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2016-06-23 Thu

[]来年は「館」シリーズ30周年〜綾辻行人十角館の殺人

十角館の殺人 (YA! ENTERTAINMENT)

十角館の殺人 (YA! ENTERTAINMENT)

大学生の頃はミステリばかり読んでいたように思う。

その中でも、この『十角館の殺人』は、綾辻行人の代表作だけあって、とても強く印象に残っているし、「新本格」という言葉が出てくるときに真っ先に思いつく作品でもある。


小学6年生のよう太は、小学校に入る前から名探偵コナンが好きだったので、当然ミステリ好き。少年探偵団シリーズは1年生から読んでおり、ホームズやクリスティ児童向けのものは読んでいる。いずれ自分がよく読んだ新本格も教えてあげようと思っていたが、もしかしたら内容が、ゲームでいうCERO(表現内容による対象年齢制限)のレーティングに引っ掛かるかもしれない、と躊躇していた。

しかし、(小学生に人気のある)はやみねかおる『都会のトム&ソーヤ』のシリーズと同じ講談社レーベル「YA! ENTERTAINMENT」に、この本が入っていることを知り、それならば、と自分が読み直す前に、先に読んでもらった。


話はずれるが、この「YA! ENTERTAINMENT」レーベルでは、他に田中芳樹創竜伝』のシリーズが入っている。『十角館の殺人』の表紙は山下和美によるものだが、『創竜伝』は田島昭宇。自分はやはり天野喜孝でないと気持ちが悪いが、これも味があっていい。

十角館の殺人』は2008年9月で、『創竜伝』は2008年10月から2009年3月にかけて4巻まで出て、いずれも続刊がストップしている。おそらくレーベル方針が変わってしまい、新作のみを出すことになったのかもしれないが、どちらも面白いシリーズだったので、少し残念だ。

創竜伝 1 (YA! ENTERTAINMENT)創竜伝 2 摩天楼の四兄弟 (YA! ENTERTAINMENT)創竜伝 3 ≪逆襲の四兄弟≫ (YA! ENTERTAINMENT)創竜伝 4 ≪四兄弟脱出行≫ (YA! ENTERTAINMENT)


さて、読み終えたよう太の感想は「普通」。

金田一少年に似てるのがあるよね」などとも言われ、それはそれで納得の感想なのだが、自分は「館」シリーズでは断トツに面白いと記憶していたので、意外だった。

クラインの壺』を読ませたときも、自分の印象とギャップのある答えが返ってきたが、『クラインの壺』と比べれば、ちゃんと「本格」のツボをついた由緒正しき傑作のはずなのに…と思ってしまった。


これはちゃんと確認せねば、ということでこれまた二十数年ぶりの再読。

読んでみると、自分にはあまりないことだが、トリックをほぼ覚えており、その意味では驚けなかった。

と同時に、よう太がこの小説を評価できない理由がよく分かったのだった。


以下ネタバレ

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2016-06-15 Wed

[]ストーカー問題の真の解決とは?〜小早川明子『「ストーカー」は何を考えているか』

シンガーソングライターの女子大学生が、東京都小金井市ファンの男に刃物で刺された事件があり、これをきっかけに少しストーカー問題について勉強しようと考えて本を読んだ。


加害者治療の必要性

作者の小早川明子さんに興味を持ったのはラジオ番組がきっかけだが、そこで加害者に対するカウンセリングの必要性について説かれていたのが印象的だった。

本の中でも、残念ながら相談者が命を落としてしまった事例として挙げられた逗子事件での被害者の夫の言葉が胸に刺さる。

「もし妻が殺されず、相手も死なずに捕まっても、ずっと狙われたでしょう。生きるも死ぬも地獄、一生、隠れて生きるしかないのか?加害者の治療と更生がなければならないのでは……」p135


加害者側に実刑がついたとしても、被害者は安心できない。

つまり、刑務所に入っている間は「いつ出てくるのか」と不安に絶えず悩まされ、出てきてしまったら、いつ自分の居場所がバレるのか、いつ目の前に現れるのか、に気を病むだろう。

