少女と獣

「私が食べる? お前を? よしてくれ。高貴な獣たる私が、なんで下賤で醜い人間の肉など食べねばならんのだ」
「……じゃあ、あなたは何を食べるの?」
「ふむ、そうだな。たとえば、それは雲のようで雲でなく、綿花のようで綿花でない、後味は喩えようもないほど甘美で麗しく」
「綿菓子かよ」
「あとはそうだな。スポンジに生クリームが乗ったものも好きだな」
「うわ子供舌だ」


目の前の翼を持った獣には確かな知性がそなわっていた。
ありえない事態に、しかし疑問をさしはさむものは誰一人としていない。あるいは今は無きグレンデルヒ・ライニンサルならば、自分を討ち滅ぼした最速の鳥獣がかようにしゃらくさい思考なぞを保有しているにもかかわらず単純極まる突撃で自分を倒せたという事実に驚愕するやもしれぬ。
だがしかし、

「えーと助けてくださいお願いします。具体的にはこの鎖をチョンと」
「なぜ私が卑小な人間などの懇願を聞かねばなら」
「助けてくれたらケーキでも何でも作りますから。」
「分かった」
 分かるのはえーよ。ほんとにお前はガキか。そう少女はつっこみかけたけど、まあ、助けてもらえるということだし、このつっこみは貸しだぜ、と心の中でそう思うにとどめておくことにした。
まあつまるところそういうわけで、その獣は知性はあるもののひどく幼く、純粋なそれしか持って居なかったわけだ。
単純にして純粋。それゆえに混じりけの無い、愚直な思考。
世界の頂で銃声を吹く鳥、撃鉄の本質は、いかなる世界でも変わらない。
ただ単純な事実として、撃鉄は強かった。

そして、開始早々に何者かに捉えられ捕縛された参加者のひとり、女魔術師ザリスは、リサーチ不足から相手が今しがた優勝候補のグレンデルヒを撃滅した当人であると知らずに行動を共にすることになる。

ここに、最強と最弱のタッグが誕生したのだ。
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