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2016-09-28 Wed

[]ガイバー×もふもふ×ポケモン〜須黒達巳『世にも美しい瞳 ハエトリグモ

世にも美しい瞳 ハエトリグモ

世にも美しい瞳 ハエトリグモ


表紙にものすごく惹かれて、この本を読みました。

上半分にある4つの球体は、タイトルにもなっている「世にも美しい瞳」ということになります。

ただし、これは正面の4つのみの写真で、ハエは全部で8つの目があるとのこと。(顔の横と後ろに小さめの目がある)話はズレますが、、岡目八目(傍目八目)という、「当事者よりも第三者の方が客観的に物事をみることができる」という意味の慣用句がありますが、こちらは「8つの目」ではなく、「囲碁の八目先が見える」という語源が主流みたいです。


さて、自分が、この「瞳」に惹かれた理由は、確かに美しいと感じたこともひとつの理由ではありますが、それ以上に「こ、これは、ガイバー!!」と思ったからでした。

強殖装甲ガイバー(10)<強殖装甲ガイバー> (角川コミックス・エース)強殖装甲ガイバー(11)<強殖装甲ガイバー> (角川コミックス・エース)強殖装甲ガイバー(16)<強殖装甲ガイバー> (角川コミックス・エース)


ただ、本を読んでみると、書いてませんでした、強殖装甲ガイバーのことは…。ハエトリグモのことがたくさん書いてありました。(当たり前ですが)

でも、毛がもふもふしているからでしょうか。大体の昆虫が気持ち悪く見える自分にとって、ハエトリグモが「可愛らしく見える」ということは、なかなかの驚きでした。(ちなみにもふもふ感が特に強いのは、ネコハエトリで、これも可愛いですが、国内ではカタオカハエトリという種類、外国では、派手なピーコックスパイダーのうちモノトーンのものがカッコ良くて好きです。

それだけでなく、本の一番最初に書かれている通り、家の壁を歩いているクモは、基本的にハエトリグモアダンソンハエトリ)だそうで、アレをよく見ると、こんな顔しているのか!ということにやっぱり驚きました。

身近にいた虫なので、親しまれ、江戸時代にはハエトリグモに虫を捕らせる「座敷鷹」という遊びがあったり、今でも行われるハエトリグモネコハエトリ)の相撲「ホンチ相撲」などの遊びがあるそうです。


そういったハエトリグモの「身近さ」という特徴から、この本は、「生態の説明」、「写真集的な部分」以外に、「ハエトリ観察入門」という章が設けられています。

ハエトリ観察の大きなメリットが「1か所でたくさんの種類を見つけることができる」ことです。例えば、著者の実家(横浜)近くにあるちょっとした散歩道では12種類を見つけることができました。

ハエトリグモは世界で5000種類以上、日本で100種類以上ということで、ポケモンGOで見つかるポケモンは世界で149種類、日本では142種類ということで、日本でのハエトリグモポケモンの種類は同じくらい。この感じからすると、1か所で12種類というのはなかなかのものです。

ということで、外にハエトリグモを見つけるのも楽しそうです。が、まずは、家の中にいるアダンソンハエトリを捕まえて、その瞳をじっくり観察することから始めたいと思います。

あと、こういう本を見ると、ちゃんとしたカメラを買いたくなりますね。


参考(過去日記)

写真集の感想を集めてみましたが、あまりトライしてないジャンルですね…。

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2016-09-25 Sun

[]日本を覆う静かな怒り〜吉田修一『怒り』(上)(下)

怒り(上) (中公文庫)

怒り(上) (中公文庫)

怒り(下) (中公文庫)

怒り(下) (中公文庫)

若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。犯人は山神一也、二十七歳と判明するが、その行方は杳として知れず捜査は難航して いた。そして事件から一年後の夏―。房総の港町で働く槇洋平・愛子親子、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不 詳の三人の男が現れた。 (Amazonあらすじ)


