年金の公開草案の研究(1)
今回も前回に引き続き3月31日に公開された年金会計に関する公開草案「Employer's Accounting for Defined Benefit Pension and Other Postretirement Plans—an amendment of FASB Statements No. 87, 88, 106, and 132(R)」を取り扱う。公開草案は以下のサイトで入手することができる。
http://www.fasb.org/draft/index.shtml
前回は要約(Summary)を読んだだけだったが、今回は本文も読んだので、各パラグラフごとに理解した内容を纏めていこうと思う。ただし、非営利企業(Not-for-Profit Organizations)に関する規定については無視した。
目的
1項から3項までは、もっともらしい目的が書いてあるが、意味ないので省略。
確定給付退職後制度の積立状況のビジネス事業体による認識
4項a
制度資産の時価と給付債務の差額によって測定された積立超過(overfunded)または積立不足(underfunded)はBS認識すること。
4項b
積立超過の制度を集計し資産計上し、積立不足の制度を集計して負債計上すること。BSに流動固定の区分がある場合は、流動固定分類すること。
4項c
未認識数理差異および未認識過去勤務債務は、税効果控除後の金額でその他の包括利益(OCI)として認識すること。その後の会計期間では、それらが認識または償却され純年金費用の一部として認識されるにつれて、OCIの調整をすること。
4項d
SFAS 87の当初適用時の移行時差額が残っている場合は、未処分利益の開始残高の調整として認識すること。その後の会計期間では、その金額は純年金費用の一部としては認識されない。
4項e
上記に関しては、SFAS 109「法人所得税の会計処理」を適用すること。
測定日
開示
以下の3つの項目を開示しなければならない。
6項a
PLが開示される期間について、①OCIに計上された金額(=当期新たに発生した未認識金額)②OCIの調整額(=未認識金額の償却としてPLで実現した額)
何も書いてないってことは、税前だと思うが…
6項b
BSが開示される期間について、AOCI(その他包括利益累計額)に含まれる未認識数理差異と未認識過去勤務債務。
連結子会社に少数株主がいる場合は、少数株主に割り当てられる金額を控除した額になるのだろうか。それとも、控除前なのだろうか。これは、まだ、解釈が分からない。
6項c
AOCIに含まれる未認識数理差異および未認識過去勤務債務のうち翌期にPLで実現すると見積もられる金額。
これは、キャッシュ・フロー・ヘッジでOCI認識される金額についても同じような開示があるので、おそらくそれと同じ趣旨だろう。
適用日
適用日は、BS認識・開示の規定と測定日の規定で異なっている。また、測定日の適用日については、公開企業と非公開企業で異なっている。非公開企業については割愛する。
BS認識と開示
15項
全ての企業について、BS認識と開示の規定は、2006年12月16日以降に終了する会計年度に適用される。16項に規定されるような実務的に困難な場合を除き、SFAS 154に従って遡及適用しなければならない。遡及適用は、以下のようにする必要がある。
15項a
すべてのPLを開示している期間について、税効果考慮後の金額で数理差異および過去勤務債務をOCIとして認識しなければならない。
数理差異および過去勤務差異は発生した期に一括して、その他包括損益として認識しなければならないということだ。包括利益の段階では、年金の未認識残高は1円もないことになる。
15項b
開示されている最初の期首に存在する未認識数理差異および未認識過去勤務債務の金額は、税効果考慮後の金額でAOCIの期首残高の調整として認識しなければならない。
15項c
開示されている最初の期首に存在するSFAS 87適用時の移行時差額の金額は、税効果考慮後の金額で未処分利益の期首残高の調整として認識しなければならない。その後の期間においては移行時差額の償却は認識してはならず、従来、償却していた金額は除かなければならない。ただし、棚卸資産残高との調整は考慮する必要はない。
移行時差額が残っている会社は、遡及することで過年度の損益が変ってしまう。製造業において年金費用は製造原価に含まれるため、製造原価を通じて棚卸資産に計上されることもあるが、それについては考慮する必要はないと少し免除してくれている。これは、ストックオプションの遡及でも、同じような規定があったと思われる。
16項
実務的に困難な場合は遡及適用しなくてよい。ただし、過年度の繰延税金資産の回収可能性の評価ができない場合に限る。この場合、開示されている途中の期から適用できる場合は、そのようにする。
実務的には繰延税金資産の評価もそうだが、連結子会社に少数株主がいる場合、子会社で発生したOCIを少数株主に配分しなければならず、そのせいで遡及作業はかなり手間のかかるものになるはずだ。そのような、事務的煩雑さについては、公開草案では全く触れられていない。
17項
全ての制度に同じ遡及方法を適用すること。また、SFAS 154 パラグラフ 17で求められる会計方針の変更の開示を行うこと。
測定日
測定日については公開企業と非公開企業の適用日が異なっているが、ここでは公開企業のみを掲載する。
18項
2006年12月16日以降開始する会計年度から適用し、遡及適用はしない。
19項
従来、期末日と異なる測定日を使用していた公開企業の場合、2006年12月16日以降に開始する会計年度の純年金費用は、直前の会計年度の期末に対応する測定日を使用して決定しなければならない。
例えば、従来、12月末を測定日としていた3月決算の企業の場合、2007年4月から始まる会計年度の純年金費用は、2006年12月31日〜2008年3月31日が対象期間となるので、15ヵ月分になってしまうということだろうか。これについては、次の項が関連したことを述べている。
20項
直前の会計年度の測定日と2006年12月16日以降に始まる会計年度の期首の間の純年金費用(ただし清算と縮小に関する損益を除く)は、税効果考慮後の金額で未処分利益の期首残高の調整として認識する。直前の会計期間の最後の四半期に生じた清算または縮小の損益の影響は、その期間の損益として認識し、未処分利益の調整とはしない。
19項で、15ヵ月分計算されてしまうということを書いたが、最初の3ヶ月に対応する純年金費用は未処分利益の調整額として認識されるため、PLは通らないようだ。ただし、その3ヶ月間に清算または縮小が生じた場合は、その四半期、つまりは新基準適用前の期間の損益として認識するようだ。このあたりの規定の解釈は難しいが、これであっているのだろうか…
とりあえず、ざっと読んだ段階で纏めたので間違っているかもしれないが、次はAppendix Aの適用ガイダンスを読んで研究したいと思う。