本文中でも、「ストーキング依存症者はバランスシート上の公平にこだわる」(p91)という話が出てくるが、自分が不幸になった分だけ、相手にも不幸を感じてもらわないと釣り合わない、と「ストーカー」が考えるのは容易に想像ができるからだ。


一方で、加害者側の心理的状況は、アルコールや薬物などの依存症に近いのかもしれないと思って読んでみたが、ストーカーは、相互コミュニケーションの不備(一方的な思い込みも含む)から依存が始まる点が、他の依存症とは大きく異なる。

小早川さんのところへの相談事例では、元交際相手か元配偶者を追い求める「破恋型」が8割を占める(p62)、ということで、*1むしろストーカー被害の加害者・被害者の関係になる前は、もともと心が通い合っており、何かがきっかけとなって、悪感情が増大していくケースが多い。その意味では、アルコールや薬物依存症と比べれば、コミュニケーションの具体的な問題点を突けば、依存症から脱出することは難しくないのではないか。

したがって、被害者側の不安を考えても、加害者側の病的な状況を考えても、ストーカー問題の解決は、警察関与による物理的なものではなく、加害者のカウンセリングが有効なのではないかということが書かれており、非常に共感できる。

この本の冒頭で小早川さんは次のように書いている。

私が考えるストーカー問題の真の解決とは、「加害者が加害行為を止め、相手との問題から離れ、自らの持つ根源的な動機(孤独や弱さ)や病態(依存症)に気づき、それらから解放され、新たな方向に歩き出すこと」です。p10


誰もが必要としている「特殊解」

解決を考える上で、この本で繰り返し使われるのは「一般解」「特殊解」という言葉。

ストーカー相手に対して「疑問」や「疑念」、「要求」を抱いていて、その回答を相手から直接得ようとして「追及」している。その現れがストーキング行為であるように私には見えます。

回答が得られないかぎり、ストーキングは継続します。乾いた人間が水以外のことを考えられなくなるように、周囲の一般的な正論、「一般解」には見向きもしない。「もっといい人を探したら」、「過去を忘れて前向きに生きれば」などとアドバイスしても意味がありません。彼(彼女)らが渇望しているのは、相手からの個別で具体的な回答、つまり「特殊解」なのです。p6


一般解」については、第7章で被害者から相談を受けた場合の対応についても取り上げ、以下のような一般解的なアドバイスは、実質的にはほとんど意味がないと厳しい言われ方をしている。(p189)

  • 経験論にもとづく、現状のままでも実現可能な、最も抵抗の少ない解決
  • 一時しのぎ、成り行きまかせ、様子見、分析にとどまる意見など、現状を変えることにはならないアドバイス
  • 距離を置いたら」「メアドを変えたら」「警察に相談したら」といったアドバイス

したがって、相談を受けた場合に取る態度は、以下(p191)のように「特殊解」を探る方向に向く必要がある。(すでに専門的なカウンセリングの範疇に入っている気がするが…)

1.何が起きたのか、時系列の話と背景となる人間関係を聞き出す。

2.何が一番問題なのか?

3.どうしたいのか?(離れてもらえばいいのか、処罰を求めたいのか、慰謝料をもらいたいのか、など)を聞く


少し話がそれたが、このように、加害者側も被害者側も、問題を解決するために「特殊解」を必要としている一方で、それでも、ついつい現状維持を前提とした「一般解」に向いてしまう弱さがあることも指摘されている。

こういった部分は、どんな人にも共通することがあるように思う。自分も「解釈の世界」にとどまるタイプなので、しっかり自分の「問い」を理解するようにしたい。

自分の気持ちに気づくというのは実は怖いことで、気づきたくないがために心理系の本ばかり読む人は大勢います。なぜなら、解釈の世界にいる限りは安全だからです。

しかし、気づきとは解釈ではなく、理解することです、つまり本当は「問い」を解くことではなく、「問い」を理解することが解決なのです。私と二人三脚で、こだわり続けている「問い」に対する解答(特殊解)を得て、そこで初めて本当の答えは自分の外側ではなく、内側にあることを理解できるようになる。その気づきは出産にも似て、助産師が必要です。私の仕事はそうしたものです。p170