映画『怒り』の疑似体験

映画館で観た『ズートピア』で、『シン・ゴジラ』で、『君の名は。』で、ずっと気になっていた映画『怒り』の予告編。

映画を観るかどうかは別として、期待が高まってきた今こそ読むべきと、本の方を手に取った。

よく、「観てから読むか、読んでから観るか」みたいなことが話題になるが、今回は、重要キャラクターの配役は頭に叩き込んでから小説を読むという面白い経験をした。自分は映画を観ていないが、予告編の記憶とカット写真から、頭の中で勝手に映画を構成して上下巻を本を読み切った。

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ちなみに、読書前に頭に叩き込んだ配役は以下の通り。

千葉編:槙洋平(渡辺謙)、槙愛子(宮崎あおい

東京編:藤田優馬(妻夫木聡)、大西直人(綾野剛

沖縄編:小宮山泉(広瀬すず)、田中慎吾(森山未來

どの役も、読んでいると、小説で描写される人物イメージが膨らんで、俳優のイメージから離れていくが、特に、愛子については、小説内ではもっとふっくらした体形だったため、乖離が大きかった。が、ときどき、「この人は宮崎あおいなんだ」と思い出し、イメージを強制的に戻すと、しばらくは宮崎あおいのままで読み進められた。

また、ほぼ主役である漁村の親父・洋平については、小説内では弱気で、渡辺謙では合ってないように感じていた。しかし、撮影現場を見た吉田修一によれば、「世界のケン・ワタナベ」のオーラを一切消しただけでなく、この漁村で辛抱強く生きていた男のオーラを完璧に纏っていたということで、「読んでから観る」自分にとって、映画の大きな見どころの一つだと思う。

妻夫木聡綾野剛松山ケンイチ山本未来という男性陣は、そのままのイメージで小説を読み進めることができたが、やはり気になるのは、広瀬すず。「あの場面」がどのように演じられているかで、この映画の価値が変わってしまう。最も演技が必要とされる登場人物なので、彼女を見るためにだけ映画に行ってもいいかもしれないと思った。

以下ネタバレ

続きを読む

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2016-09-24 Sat

[]人はなぜ戦い続けるのか〜神谷和宏『ウルトラマン「正義の哲学」』


この本を読んだ経緯

そもそもこの本を読もうと思ったのは、アニメTIGER&BUNNY』がきっかけです。

この作品を見るまで、あまり意識してきませんでしたが、自分の中には「ヒーローものはこうあるべき」という明確な基準があり、タイバニはそれをクリアできていなかったことが、本当に大きかったのです。「辛口」だと前置きしてはいましたが、アニメの感想に「誠実さを感じられない」とまで書いてしまった自分自身に少し驚きました。

この感想の中で、多く例として挙げたのは仮面ライダー(平成ライダー)でしたが、自分が「ヒーローもの」に必須な条件として考えていた「正義」の問題を、そのままタイトルとしている、この作品『ウルトラマン「正義の哲学」』が目についた、というわけです。


事前予想を裏切る傑作

とはいえ、自分はそれほどウルトラマンに思い入れがありません。子どものときは、家にソフビ人形もありましたし、ウルトラマン80は本放送を、初期作品も再放送である程度見ていた覚えがあります。

ただし、やはり年齢的に子ども過ぎてそのメッセージ性について考える機会はなく、大人になればなったで、平成ウルトラマンは何となく子ども向けのもの、として全く食指が動きませんでした。

(逆に、自分が平成ライダーに惹かれたのは、オタク性を自覚し始めた中学生の頃に『仮面ライダーBLACK』『仮面ライダーBLACK RX』という作品を見ていたのが大きかったように思います。)


一方で、ウルトラマンやウルトラセブン、ウルトラQについては、その社会派な内容について、たびたび話題に上るので、何となく食傷気味で、また「そっち系」の話かなという警戒がありました。

