上に上がる。
 スポットライトの光は、私の背後から朝焼けのように筋を伸ばし周囲を照らす。
 仁王立ちする女装コスプレ男の晴れ姿に、衆目がかつてなく注がれる。
 祝福の時間の始まりの中、スタンドのマイクを両手で掴み上げ、この城北の超人は宣言する!

「俺が! ソワカだ!!」

 マイクに思えたそれは、一種の法具であった。



あーたーまーがーぐわらっしゃーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!










             ―――かくして、今度は世界の中で西日暮里だけが空虚に帰した。


                           <完>                           

うっっっほっほっっ!うっっっほっほっっ! 2009/07/02 23:46
あーんもーーーチン子大爆発しちゃうよ!!!!!!
軽く呼びかけるだけで即 ハ メ出来るようになってから仕事中ムラムラしすぎて我慢出来ないんだよね(´;ω;`)
てかよく考えたら金には困んねーんだから仕事辞めりゃいいんかwww

http://tf0H7DV.zebu.iphone5.net/

とりあえず生で!!!!!!!とりあえず生で!!!!!!! 2009/07/29 21:55
生挿入はムリって女の子でも「とりあえず生で」って言ってみたらウケて簡単に生で挿れさせてくれるなwwwwww
挿れてしまいさえすれば中出汁も余裕だし言ってみる価値ありすぎだろ?
まぁここの女は言わなくても100%生おkだけどwwwwwwwwww

http://netoge.bolar.net/O8cfTVq/

これはいい使い捨てwwwwwこれはいい使い捨てwwwww 2009/08/09 14:28
ナニコレwwww アフォほど女溢れてるんだがwwwwwwww
毎日毎日セクゥス三昧でもうティムポ一本じゃ足りないっすwwwwwwww
良いマヌコはキープするけど、基本はヤリ捨てでおkwwwwwwwwwww

http://ene.creampie2.net/n3zX46O/

じゃぶぁー!!!!じゃぶぁー!!!! 2009/08/13 02:06
やっぱコスしてもらってハ メ るのが一番萌えに燃えるって!!!!!!
昨日はエ○ァの新キャラコスしてもらったもんねー(*´Д`)ハァハァ
興 奮しすぎて無意識に服着せたままパ ン ツ ビリビリに破いてバック突きしまくっちゃったwwww(テヘw)
既に次はハ○ヒで決定してるしwktkが止まらんねぇぇぇwwwwwwwwww

http://kachi.strowcrue.net/TARAcpO/

よーちよちよちよち!!!!よーちよちよちよち!!!! 2009/08/25 06:42
最近ここの女におしゃぶり咥えさせてガラガラ持たせて
パッコンパッコンしてやったんだが、反応がハンパネェっすwwwwwwww

「気持ちいいですぅーん!!はあっぁぁああ!!!」

こんな萌えボイスで叫ばれたら余計に興 奮するっての!!!!!!

仕方ないからずぶずぶ奥まで挿れてあげたら
ずっと潮ピュルーって飛ばして痙攣しまくりー(・∀・)ぐっふふ

http://okane.d-viking.com/uCaW3V6/

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