嫌いな人問題と恋愛

なお、自分の中では、定番のテーマとなっている「嫌いな人問題」については、中学生くらいで、「人を嫌いになること」を掘り下げて教えた方がいいというのが最近の自分の持論だが、同じくらい、「人を好きになること」も真面目に教えた方がいいと思った。

本の中でも、ストーキングの被害に遭わないための予防策として「安易な出会いは避けること」「交際中に辛くなったら、早めに別れる気持ちを持つこと」(p187)が挙げられているが、特に別れ際を曖昧にしたことがストーカー被害の原因になっている事例が多いことがよく分かった。

また、別れを告げる前の段階で、交際していることそのものが相手(加害者側)の憎しみを増大させている場合もある。

見栄えのする相手を選びながら、自分にはないものを持っていることに日々劣等感が刺激されて傷つく。好きだけれど憎い、という当人も予想外の心理に陥ってしまう。(p64)

ということは、つまり、人を好きになることは、相手に委ねることでも支配することでもなく、相手の努力をサポートしつつ、自分も努力し前に進むという相互の自己実現が含まれていないと破綻してしまう。相手を信頼する気持ち、尊敬する気持ちが土台にあることを肝に銘じておかなければならない。

小早川さんは「恋愛をした責任は双方にある」(p195)と書いているが、まさにその通りで、相手が自分を嫌いになる可能性を認め、いつ「別れたい」と言われても、そういう相手の気持ちを尊重する程度に人間的に成熟していなければ、どんな関係からも容易にストーカー問題が生じうる。

そういう意味では、リアルな相手であれば、ある程度時間をかけて信頼関係を醸成する部分をすっ飛ばすサイバーストーカーの問題が進行が速いのも分かる。

自分の子ども世代は、リアルな人間関係とネット上の人間関係を並行して学んでいかなければならないだろう。

恋も友情も、両方で薪をくべないと消えてしまうもの。自分だけ一生懸命に火をおこそうとして、相手が応じないと文句を言うのは筋違い。(p71)


おわりに

実際には、ストーカーの分類や、現行のストーカー規制法の問題点、女性ストーカーについてや病態の分類、警察の役割とカウンセラーの役割など、多岐に渡る内容だったが、また他の本を読んだときに整理してみたい。

自分がこれからストーキングの被害に遭うということはあまり想定していないが、やはり子どもたちが遭う可能性は十分にある。「人を好きになること」は、とても素晴らしいことだが、人の感情は移ろっていくものであることをお互いが知った上で、相手判断をお互いが尊重できることが前提だ。そういう基本的な部分は、ちゃんと勉強していって欲しいし、折に触れて伝えていきたい。


参考(過去日記)


参考記事

A太のように、SNSでのやりとりで相手を好きになるケースは多い。リアルで知り合った相手でも、やりとりの大半がSNSということも多いようだ。SNS は情報が十分に得られる一方で、本心を隠すことも難しくない。自分側で関係性をコントロールしやすく、若者にとってコミュニケーションが“楽”なのだ。


インターネットの発達に伴い、人と人とが瞬時につながることができるようになり、私たちは多くの人と広く知り合うようになった。しかし、それがかえって本 来の人間関係形骸化し、無味乾燥なものにしている。表面的な知り合いや友だちはたくさんいるが、果たしていざとなった時に親身になってくれる人がどれだ けいるのか疑わしい。


言ってみれば、アイドリングの時代が長くって、なかなかドライブに入るっていうのに時間がかかったんですけど、このサイバーストーカーの場合は、そういった人間的な関係を持った背景がすごく薄いので、その動機の部分が非常に希薄なんです。

なので、欲求が入ったら、すぐドライブが入って、一気に悪化するというスピードの速さがやっぱり一番怖いですよね。

*1著名人を一方的に好きになる「ファン型」は、言葉としては使うが、実害が出ているケースはそれほど多くないようだ。ただし一方で、今回の事件のように、SNSなどでの知り合いにつきまとう、新たなタイプのストーカー:サイバーストーカーが増えているというのは気になる。https://mail.google.com/mail/u/0/?tab=wm#drafts?compose=1554f588ee04d4f6