いや、言っていることが正しい正しくないではなく、昔のウルトラマンは凄かったんだ、どや!みたいなのは読みたくないなあ、という不安がありました。

しかし、それらの不安や警戒は見事に裏切られました。


そういった自分の事前予想を踏まえると、この本で良かったのは、以下の点です。

  1. 初期作品だけでなく、平成ウルトラマンが多く取り上げられている
  2. 取り上げられる多くのエピソードについて、それぞれのあらすじを知った上で、作品の評価をすることができる
  3. 最後のまとめ(第7章 『ウルトラマン』正義実現へのメッセージ)でも、これまで取り上げたエピソードをおさらいしながら、シリーズ全体を貫くメッセージを改めて学ぶことができる

それぞれについて簡単に書きたいと思います。


1.平成ウルトラマンの扱い

この本の目次は以下の通りです。

【目次】

プロローグ

・「怪獣」から「kaijyu」へ

・日本特有のあいまいさとポップカルチャー

・『ウルトラマン』とは何なのか

怪獣映画の「祖」ゴジラ

第1章 「正義」と『ウルトラマン』

正義の味方 ウルトラマン登場

・血を吐きながら続ける悲しいマラソン

『ウルトラセブン』―第26話「超兵器R1号」(脚本・若槻文三/監督・鈴木俊継)

・「正しさ」を疑う

『ウルトラセブン』―第42話「ノンマルトの使者」(脚本・金城哲夫/監督・満田穧)

・ウルトラマンの正義

第2章 『ウルトラマン』の「科学」と「自然」

・ウルトラマンと「科学」

バルタン星人の過ち

・ウルトラマンが人間を倒す時

・科学への憧憬

・機械化=非人間化する恐怖

ほか

第3章 近代化する日本と『ウルトラマン』

・合理主義という正義

・文明的正義へのアンチテーゼとしての“ウー”

第4章 『ウルトラマン』に描かれた心の闇

・悪いのは誰か

・物言えぬ遺児の怨念

・裏切られる善意とウルトラマンAのメッセージ

・自己有用感と、すがる思い

第5章 反逆する大衆と『ウルトラマン』

ウルトラマンメビウス――大衆という脅威

・狙われた街、狙われない街

第6章 『ウルトラマン』とナショナリズム

・秩序という名のウルトラマン

・デラシオンという宇宙正義

怪獣使いと少年――虐げられる者

・戦争が怪獣を生む

・悲しみの沼

ほか

第7章 『ウルトラマン』正義実現へのメッセージ

・「原理主義」から「多神教」へ

・「他人の力を頼りにしないこと」――昭和のウルトラマンのメッセージ

・「与える者」から「与えられる者」へ――「光」の物語

・戦いは何のために?

『ウルトラマンティガ』――第38話「蜃気楼の怪獣」(脚本・大西信介/監督・川崎郷太)

・本当に武器を捨ててみる

・非戦の哲学

エピローグ

・果てなき「正義の味方」願望

・「正義」を求める心


第1章から第3章は、ウルトラQからウルトラマン、セブン、新マンと「予想通り」の品揃え。

しかし4章以降は、ティガ、メビウス、マックス、ギンガSなど、平成ウルトラマンのエピソードも多く紹介されます。

これらを読んで、ウルトラマンシリーズの「伝統」を強く感じました。仮面ライダーシリーズは、何だかんだ言っても好きなように作っているように見えて、キャラクターデザインに特に強く表れていますが「過去作品からの逸・破壊」を常に目指しているように感じていました。(10月から始まる仮面ライダーエグゼイドのデザインがまた凄いですが…)

それに比べると、ウルトラマンは、先輩方から受け継いできたものを、どう形にするか、という部分を大事にしているように見えました。

特に同じ敵の出てくるエピソードは、音楽でいう「カバー」や「アンサーソング」的な内容が見て取れ、こういう部分はファンにはたまらないだろうなと思わされます。

勿論、テーマ的な部分、特にラストの持って行き方については、各シリーズごとに工夫が凝らされているようで、そこにも興味を惹かれました。特に6章で詳しく書かれるウルトラマンコスモスのラストの「これまでの『ウルトラマン』シリーズの最終回の慣例にはない異例の展開」(p150)には驚き、ここまでしっかりお話しを作ってあるのだ、と感心しました。


