ぶんかけいのひびのきろく

2015-02-03

山田詠美 「風味絶佳」

鬼のように久方ぶりの更新。
皆さんお元気でいらっしゃいましたか。わたしはすこぶる元気でした。

あいも変わらずだらだらと本とか映画とか音楽を手にしては穏やかに生かされている毎日。
久しぶりですが、何の前触れもなく本の感想を書き連ねたいと思います。



山田詠美「風味絶佳」を読んだのはもう8年くらい前(!)、ちょうど「シュガーアンドスパイス」として映画化されたとき。
あの映画はとても印象に残っていて、大変好きで未だにたまに観たくなる。
若い男の子にとっての恋愛、女性が恋人に一生求め続ける心づくし、人が人を好きでいる間に起こる悲喜こもごも。そういう全てが‘シュガー’と‘スパイス’で、その切なさをとてもよく描いているとおもうのです。あの映画の沢尻エリカの可愛さときたら!



さて、最近また思うところがあってこの本を読み返してみた。
一番好きな作品、「間食」。最高に最低な男の子の恋愛を書いていながら、読み進めるとどうしても愛おしくなってしまう。

この作品の何が素晴らしいって、恋愛したときに立ち上る‘いつくしむ、可愛がる、愛情を注ぐ’という目一杯はみだすような感情の表現。本当に上手。
主人公が年下の女子大生・花ちゃんに対して思う、とにかく可愛くて可愛くて仕方ない、食べてしまいたいくらい愛おしいという可愛がりの感覚。
自分は女性だからその全てをまま共感することは出来てないのだろうけど、それにしたってこの気持ちはよくわかる。
よくわかるからこそ、その愛情がどんなにいびつで二股かけちゃってようが、どうしても主人公を憎むことが出来ないのです。



丸くてやわらかくてにこにこしていて、とにかく可愛い花。
デート中に中華屋さんの豚の人形を見かけて、「花に似ている」というと小さなポットが湯だったように怒って見せる。頬を膨らますのが愛おしくて、それをからかいながらなだめるやりとりがまた何とも微笑ましい。
もうここの表現だけで、この作品オールオッケーみたいなところがあるとおもったんだよな。




この作品で重要なのは寺内という主人公の同僚なのだけれど、これがまた素晴らしい。
誰かに可愛がられ、誰かを可愛がる、(主人公はその方向を完全に見誤っているけれど)人を愛するということは‘慈しむ’ことの重層なのだと思わされる。



この本を読んでいるといつも、食事がしたくなります。
1人でも、2人でも。
おなかすいたなー。



さすが大御所の長く読まれる短編集、と改めて感じ入ったのでありました。




風味絶佳 (文春文庫)

風味絶佳 (文春文庫)

2014-01-22

綿矢りさ「蹴りたい背中」

科学やテクノロジーが進歩すればするほど、それに伴う人間のこころをいかにしていくかという問題になる。
そのときに役立つのが、人文科学なのです。
理系分野が発展すればするほど、本来人文とは発展し必要とされていくものだということを断言します。

というようなことを、大学入学当時の学部長が言っていたのをよく覚えている。
文学は虚学というよくある説を否定するための言葉でもあったのだが、別に技術が進歩しなくても、その言葉の意味を強く感じることが最近よくある。



さびしさは鳴る。
耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。
細長く、細長く。
紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。
気怠げに見せてくれたりもするしね。


綿矢りさ蹴りたい背中」の書き出しは、これ以上も以下もない名文だと思う。
この言い回しにぴったりとはまる感情が、確かにある。
今この自分だけがこの孤独に在るのではないということを感じられるだけで、少し楽になろうとできたりする。



胸を締め付けるという筋肉の動きは、生きているうちにいったい何度あることなのかなー。



蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

2014-01-14

今一度「ナラタージュ」/島本理生

島本理生「ナラタージュ」で検索をかけてこのブログに行き着いてくださる方が結構多いようなので、
畏れ多くも再掲。


島本理生「ナラタージュ」 ※核心まで激しくネタバレ - ぶんかけいのひびのきろく


発売から結構経っているし、この記事自体を書いてからも結構経っているのですが、
紹介用リンクから本を購入してくださった方もいらして(初体験ですwありがとうございます)
やはりずっと読み継がれる作品というのは読み継がれるのだなあと。