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2016-06-11 Sat

[]女子はなぜ山に登るのか?〜鈴木ともこさん、鈴木みきさんのエッセイ漫画4冊

別々の作者による山登りエッセイ漫画を連続して読んだ。

しかも二人は偶然にも同じ鈴木姓。

同じジャンルのエッセイ漫画ということで比べて読んだが、方向性が全く違って面白かった。


鈴木ともこ『山登りはじめました』『山登りはじめました2』

山登りはじめました めざせ!富士山編

山登りはじめました めざせ!富士山編


まずは鈴木ともこさん。

鈴木ともこさんは、我が家で未だに根強い人気を誇る たかぎなおこさん*1の漫画にも登場しているようで、娘が「あ、この人、たかぎなおこさんの本に出てた人だ」と言っていた。(内容的に『マラソン一年生』の戸田マラソン?読み直してみます)

実際、たかぎなおこさんのエッセイ漫画に雰囲気はとても似ていて、「仲間と一緒に行く旅の楽しさ」という観点から山登りを紹介する本になっている。

鈴木ともこさん+編集・今尾さん、たかぎなおこさん+編集・加藤さんの4人での登山となった丹沢・塔ノ岳の回では、徹夜明けで参加し、テキーラを携帯するなど、(たかぎなおこさんの漫画ではおなじみの)加藤さんの変人っぷりが遺憾なく発揮されている。

また、何度かご両親が登場するのも、たかぎ漫画の雰囲気そのままだ。

ちなみに、大道芸人をやっているというお母さんが面白い。↓

f:id:rararapocari:20160604180520j:image


しかし、たかぎ漫画と一線を画す、この漫画の特徴は、山登りに同行する相手として、旦那さんが頻繁に登場すること。二人は当然仲が良いんだけど、かといって、イチャイチャを感じさせない、良いバランスになっている。

エッセイ漫画というジャンルは、イベントの楽しさを実際よりも数倍に増すのが得意だが、登山という危険を伴う趣味に対しては、楽し過ぎるガールズトークは似合わないということなのかもしれない。男の方が安心というわけでは勿論なくて、男女間の盛り上がりすぎない落ち着いた会話が登山の雰囲気に合っていると思った。


なお、2巻を読んで、やっぱり屋久島に行ってみたくなりました。


鈴木みき『あした、山へ行こう!』『悩んだときは山に行け』

悩んだときは山に行け! 女子のための登山入門

悩んだときは山に行け! 女子のための登山入門


そして、鈴木みきさん。

この人の作品は本気度が違って、エッセイ漫画では括れない、専門的な内容を多く含む。

『悩んだときは山に行け!』を読むと、この人が辿ってきた道がよくわかるが、24歳でカナダで山に出会い、それ以降、山の魅力にとりつかれ、山雑誌読者モデル(?)、山小屋勤務などを経て、『山と渓谷』で連載を持つような登山系イラストレーター

自身の豊富な経験から、とにかく「まずは一人で山へ行け」と怖いことを言う。山のことを知っているからこそ本のタイトル通り「あした、山へ行こう」という行き当たりばったりの決断ができる。

f:id:rararapocari:20160604180136j:image

フローチャートでは、大人のガイドツアー、山岳会、わいわい登山などの選択肢の中から「ひとりで行け」をシード権扱いにしてます・・・


一方で、山へ行くための準備や装備、ルート設定についても本格的というか、わかっている人のアドバイス。装備については、まずは必要なものを絞り込み、家にある代用品を探して、それでもなければ必需品のみ購入する。何度も行きながら買い揃えよう、という、とても説得力のあるアドバイスがそこかしこに溢れる。

「ひとり」をおすすめしているので、エッセイ漫画としてはワイワイガヤガヤ系ではなく、(勿論、山の仲間もたくさん出ますが)ひとりごとベース。『悩んだときは山に行け!』のタイトル通り、進路に、、恋愛に、個人的な悩みがちりばめられているのが面白い。