2.各エピソードのあらすじ

この本の構成が少し変わっているのは、本の成り立ちに関係があります。作者は公立中学校の国語教師で、年に数回程度「ウルトラマンを題材にした授業」を行い、それがこの本のもとになっているのです。

したがって、読者は授業で行っているように(授業では、「教材」を見る前に、テキストで音読させる場合もあるようですが)、各エピソードの内容について、しっかりと鑑賞した上で、作品のテーマや主張について考えていくことになります。

いわゆるオタク的な文章の場合、元ネタが(今さら説明するまでもないことと)最小限の内容でしか紹介されないことが多いため、この形式は自分にはとてもユーザーフレンドリーな、読者に優しい印象を受けました。そして、このお膳立てがあるので、国語の授業を受けるように、作品テーマについて考えることが出来ます。

ウルトラマンメビウスのクライマックスについて要所を踏まえて紹介される第5章も、メビウスというウルトラマンの位置づけも含めて、非常に分かりやすく紹介されていました。


3.最後のまとめ

この文庫版は、2011年に出た本(『ウルトラマンと「正義」の話をしよう』)に大幅な改訂増補を加えたものということもあって、構成が非常に練られているように思います。その中でも、それまでの章の内容を振り返って「ウルトラマンからのメッセージ」として再整理した7章のまとめ方は素晴らしいです。

『ウルトラマン』シリーズでは、現実を生きる私たちに対して、平和や調和を目指すいくつかの策が提示されています。それは『ウルトラマン』シリーズの作家たちが論じた平和論であり、作品が成立した時代の諸問題に即応した平和論でもあります。p192

最初に、ウルトラマンが説く正義実現へのメッセージとして2つが挙げられています。

一つ目は「多様な価値観の共生」。

ウルトラマンは、自己の正義に懐疑的で、「人間寄りの正義」一辺倒になることなく、他者(怪獣)の存在価値を認める存在です。それだけでなく、ウルトラマンガイアに出てくる二人のウルトラマン(ガイアは人類の味方、アグルは地球の味方)、また映画ウルトラマンコスモスVSウルトラマンジャスティスという、「信念の異なる二人のウルトラマン」が登場し、価値観の異なる多様な正義が(どちらが勝つかではなく)収束していく様子が描かれます。また、コスモスメビウスの最終回は、そのような「共生」に力点を置いたものになっているようです。

二つ目は「他人の力を頼りにしない」=「自分がヒーローになる」ということです。

昭和のウルトラマンシリーズは、最終回でウルトラマンの力を借りずに怪獣を倒すという傾向があり、平成ウルトラマンでもやはり人間の力を合わせることの重要性が説かれています。


これらのメッセージを踏まえて、最後に「人はなぜ戦い続けるのか」をテーマにして、ウルトラマンティガ第28話「うたかたの…」、第38話「蜃気楼の怪獣」、ウルトラマンマックス第15話「第三番惑星の奇跡」を取り上げ、最後に、ウルトラマンの正義の本質には、戦いによらない解決、つまり「非戦」があると説きます。

「正義」という概念は皆が「正義」であれば生じ得ず、相対となる「悪」があって初めて成立します(強引に正義を名乗ろうとすれば、自分と立場の異なる者を悪とみなす危険な”鬼ごっこ”になり得ることは前章で述べたとおりです)。となれば、正義が先なのか、悪が先なのか…この問いに目を向けたのが、『ウルトラマンティガ』第28話「うたかたの…」です。 p206

イルマ隊長のいう「なぜ怪獣は出てくるのか」の問いに図らずもマユミは答えています。「あいつらは敵だ」という視線こそが、敵を生み出すのだと。 p210


自分は知らなかったのですが、このようなヒーロー物ではお約束の疑問「なぜ怪獣は日本ばかりを襲うのか」に対して、既にウルトラマンレオの時点で「レオがいるから怪獣が来るのでは?」という懸念が作品内で描かれていたと言います。