わたしもちらと読み直しましたが、やはりあの独特の読後感と何ともいえない苦しさにまたやられてしまいました。
読むたびに響く言葉が違うんだけれど、今回は葉山先生の

「ただ、彼と一緒に居るほうが君は幸せだと思ったんだ。
僕はね、いつだって君が心配なんだ。
苦しんだり傷ついたりしないで生きているかどうか。
それが守られるなら僕の独占欲なんてどうでもいいし執着をみせないことを
薄情だと取られてもかまわない。」

この言葉がどーんときました。
薄情でかまわないと言えるほどの気持ちが、どれほど薄情でない愛情だったか。
今ならとても解る気がしたのでした。





ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)

2013-12-20

愛の夢とか/川上未映子

結構前に、未映子嬢「愛の夢とか」読了しました。
こういう感覚的短編が、この作家さんには合っている様な気がするよ。


いちばん好きだった、「アイスクリーム熱」。
なぜか頭の中で、主人公の女の子が読者モデルのAMOちゃんでドラマ再生された。アイスクリームだからか、と後から気付いた(AMOちゃんのブログの名前はあもすくりーむ)
でも、ちょうどそれくらいの年端の女の子の、勢いと高揚感の心持と若いゆえの(ほほえましい)軽薄さが、なんともこの作品の主人公とよく合うなあとも思う。


結局なんだったんだろう、と思う、瞬間的な浮ついた恋心。
アイスクリームのようにとてつもなく甘く、はかない時間の滋養。といえば短絡的すぎるかも知れないけど、でもこの若い恋愛の浮揚感覚みたいなものを、うまく表現していてとても好きだった。


そしてたぶん、この2人がもっと年齢を重ねていればきっとセックスしていただろうし、付き合うか否かは成り行き任せだけど、こんな乾燥した感じの緊迫感はなかったはずだ。
コミュニケーションの種類としては濃厚で交わり(身体的なではなく)の深いもののほうが断然いいはずなのに、実際深く心に刻まれるのは、友人以上の未遂に終わった関係のほうだったりする。
そういうことを、ふと思わされた。


余談だけれど、これを読んだときのシチュエーションが個人的にとてもいいものでした。
あの照明の感じとか時間の流れ方とか、なんというかすべて完璧すぎてこの先二度とないだろうなっていうくらい完全な幸福の状態を保った空間で読書をした。
他の人から観たらなんでもない場面だけど、わたしとしてはとても良い時間だったんだよなあ。
そんな補正もあって、この本はとても好きです。


そもそもそんな読書状態こそ、アイスクリーム熱的なものなのだけれど。



愛の夢とか

愛の夢とか

2013-12-14

ギャンブル/椎名林檎

今でこそ洗練されてきらびやかなイメージであるけれど、
出現当初の椎名林檎と言えばまるっきりの際物系解釈ばかりがされていました。
メンヘラ御用達と言うようなイメージも今よりずっと深かった。


体調を崩してしまい、そんな中聴く初期〜中期椎名林檎は特に染み入るものがある。
「平成風俗」を中古で安く買えたので、最近車の中でよく聴いています。


「この世の限り」はもちろん良い曲で思わず口ずさんでしまうのですが、なぜか今回いいなーと思ったのは「ギャンブル」だったよ。




帰る場所など何処に在りましょう
動じ過ぎた
もう疲れた
愛すべき人は何処に居ましょう
都合の良い答えは知っているけど

声を出せばどなたかみえましょう
真実がない
もう歩けない
灰になれば皆喜びましょう
愛していたよ
軽率だね




…そりゃメンヘラとも言われるだろうよ…w
と歌詞を読みながら改めて思ったが、やっぱり弱っているときとかは妙に染みてしまう。
軽率だね」のパンチ力と言ったら無い。


平成風俗(初回限定盤)

平成風俗(初回限定盤)

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