ふぇるまーた2

かたよらず、こだわらず、とらわれず。好奇心のおもむくままにどこまでも。

[本]「まほろ駅前多田便利軒」

 昨年は、あまりにも某ライブにはまりすぎて、本をあまり読めませんでした。そればかりか読んだ本の感想もあまり書きませんでした。もちろん今年だってライブには行ける限り何度でも行きたいですが(笑)、今年は本をたくさん読み、できればちゃんと感想を書きたいなあと思います。とりあえず、まだ1月半ばなので、宣言だけはしておこうかな(笑) 
 さて、もったいなくて、わざとゆっくり読んでいた本をとうとう読み終えてしまいました。先週の日記で思わせぶりに書いたあの本です。八助さん、読み終わりましたよ〜!
 とっても寂しい気持ちです。登場人物をみんな好きになりすぎてしまって、なんだかお別れするのが哀しい気持ちになっています。三浦しをんさんのエッセイは読んだことがありましたが、小説を読むのは初めて。結果滅茶苦茶はまってしまったので、もし彼女の作品をよくご存知の方がいらしたら、ぜひ、お勧めの著作を教えていただきたいです。

まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前多田便利軒

 この本の最も素敵なところは、登場人物がちょっとした端役に至るまで魅力的なところです。主人公の男性ふたりはもちろん、ぼけたおばあちゃんも、チンピラも、アダルティーな商売をしているルルとハイシーも、可愛げのない小学生も高校生女子も、みんなキャラクターが強烈でユニークなのに、気がつけば大好きになっていて、応援さえしてしまいます。
 主人公のふたりはというと、便利屋を営んでいるわけありバツ一の多田くんと、そこに転がり込んで来る高校の同級生で奇想天外、破天荒、謎めいていて仕事の役にはちっともたたないけれど、なぜか憎めない男、これまたバツ一の行天くんです。
 便利屋さんを舞台にしているので、お仕事で知り合った人たちとのやりとりが随所に出てきます。主人公たちはどうみても「人好き」とは思えないふたり組ですが、気がつけば好むと好まざるによらず、いろんな人の日常に巻き込まれて行きます。あれやこれやと心を悩まされながら、いろんな人とつながって行くのです。
 特に多田くんは、最初の方で人に必要以上に近づかないように気をつけている感じがあって、どこか事情があるんだろうなと思わされるのですが、行天くんと共に動き出してから、少しずつ変わって行きます。
 彼らを中心に、不器用に、でも温かくつながっていく人たちを見ていると、大げさに言えばなんとなく日本の再生のヒントがあるような気さえしてきます。「最初はためらってしまうけれど、他人と関わりながら生きていくことをあきらめちゃだめだよ。他人と関わることで面倒なこともたくさんあるけれど、楽しいこともいっぱいあるよ」という筆者のメッセージが伝わってくるような気がします。
 主人公のふたりは、お互いに傷を持っていることを感じながら、その傷に直接触れたりせず、こっそり心配したり、こっそり盗み見たりしながら、ちょっと近づいてはちょっと離れ、微妙な距離を取りつつ物語が動いていきます。多田くんは行天くんに高校時代から引きずっているある重大な負い目を感じており、行天くんの方も、ひょうひょうと転がりこみ、傍若無人に振舞っているようで、実は人には言えない様々な事情や痛みがあるのです。
 2人は共通の問題にぶち当たりつつ、少しずつ距離を縮め、友情という形へと向かって行くのですが、その着かず離れずの距離感が絶妙で、かえって好感を持ちました。
 帯に

幸福は再生する。形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだー

と書いてあり、読み終わってからしみじみこの帯を見直したら、まったくそのとおりだと思いました。また、

誰かにに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ

という行天くんの台詞もとっても印象に残りました。
 前にこの本についてちらっと書いた時にも引用しましたが、余韻の残る台詞がいくつもいくつもあって、思わず書きとめたくなったり、考え込んだり・・・そんなところも良かったです。
 とってもステキなエピソードはたくさんあるのですが、たとえば娼婦のハイシーとルルちゃんが、主人公たちを通じてチワワを譲ってもらった小学生に対面し、もてなすシーンは心温まるエピソードです。
 全く環境も何もかもが違いすぎて接点のない小学生の女の子をもてなすために、ど派手なおねえさんふたりは、一生懸命考えて、1時間半も歩いて市が誇るおいしいアイスクリームを買いに行きます。
 行きは節約のために朝から1時間半もかけて歩いて行ったのに、帰りはアイスが溶けてはいけないと、バスに乗って大事に持って帰るのです。
 その苦心して手に入れたアイスを食べてとっても打ち解ける小学生と化粧の濃い自称コロンビア人の娼婦のルルとハイシー。新旧の飼い主さんに囲まれて大はしゃぎのチワワ。そして、全く場違いそうで、その場にしっくり溶け込んでしまう、主人公のひとり、不思議ムード全開の行天くん。
 そんなふたりとおかしくもやさしい登場人物たちの織り成す物語は、カッコ良過ぎず、熱すぎず、ちょうどいい冷め具合で・・・とにかくとにかく、わたしはとっても好きな物語でした。
 この物語の核にあるのは、「まほろ市」という東京のはずれという設定の架空の町。行天くんと多田くんが育った町でもあり、便利屋さんの網羅している仕事場の範囲でもあり、個性的な人たちが織り成す物語はすべてこの町の中の出来事なのですが、なんとなく町に対する愛着まで沸いてくるから不思議です。
 続編があるといいなぁと切実に思いつつ読み終わりました。下村富美さんのイラストが章ごとに載せられているのですが、これがまた素敵!主人公のふたりがとってもいいオトコたちに描かれていて、三浦しをんさんワールドを引き立てている気がします。
 さて、ここからはKinKiファン的戯言で、本の感想とは逸脱した文章も含みますので、本の感想を求めて来られた方はここまでです。
 八助さんが、コメント欄でもおっしゃっていたように、この本の作者の三浦しをんさんは、以前、実はつよしさんの詩について言及されていたことがありました。その後、あさのあつこさんのご本の中でおふたりで対談された時にも、つよしさんの話題で盛り上がったということが本の編集後記に書かれていました。
 そのことはすっかり忘れて直木賞受賞作品というところに食いついてこの本を読んだわけですが、読み終わってからそのことに思いを馳せ、この物語をKinKiで映像化したら・・・なんてことを珍しく思ったりしたのです。
 実はわたし、別にKinKi Kidsふたりの共演を熱烈に求めているわけではないのですが(ひとりずつでも十分楽しめるし、変に比べたりどっちがどうだとか言いたくないので)、このお話であれば、彼らがふたりで演じてもステキかも・・・と思いました。
 なんとなくふたりの間の距離感とか、お話の展開を見て、KinKiのふたりがこの物語を演じるのを見てみたいと思ったのです。恋愛が出てくるわけでもなく、ふたりは無二の親友同士という訳でもないのですが、なんとなくその距離感が独特で、KinKi Kidsのふたりの距離感とも似ていると感じたのです。 もちろんファンの戯言ですけれど・・・
 行天くん役と多田くん役。どっちがどっちを演じても面白いような気がします。スパスパたばこを吸いまくり、なんとなく危ない仕事に巻き込まれる様は、わたしがコウイチさん関係で一番好きだったドラマ「天街」を彷彿させる感じもあって、余計にそんなことを思ったのかも。