ウルトラマンティガの「うたかたの…」は、まさにそのようなテーマを扱った回だというのです。


「非戦」という言葉は、「お花畑的」なキーワードで、、理想論としてはあり得ても、国防という視点からは現実離れした言葉と言えるでしょう。

しかし、この本では、超人的な存在であるウルトラマンからのメッセージとしてそれが伝えられるため、素直に受け取ることが出来ます。

また、エピローグで語られている通り、中庸の視点に立つということを大事にするとすれば、決して「イエス」ではなくても、絶対に切り捨てることの出来ない概念が「非戦」だとも考えられます。

「イエスなのか、ノーなのか」ではなく、「なぜイエスとノーにわかれるのか」「イエスとノーの距離感や、その落としどころはどこだろう」という視点を持つことが、「中庸」「中道」の立場に立つということであると思います。 p228


7章のラスト近辺でも引用されている「平和のための戦いはない。平和のためには許すしかないのだ」という信条を持つ市川森一さん。彼の手掛けた最後のウルトラマン作品であるウルトラマンAの最終回で、少年たち、そして地球の人々に残すメッセージにも、やはり「非戦の哲学」が貫かれているように思い、これを最後に引用して文章を締めたいと思います。

自分たちは、ウルトラマンからも正義を、平和を学ぶことができる。それは信念のある作り手が、作品にメッセージを込めて、受け手がしっかりとそれをキャッチすることによって成り立つ。

観る側、読む側にこそ、そういったメッセージを受け取るための努力が必要なのだと改めて気づかされました。

これまであまり見てこなかったウルトラマンですが、この本で取り上げられているものは、出来るだけ機会を作ってたくさん見たいと思います。

優しさを失わないでくれ。弱いものをいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえ、その気持ちが何百回裏切られようとも。それが私の最後の願いだ。(『ウルトラマンA』第52話「明日のエースは君だ!」


参考(過去日記)

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2016-09-21 Wed

[]世の果て 地の果て そんな生易しいものじゃない〜おざわゆき『凍りの掌』

凍りの掌

凍りの掌


シベリア抑留」という言葉を自分が知ったのは、どこだっただろうか。

小中高の歴史の時間に知ったのではなく、もっとあとに日ロ関係の政治記事かなんかで初めてその言葉を認識したのかもしれない。それでも、その言葉の意味するところは全くわかっていなかった。何となく「戦争が終わったあと、シベリアに留まらざるを得なくなった人がいた」という程度のイメージでしかなかった。

そんな自分にとっては、忘れられない、そして忘れてはいけない読書になった。


感想

「これは辛い」と、読んでいて思うことの多い漫画だ。

まず何よりも、1945年8月15日という、「終戦の日」として覚えている年月日のあとから始まる話だというところがキツい。

第二次世界大戦を描いた話であれば、辛いことはあっても1945年8月を境に光が見えてくる、と考える。むしろ、これまでの歴史を知る21世紀人としては、「どん底」から上向いて行く時期だと捉える。

しかし、「終戦の日」を、ソ連と対峙する北満州で迎えた主人公が、何度も「ここでダモイ(帰国)か」とぬか喜びしながら、アムール川を越え、北へ北へと行進を続ける序盤は、それだけで絶望的だ。


そしてギヴダ収容所での終わらない炭鉱掘り。

ここでの寒さと空腹の描写もこたえるが、死人が出たとき、貴重だからと服をすべて脱がしてしまうというのが辛い。そして、固い地面を枯れ枝を燃やして溶かしながら穴を掘り、直に遺体を置き、スコップで土をかけていく一連の流れは、本当に辛過ぎる。

