「『行政組織論』1のレポート」

 早稲田大学大学院社会科学研究科で、辻隆夫教授担当の『行政組織論』⇒をhttps://www.wnz.waseda.jp/syllabus/epj3041.htm?pKey=3912530000012007391253000039&pLng=jp&pPage=1受講していますが、そのレポートを掲示します。
講義 現代日本の行政
第2章 権限・権力・行動
担当:社会科学研究科 政策科学論専攻 三遊亭らん丈

〔はしがき〕
 本書はしがきに著者が記すように、“精緻に組み立てられた生涯職官僚機構と経済社会と(の)あいだに緊張関係を欠いてきたことが、今日の閉塞状況をもたらしているとの観点に立って、現代日本の行政システムの特徴を描き出す”のが、本書を通じてのモティーフである。

1 官僚制の権力としての規制権限
1 行政活動のエッセンス
 行政活動の中心は、各種の規制活動である。
 この規制活動は、民主主義政治体制のもとでは、行政作用法令(e.g.国家賠償法)を根拠として展開されなくてはならない。
 その際、強権的手段の発動が最小に抑えられた規制活動が、最も優れたものとなっている。
 その際規制法令は、規制内容を詳細に規定しているわけではない。
 なぜならば、規定で詳細を決めると、必ず規制活動の網の目から逃れることを工夫する人々を生み出すから。
 こうして規制行政活動に裁量の余地を残しておくことによって、官僚制は、行政処分の決裁機関である以上に、権力機関として社会的に振る舞うことができる。

2 許認可の類型と行政機関
 規制行政活動は、行政警察といわれ、日本の行政の中心をなしてきた。
 そのために、規制行政活動の多くは、それぞれの分野ごとに複数の許認可権限あるいは、行政処分行為の連鎖を形づくっているのが常態である。
そこで行われるのは法令の順守のために、たとえば、書類に記入する際、木曽を木曾と誤記しただけで受理しないといったこともある。
 この日本の規制行政活動を特徴づけているのは、許認可権限の多さのみではなく、内閣のもとの独任制行政機関によって担われていることである。
 またそれを官庁は、憲法65条を憲法41条の判断に従属させることなく、独立した条項として解釈し、それに公定力を持たせてきた。
 したがって、日本の規制行政活動では、独立行政委員会によるものはなく、内閣のもとにある独任制行政機関に担われてきた。
 このように規制行政活動が内閣の統括下にあるがために、下記のような問題が生じてしまう。
 一つは、規制行政活動が、行政権の絶対的優位を前提とした行政警察の伝統から脱却できない。
 もう一つは、当該行政機関の所掌する他の業務との一体性を強化し、規制行政活動の目的を不鮮明にしてしまう。
 ここから、「護送船団方式」なる命名がされた。
 こうして、独任制行政機関による規制行政活動は、行政機関と顧客集団との関係を切り離すことができず、逆にその一体性を強化する方向に機能してしまった。

3 規制活動の増殖とノンキャリア
 戦後日本の規制行政活動の原型を、戦間期における総力戦体制に求める考え方があるが、戦後日本における規制行政活動を法形式的にみるならば、行動ならびに言論の自由が法的に保証されているのが実状である。
 規制行政活動が、法律によって大枠を定められたとはいえ、肝心の法律は詳細に規定されているわけではなく、業界団体は行政指導の内容を操作しようとする。
 こうして行政指導に業界団体側が依存志向を強めることは、法的権限を有力な源泉としている官僚側の権力を、一段と強化することにつながる。
 ここに競争と介入の接合が、官僚制権力を増殖させた秘密が見出せる。
官僚制におけるキャリア組職員は、業界との許認可行為をめぐる接触において、ノンキャリア組職員をその任に当たらせることで、刑事事件責任回避の「安全弁」として、機能させているとみることもできる。

