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最期まで自分を心配してくれる人間は誰?〜山本文緒『きっと君は泣く』

きっと君は泣く (角川文庫)

きっと君は泣く (角川文庫)

大学時代は、よく「本の雑誌」を読みながら、チェック作品を書き出してリスト化したりしていた。
その頃から読もう読もうと思って、縁の無かった作家も多数いるが、山本文雄はその中の一人。
今回、見開きの「著者近影」を見るまでの10年以上、男性だと勘違いしていたが、れっきとした女性。本作『きっと君は泣く』だけでなく、『パイナップルの彼方』『ブルーもしくはブルー』など、女性的なタイトルの作品を書く男性というギャップが、自分にとっての山本文緒の魅力の一端を担っていたから、「いい勘違い」なのかもしれない。
文庫版背中にある「あらすじ」は以下。

椿、23歳。美貌に生まれた女に恐いものはない。何もかもが思い通りになるはずだった。しかし祖母がボケはじめ、父が破産、やがて家や職場で彼女の心の歯車はゆっくりと噛み合わなくなってゆく。美人だって泣きを見ることに気づいた椿。弱者と強者、真実と嘘……誰もが悩み傷つくナイーブな人間関係の中で、ほんとうに美しい心ってなんだろう? 清々しく心洗われる、『あなた』の魂の物語。

「きっと君は泣く」というのは、読者が120%泣ける話とか、そういうのではなく、あらすじにあるように、イケイケだった主人公・椿が「泣きを見る」という話。椿はそれに気づくことで、表面的ではない友人や恋人を初めて得ていく。
中盤以降、中学時代からの腐れ縁である「グンゼ」と、祖母の入院先の若い医者「中原先生」の二人が椿のボーイ・フレンドとして頻繁に登場することになるが、ラストで勝敗が決まる所が見もの。自慢の祖母がいて・・・という出だしは『西の魔女が死んだ』を思い起こさせただけに、祖母がボケるという、椿にとって「死んだ」よりも残酷な展開は刺さった。
美容整形やHIVについての取り上げ方がやや古いため、嘘っぽい話になっているが、人間関係をどう紡ぐか、というテーマは普遍。性格や職業などの属性よりも、最終的には魂の結びつきに行きつく、といったところか。


なお、椿と犬猿の仲から距離を縮めていく看護婦の魚住(愛称・大魔神)は、その描写から漫画MAJORの主人公 吾郎が初めに入った高校・海堂学園2軍トレーナーでオカマの早乙女泰造を思い出した。あと、中原先生の声は、おでんくんのおでん屋のおじさんの声のイメージ。