数で言えば、数万人が、そのような形で、シベリアの地で今も眠っているのだろう。


その後も繰り返される、寒さ描写

炭鉱は穴の中は暑かったというので、その後始まる石炭の露天掘りの話が特にキツイ。

これは本当に

言葉で表せないほど

厳しい作業だった


マイナス40度なら作業は控えられたが、

マイナス30度なら外に出された

マイナス10度、20度なら暖かく感じるほどだ

マイナス30度は本当にきつかった


凍傷で指を切り落としながら、いつ終わるかわからない作業を延々と続ける抑留者たち。

「世の果て 地の果て そんな生易しいものじゃない」」という言葉、そして、時折挟まれる絶望的な見開きページが、読む側の心も暗くして行く。


その後、主人公は、健康面を理由に「地獄のギヴダ」から出され、ライチハ収容所に。

そこからは、風呂に入ったり日本人の技術がロシア人に評価されたり、人間らしい暮らしを取り戻していく。

それと入れ替わるように、日本人同士の人間関係の問題が、「アクチブ」という形で顕れてくる。

凄惨な「吊し上げ」シーンは、ギヴダ収容所とは全く別の辛さ・キツさだ。

漫画の中では「アクチブのみならず日本人による日本人への私刑・体罰はあちこちの収容所で繰り広げられていた」と書かれ、吉村事件(吉村隊事件)のことが挙げられている。

少し調べると、「翔んでる警視」シリーズの胡桃沢耕史直木賞受賞作『黒パン俘虜記』が、まさにこういった事件をテーマにして書かれた小説だという。これは是非読んでみようと思った。

黒パン俘虜記 (文春文庫 (402‐1))

黒パン俘虜記 (文春文庫 (402‐1))


無事、ダモイ=帰国することができたシベリア抑留者たちだが、帰国しても新たな壁が立ちはだかる。

帰国後、抑留者たちは、補償金が出なかったり、「アカ」だからということで就職が出来なかったりしたというのだ。

「あちこちの収容所」で繰り広げられたという私刑の話、そして帰国後の仕打ちの話は、それが日本だからこそ、日本人だからこそ起きた不幸なのかもしれず、元々のシベリア抑留本体の問題とは別の視点で考えていかねばならない問題だと感じた。


何よりこの漫画の一番の特徴は、作者が自分の父親から聞いた内容を漫画にしているという点。

漫画の中でもところどころで現在の顔を見せる父親。資料を調べるだけではなく、実在の、しかも自分と血のつながりのある人から、地獄のような生活の話を少しずつ聞いていく、というのは、相当大変なことだろう。

それを、漫画的表現も上手く加え、話のテンポにも気を使いながら、しかも読みやすくまとめたのは、本当にすごい。

本編とあとがきの間に、ちばてつやの文章が挟まっているが、まさにその通り。語り継がなければならない、忘れてはならない人々の暮らしが、この漫画には詰まっている。

『凍りの掌』刊行に寄せて

             ちばてつや

暖かく、やさしいタッチの

マンガ表現なのに

そこには「シベリア抑留」という

氷点下の地獄図が

深く、リアルに、静かに

語られている。

日本人が決して忘れてはいけない

昏く悲しい66年前の真実

次代を担う若者たちには

何としても読んで貰いたい

衝撃の一冊


同じ作者が、母親の名古屋空襲体験を題材に描いたというこちらも是非読んでみたい…

あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス)

あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス)

あまのあまの 2016/09/20 02:11 こんばんは。辛いこの手の漫画も読むきっかけはなんだったのでしょうか。この辺りのこととか教育の場ではほんと教えられてきませんでしたよね。自ら学ばないとならないことではあるのでしょうけど。もう今となっては体力気力がついていきません^^;

rararapocarirararapocari 2016/09/21 22:44 コメントありがとうございます。

「この手の本」を読むきっかけはいくつかあります。
まず、こういった戦争をテーマにした本は、最近少し増えている(売れている)印象があります。
特に、こうの史代の作品はいずれも売れており、『この世界の片隅に』は11月に劇場版が公開となります。それ以外にも若い漫画家が読みやすい絵柄で戦争について描いた漫画がいくつか出ています。
「流行りもの」には乗っておきたいです笑