2 規制行政と行政指導
1 業界規制と規制方法
 許認可行政の形態を、大きく「資格試験型」と「採用試験型」に分類することができる。
「資格試験型」とは、資格に必要とされる知識・能力の要件を満たしていればすべての申請者に資格を認定することであり、「採用試験型」とは、申請を認容される者の総数があらかじめ定められており、多数の申請者の中からその総数分だけの適格者を選択するものである。
 この許認可行政に関する分類を用いると、産業分野に対してはそのほとんどが、「採用試験型」として経済成長期以来、展開されてきたが、昨今の規制緩和では、「資格試験型」への移行が特徴づけられる。
 ただし、官庁側が設定した許認可対象枠が、満たされない場合、官庁側は、相手に対して懇切丁寧な指導を加えることになり、規制行政機関と対象集団との関係を、一段と濃密なものとし、「官僚側に仕切られた市場」の形成を促してきた。

2 業界横断的規制と方法
 業界別の規制に加えて、業界横断的な規制活動も展開されてきた。
ただし、たとえば、労働基準監督署を例にとれば、すべての企業に立ち入り検査を実施することは、不可能である。
 また、立ち入り検査によって労働基準法制に反する事態が発見されても、即座に行政処分行為がなされることも少ない。
 それは、法令違反状態に対して行政罰を科すことが目的ではなく、一定の秩序の回復が目的であるので、それなりの妥当性を有している。
 しかし、業界規制の緩和が政治行政上の課題とされるなかで、業界横断的な規制活動に新しい手法を見出すことが必要とされている。

3 行政指導の概念と行政側の利点
 日本の規制行政活動の中心は、行政指導にある。
 行政指導とは、法令上の根拠にもとづかない官僚制の願望の表明であり、相手方の自発的な応諾である。
 その本質は、下記の3点に分類できる。
1)ある特定の目的の実現に向けて、特定の相手の行動を操作する、官僚側の行動。
2)その際、相手の行動操作を、「利益の供与」によってなされる。
3)行政指導は以上2点を中心とする、行政上の制度となっている。

 行政側が行政指導を行うのは、そこに利点を見出しているからである。それは、以下の5点ある。
1)行政の迅速性への期待と反応。
2)政令や省令制定といった従来型の行政裁量では救いきれない、状況の複雑化に対応したもの。
3)行政指導は、不作為への批判を回避することができる。
4)損害賠償請求の回避を図るため。
5)行政の対象集団を「常連客」として確保することができる。

4 行政指導と相手側の利点
 行政指導の相手側も、そこに相応の利点を見出しているからこそ、行政指導が機能するのである。それは、下記の5点挙げられる。
1)業界側は、消費者の批判を受けることなく、共倒れ防止の企業間調整を行うことができる。
2)業界側は、官僚制の蓑のなかに隠れることによって、共同行為が可能となる。
3)個別の企業についても利点が大きい。
4)個々の事業者にとっては、行政指導は、社会的信用の維持につながる。
5)行政指導の受け皿として業界団体を結成し、業界としての発展を指向することができる。

5 行政手続法の施行と許認可行政の改革
 経済のボーダレス化の進展に伴い、許認可行政に改革が求められており、その方向性には、次の2点が挙げられる。
1)規制行政活動の手続きの透明性を、高度に図る。
2)経済的規制から、市場横断的な社会的規制へと転換する。
 これらを受けて、行政手続法が1994年に施行されたが、同法にも下記のような、問題が含まれている。
1)書面主義の不徹底。
2)行政指導によって不測の事態の損害をこうむった際の救済手段が、定められていない。

6 事後チェック型行政と公正な競争
 行政分野横断的な規制緩和のうち、最も重要性が高く行政指導の基礎とされてきたのは、需給調整規制である。
 そのうえで考慮されなければならないのは、公正取引をいかに確保するかである。
 その際、公正取引委員会の組織強化が図られなければ、「自由な競争」は、「野蛮な競争」に変質しかねない。
 また、製品の安全や消費者保護については、規制行政機関から切り離すことが重要であり、経済行為の監視活動を担うNPO法人の組織化が必要とされる。
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