本格的に山に行きたいと思ったら鈴木みきさんの関連本を熟読しようと思いました。


総括〜登山の楽しみ

たかぎなおこさんや、キクニのマラソン漫画でも、最初に「なぜ、マラソンをするのか?」という話が出てきたが、鈴木ともこ鈴木みきの漫画でも「なぜ、山に登るのか?」という話が出てくる。

この答えとして共通するのは、達成感という部分があるが、登山の場合は、どちらも、(具体的に言葉で答えが示されるわけではないが)「自然との一体感」みたいなものが描かれている。マラソンよりも、もっと宗教的な感覚が、登山が人を惹きつける理由のようだ。

自分も大学のときに上った富士山で御来光を拝むことが出来たらもっと登山に惹きつけられたかもしれないが、自分のときは悪天候で何も見えず、「富士山なんか二度と行くかボケ!」と思い、それ以降しっかりした登山はしないままとなっている。

まずは高尾山から始めて子どもと一緒に山に登るのもいいなあ、と、今は思っています。

*1:小3の娘は、親戚のお姉さんに聞いたとでも言うような口ぶりで「たかぎなおこさんが〜〜って言ってたよ」と喋る

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2016-06-08 Wed

[][]短歌俳句関連作品の感想 目次

短歌俳句については、気がつけばときどき読んでます。どれも、とても楽しい。


穂村弘関連作品


枡野浩一関連作品


俵万智関連作品


その他

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2016-06-04 Sat

[]窓という窓から月は注がれて〜穂村弘×東直子回転ドアは、順番に』

回転ドアは、順番に (ちくま文庫)

回転ドアは、順番に (ちくま文庫)

ある春の日に出会って、ある春の日に別れるまでの、恋愛問答歌。短歌と、そこに添えられた詩のような断章で、男と女、ふたりの想いがつづられる。紡ぎ出さ れた言葉のひとつひとつが、絡み合い、濃密な時間を作り上げていく。短歌界注目のふたりによる、かつてないほどスリリングで熱い言葉の恋愛。文庫化にあた り、ストーリーに沿って1章ごとにふたりの自作解説を付加した。

二人の歌人による、いわゆるコラボレーション企画ということになるが、フィクションとして、しっかり筋のあるものになっていることに驚いた。後ほど、部分的に引用しながらストーリーを振り返るが、一応「ネタバレあり」な作品ということが出来るかもしれない。

短歌散文詩による盛り上がりは、なかなか他では得られないもので、金原瑞人による巻末解説の激賞ぶりがすごい。そして強気だ。

これは穂村・東の恋愛詩歌往復書簡(メール)を一冊の本にまとめたもの(らしいが、ふたりが実際にどのような関係であったのかは、後の研究を待つほかない)。ともあれ、一読したときから、妙に後ろ髪を引かれて、ついつい何度も読み返してしまった。

最初、ゆるゆると相手の反応をみながら行き来する短歌は、おどおどしていて、かわいらしい。ところが、しばらくするうちに、いきなり加速し、加熱し、轟音をあげ、言葉を巻き上げ、きりきりと螺旋を描き始め、短歌と詩がせめぎ合う。

(略)

言葉言葉言葉のつむぎあげる仮想宇宙の愛に不可能はない!目を見張るほど斬新で奇妙で切ない世界が広がっていく。こんな加速感、こんな浮遊感、こんな高揚感は、小説では決して味わえない。すごいなあと、感心する、あるいはあきれるほかない。作家よ、小説家よ、この作品を越える「サイバーラブ」の物語を書いてみろ!