あとは、やっぱり政治的な部分は大きいですね。
ここ数年、改憲関連で、戦争反対だとか国を守るだとか、意見が交わされていますが、左右どちらについても、過去の戦争についてよく知らないままに、そういった意見を戦わせてもあまり意味がないような気がしてます。
もちろんそれと合わせて現在世界で起きていることにも目を向けなくては、という気持ちは持っています。
そういった義務感があっても、やっぱり難しい本は読み辛いので、漫画のような手に取りやすい形式のものはありがたいです。
今は少しだけ「義務感」が強いので、他の本(漫画)もたくさん読みたいです。

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2016-09-18 Sun

[]ポケモンより菊門〜町田康『ギケイキ』

ギケイキ:千年の流転

ギケイキ:千年の流転

ギケイキ 千年の流転 試し読み増量版

ギケイキ 千年の流転 試し読み増量版


初の町田康作品。

これまで読もうと思いつつ、後回しにしてしまっていた町田康

今回、読もうと思ったのは知人のプッシュ(ビブリオバトル経由)があったことと、歴史絡みだから。

やっぱり、苦手苦手とは言っても、40も過ぎたし、年齢相応に日本史、特に名勝史跡などとの結びつきが強い地域の歴史にもっと詳しくならないといけないと思っているのだ。

「この場所は平安時代に〜という人物が〜をしてから、このような地名で呼ばれるようになったらしいよ。えっへん。」とか、そういうことを言いたい。


源義経が主人公の軍記物語『義経記』(南北朝〜室町時代に成立)に、町田康が挑んだ本作『ギケイキ』は、そんな自分のニーズとぴったり合う。

そんな下心で読み始めたが、(聞いてはいたけれど)その独特の文体にどんどん転がらされて、あっという間に京都平泉間を往復して、兄・頼朝に会いに伊豆に行くラストまで読んでしまった。

冒頭の文章からしてこうだ。

かつてハルク・ホーガンという人気レスラーが居たが私など、その名を聞くたびにハルク判官と瞬間的に頭の中で変換してしまう。というと、それはおまえが自分に執着しているからだろう。と言う人があるけど、そんなこたあ、ない。

ここもそうだが、物語の語り手は、現代の日本を知る源義経。

したがって、義経の主観シーンは勿論、義経と出会うまでの弁慶や、この巻では出会うことのできなかった頼朝軍の様子まで、基本的には、義経のテイストが出る。(ただ、会話文が多いので基本的には登場人物の感情が直接出ている部分が多い)

  • はっきり言って武芸の練習などというものは反復訓練である。同じことを飽きずに何度も何度も繰り返す。それが一番大事だ。そのためには練習をする場所は近所である必要があって、東武東上線に乗って池袋で乗り換えて渋谷まで行き、そこから田園都市線用賀まで行き、住宅街を二十分歩いて練習をしに行く、というのではなにによらず上達はしない。(p16:義経の持論)
  • なんといっても比叡山はメジャーだ。メジャーもメジャー大メジャーだ。(略)しかし、独力で僧として立つ、ということはそれらをすべて失うということ、つまり、インディーズ系の僧としてやっていく、ということだ。これははっきり言ってつらい道だ。(p239:弁慶の立場)
  • (略)館山市内から当時、真野といったあたりを通り、小湊というところで川を渉って、また、部下がネガティヴなことを言い出しそうな雰囲気だったので、那古観音にお参りしたが、あまり効き目がなく、案の定、「もう駄目だ」とか、「最近、亜鉛が不足気味だ」とか「歩きづめで膝が痛い。皇潤を飲みたい」などと言い出したので、慌てて近所に明神がないかと探したら…(p312:頼朝軍の様子)

