Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

正高信男『ケータイを持ったサル』★★★☆

ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊 (中公新書)
大変面白く読んだ。一言で言えば、「現代日本人の変貌(サル化)」を「家のなか主義」「子ども中心主義」というキーワードで説明するという内容。
「家のなか主義」とは、私的空間から公的な空間に出ることの拒絶である。人間というのは、私的領域から外(公的世界)に出て、他者との交渉の中で自己実現を遂げる(ヒトになる)。とすれば、電車内で座り込んで化粧をする若者は、私的領域を拡大させ、関心をおくべき他者を無視するという点で、同じ群れの中で一生を過ごすサルに近い。*1
そういった「家のなか主義」は、家族の中での「子ども中心主義」によって助長された。特に、「子どものため」に何でもしてあげる母親(と、それを見過ごす父親)が、子どもの社会化を阻む原因となっている。というのが「子ども中心主義」の本書での位置づけ。
目新しい話はないものの、(2003年時点での)現代日本の若者を巡る話題(ケータイ、言葉の乱れ、ルーズソックス、ひきこもり、パラサイトシングル)を幅広く扱い、多くの人が心の底で感じていたものを探り出して言語化したような本だと思う。文章も構成も非常に丁寧につくられている。ゆえに、理解しやすい一方、「目から鱗」というタイプの本ではない。
また、著者は比較行動学を専門とするサル学者だということで、若者や主婦のコミュニケーションに関する仮説を検証するために実験を行っているのは本書の特徴かもしれない。仮説自体は、感覚的に納得出来るものではあるが、実験が結構いい加減で意図的。さらには、若者文化の突飛な解釈がいくつか散見される*2ため、この本を「トンデモ」と非難する人がいるのもまた頷ける。
その中で、僕が特に面白いと思ったのは、少子化を話題にした6章。この章では「家のなか主義」で育った新世代が親になる時代の特徴は「親になることの拒否」だとする。どうして少子化が進んでいるのか?何故、政府の少子化対策が実を結ばないのか?という疑問に対し、著者は次のように考える。

おそらく問題は、政府が考えているように身体的・時間的・金銭的な負担にあるのではないと私は思う。むしろ、もっと心理的な要因が。子を持つことを控えさせているのではないだろうか。
乱暴な表現だが、若いカップルにとってそれは「誰かについて全面的に責任を引き受けることへの恐怖」とでも表現できるかもしれない。あるいは「自分たちが依存される対象となることへの嫌悪」と言いかえても差し支えないだろう。

ここの部分については、読む人にとっては強い反感を覚える部分があるかもしれないが、自分のことを考えた場合、そういう気持ちは確かにあるなあと思う。陽太が生まれる前は特にそうだった。ただ、生まれてからは、親も一緒に成長していけばいいと開き直っている。
話を戻すが、そうした状況を鑑みて、少子化解決策として何をすればいいか、という問いに対する筆者の答えは、2つある。
一つは、「お産は30歳から」という意識を社会に定着させること、である。順序立てて説明するとこうだ。今の若者たちは、かつて16〜18歳に初産を迎えた段階まで精神的に成長するのに、30年以上を要する。ところが30歳をすぎてカップルが、さまざまな意味で安定し、本当に「子を持ってもいい」と感じ始めたとき、妻はすでに「高齢出産」と呼ばれる年齢になっている。しかし、今の医学の進歩からすれば、30代のお産は昔のようなリスクはなくなった。そこで心理的抵抗も無くしてやることが必要だ、というわけだ。
もう一つは、ラストの文章をそのまま引用するが、以下の通り。

それまでに教育のなかで若者が子どもが若者と接する機会を積極的に設けることも不可欠である。今のように幼い子どもと出会うことがほとんど無いままに育ってくる者に、突然に子を持て、と言っても、藪から棒に等しい。中学校・高校のカリキュラムをはじめ、社会活動としての保育活動への参加を奨励することが大切であろう。

正直、かなり共感できるところが多い部分だけに、この部分に対するさらなる言及をせず、「言い逃げ」みたいなかたちになってしまっているのが残念だ。
最近の日本社会に欠けている「思いやり」*3をはぐくむには、「弱者」とのつきあいが重要だという視点からも、そのようなカリキュラムは面白いと思う。

*1:現代の若者の捉え方自体がワイドショー的であるところは、この本の本質的な問題。そこはツッコミを入れながら読むべし。

*2:P12ルーズソックスの解釈。P74たれぱんだ(笑)の解釈。3章全体は若者のコミュニケーションを扱っており、納得出来るところも多いが、捉え方が一面的すぎる。

*3:また取り上げるが、先日の「日本の、これから」では、前面には出なかったが隠れキーワードであったように思う。

千葉県・茨城県での地震(朝8時の段階)

住宅密集地はあまりないところのせいか、震度の割には、今のところ大きな被害がなさそうで不幸中の幸いです。
今回の地震については、話題になっていた地震予報が当たってしまったのがちょっと怖いです。

●ただいま2日(土)午前零時ですが、観測地点は東京都内より、
昨日1日夕方ぐらいから、非常に大きい中規模以上の地震雲が発生しております。Mは6.0〜7.0ぐらい。明日以降の降雨によりMエネルギーが相当減衰されることを祈ります。
早ければ2,3日以内ぐらい、遅くとも来週8日、9日、10日ぐらいに起きるのでは? 最要注意です。

本当に今年は地震が多いです。自分自身も避難することまで含めて対策を考えておきたいです。