以下、ストーリーに触れながら章別に好きな歌を抜粋。※ネタバレあり

(◆穂村弘 ◇東直子


1.遠くから来る自転車

◇遠くから来る自転車をさがしてた 春の陽、瞳、まぶしい、どなた

◆見詰め合うふたりの影の真ん中にちろちろちろちろちろ水の影

1章は二人のファーストコンタクト


2.青空くさいキスのはじまり

◇花ひとつ光においてながいながい昼寝のためにくちづけている

ズッキーニ齧りつつゆく海沿いの道に輝く電話ボックス

2章は出会ったばかりの二人の様子。キスは出てくるけどまだ初々しい。

穂村弘の解説によれば、初めてのデート(昼の部)。


3.月を見ながら迷子になった

◇終電を見捨ててふたり灯台の謎を解いてもまだ月の謎

◇永遠の迷子でいたいあかねさす月見バーガーふたつください

◆血液型刻んだプレート握りつつ 始発電車に河のきらめき

穂村弘の解説によれば、初めてのデート(夜の部)。

楽しそうでたまらない。


4.恋人のあくび涙

◇ゆびさきの温みを添えて渡す鍵そのぎざぎざのひとつひとつに

くちびるでなぞくかたちのあたたかさ闇へと水が落ちてゆく音

◇空よそらよわたしはじまる沸点に達するまでの淡い逡巡

◆恋人のあくび涙のうつくしいうつくしい夜は朝は巡りぬ

いやらしい章その1。

この章は散文は抑えて、ほぼ短歌のみで構成された高速回で盛り上がる。


5.虹になんて謝らないわ

◆食卓にTシャツ投げて睨み合う 風鈴の音だけがきこえる

◇喧嘩喧嘩セックス喧嘩それだけど好きだったんだこのボロい椅子

一転して喧嘩の回。大喧嘩。


6.SHOCK RESISTANT

◇わからずや風にくちびるとがらせる ふうふうあついお茶飲みながら

◆窓という窓から月は注がれて ホッチキスのごとき口づけ

◆冷蔵庫の扉を細く開けたままスリッパのまま抱き合う夜は

カマンベール・チーズしずかにとけてゆく脈打つ皮膚を布につつんで

いやらしい章その2。

雨降って地固まるとは言うが、この章が一番ドキドキする。

この時間が永遠であって欲しいと思う、そんな日々。


7.うわごとで名前を呼んで

◆俺の熱 俺のうわごと 俺の夢 サンダーバード全機不時着

◇うわごとで名前を呼んでくださればゆきましたのよ電車にゆられ

インフルエンザで苦しむ回。夏なのに・・・。


8. 、が生まれた日

◆バラ色の目ぐすり沸騰する朝 誰かのイニシャル変えにゆこうか

◇二人乗りのスクーターで買いにゆく卵・牛乳・封筒・ドレス

◇水かきを失くした指をたまさかに組みかわすとき沁み合うものを

プロポーズの回。6章の盛り上がりを見れば、当然の展開。


9.空転の車輪

◆指先が離れてしまう きらきらと四ツ葉のクローバーの洪水

◆空転の車輪しずかに止まっても死につづけてる嘘つきジャック

◇つぶしたらきゅっとないたあたりから世界は縦に流れはじめる

◇運ばれることの無心に揺れている花と滴とあなたの鎖骨

◇ぐにゃぐにゃのガードレールによりかかりちいさく歌う薄きくちびる

まさかこんな展開が待っているとは!!!驚きの9章。


10.ささやいてください

◇たいせつな写真が濡れてゆく夜を奏ではじめる小さな心臓

◇砂糖水煮詰めて思う生まれた日しずかにしずかに風が吹いてた

◇ささやいてください春の光にはまだ遠いけどきっと遠いけど

最終章のラストでは、生まれ変わっての再会も示唆されるけれども、やっぱり辛いエンディング。相手の死を受け入れようと努力する女性の姿勢が見える。


総括

久しぶりに読んだけど、やっぱり短歌は面白い。いやらしい。強い。

物語の欠けた部分を読者の側でパズルのように埋めていく状況もとてもスリリングでこのような連歌(あとがきでは「連々歌」と名付けているが)は、フィクションとよく合うことがわかった。

東直子さんは、毎回毎回、著作を読まなくちゃと思いつつスルーしているので、今度こそ、この本となにやら似た趣旨の「恋愛短歌イラスト往復書簡」である『愛を想う』を読んでみたい。

愛を想う

愛を想う


参考

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