全編がこんな感じで、文章を読むのが楽しい。

内容が面白い、というのではなく、「文章を読む」のが楽しい。

この物語の義経はいわゆる美少年なので「菊門」をつけ狙われていたみたいな描写も頻出して、下らなくて最高だ。


また、設定として、義経が、いわば超能力(スタンド能力?)を身につけているというところが、コミカルな演出を引き立てる。

具体的には、人に見えないくらいのスピードで動くことのできる「早業(はやわざ)」がそれだ。この能力によって、義経は、(悟られずに人のすぐ近くに行けるため)ほとんどの場面で「盗み聞き」が出来る。それによって敵の意図を事前に察知し、さらに先手を打てる。

勿論、早業によって早く動けることは、フィジカルな戦闘場面で最も威力を発揮し、さらに義経は物語の中盤で登場する「六韜(りくとう)」という全六巻の書物を読んだことにより、空中でジャンプするような魔法じみた能力まで手に入れる。

ただ、あまりの速さが災いして、平泉から頼朝に合流しようと東北から関東を抜けて伊豆に向かう場面では、多くの脱落者を出すことになる、ここでの弁慶とのやり取りも落語のようだ。

「なんですか、この気ちがいじみたスピードは」

「加減したんだけどまだ速いかな」

「速いどころではありません。こんな速度で駆けたら板橋に着く前に全員、死にます」

「ええ、マジい?でも、それを防止するために秀衡さんに、それだけはお願いして、名馬中の名馬を集めてもらったんだが、それでも駄目ですか」

p336

板橋でも頼朝に合流できなかった義経・弁慶らが次に向かったのは府中の六所明神大國魂神社)だという。義経は全国津々浦々いろんなところに名前を残しているが、大國魂神社にそんな話があるのは知らなかった。今度、大國魂神社に行くときはそういうことを踏まえて行こう。そして子ども達に「えっへん」と地域の歴史を語ることにしよう。


なお、何度も語り手の義経から注釈が入るが、「あの頃はいまと違って、神威・神徳というものが普通に存在していたし、祈祷なんかがはっきりと現実に影響を及ぼしていた。きちんと呪詛すれば人は死んだし、祈りによって天文気象をコントロールできた(p170)」のだという。そう思うと、神社仏閣の大切さがさらに増幅して感じられる。これからは、ただ、ポケモンを探しに行く*1というのではなく、そういう神威・神徳をイメージしながらお寺や神社をお参りしたい。


ということで面白く読み終えたのだが、終盤は、源氏に味方する者として多くの武将の名が登場するので、少しこんがらがった。そのあたりについては、「学習まんが少年少女日本の歴史」で復習してから改めて読み直したい。


さて、次に読む町田康。勿論、この続きも楽しみだが、大量にある著作の中から何を読もうか悩むのも楽しい。

よく聞く『告白』にするか、芥川賞受賞作『きれぎれ』にするか、はたまた、田島貴男*2が以前薦めていたこれにするか。

ミュージシャン・俳優・作家・詩人と、マルチな才能が溢れまくりの町田康。物語=嘘を書き続けることに疲れた作家の〈僕〉が、本当のことだけを書く〈真実 真正日記〉をつけはじめるという本作。脱力感と滑稽さ、特異な文体と型破りな構成。そんな彼の持ち味は、自らのパロディ? ……などをはじめとした、読者 のあらゆる〈読み〉をするりと抜ける。

第9回 ─ 月刊太田・ダンディ食堂〈特別編-第4回〉 ゲスト:田島貴男(オリジナル・ラヴ)|タワーレコード

告白 (中公文庫)

告白 (中公文庫)

きれぎれ (文春文庫)

きれぎれ (文春文庫)

真実真正日記 (講談社文庫)

真実真正日記 (講談社文庫)

踊る太陽

踊る太陽


参考(過去日記)

⇒過去に、義経と弁慶が出てくる話では、これを読んでいました!そういえば『ギケイキ』では、まだ平清盛がちゃんと出てきてないですね。

*1:これを書いている2016年9月はポケモンGOが大ブーム。自分も知らない土地に行くと、まずレアなポケモンがいないか探してみます。

*2オリジナル・ラブ『踊る太陽』収録の「こいよ」では町田康が作詞を手掛ける

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